立春をすぎ、寒さがつづくなかでも、少しずつ春のきざしを感じはじめるころ。
みずみずしく柔らかな、春のお野菜が待ち遠しくなりますね。
けれども実は、春先はお野菜の種類がぐんと少なくなる季節。四季折々のお野菜があって、春野菜もたくさん、とイメージされる方も多いかもしれませんが、お野菜の多くは夏か冬が旬。春、そして秋は、その種類が少なくなる「端境期」にあたります。
ここでは、春にお野菜が少なくなる理由、そんな時季こその工夫や楽しみをお伝えしたいと思います。
端境期ならではの工夫と楽しみ この時季だけのおいしさも 季節ごとのコントラストを楽しむ |
どうして端境期ができるの?
冬野菜は春が近づくと、花を咲かせるためにエネルギーを使いはじめます。花茎が伸びてくることを薹立ち(とうだち)といい、大根やかぶはスが入ったり、葉野菜はかたくなったりしてしまいます。こうなると、収穫もいよいよおしまいです。
冬野菜の旬が終わっていく一方で、春から初夏のお野菜、えんどう豆やそら豆、アスパラガスなどの収穫がはじまるのは、まだもう少し先のこと。
このすきまの時期を「端境期(はざかいき)」といい、3月から4月にかけては、とくにお野菜の種類が少なくなります。
栽培する時期をずらせば、春にも収穫できるんじゃないの? とも思うのですが、栽培が難しく、農家さんにも無理にお願いはしていません。
たとえば、大根を春(3月ごろ)に収穫しようとすると、種をまくのは通常よりも遅い晩秋のころ。すでに気温が低く、そのまま冬を迎えるので、根は肥大しづらく、またスも入りやすくなってしまいます。なかなか、人間の思いどおりにとはいかないものです。
端境期ならではの工夫と楽しみ
お野菜のバリエーションが極端に少なくなる端境期。季節を通して、坂ノ途中のお野菜セットを受けとっていただいているかたには、「最近なんだか、同じようなものが届くなあ」と感じさせてしまうかもしれません。
けれど、そんな偏りがあるのも自然のめぐり。お野菜といっしょに、季節に寄り添う食卓を楽しんでいただけたら嬉しいです。
端境期には、昔から豆や干し野菜などの乾物が、地域ごとの味で食べられてきました。坂ノ途中のお野菜セットでも、この時季になると乾物をお入れすることがあります。大豆や切り干し大根、あまり多くはありませんが紫花豆やとら豆といった豆も。
乾物は、ちょっと地味で、調理に手間のかかる印象が、もしかしたらあるかもしれませんが、この時季にこそ味わっていただけたらなと思います。基本を知れば調理は意外と簡単。定番の煮物のほかにも、カレーやスープ、マリネなど、いろいろなお料理で楽しめますよ。
また、少しでも変化を感じていただけるように、日本各地の生産者さんのお野菜を産地リレーでお届けする取り組みもしています。
たとえば、スナップエンドウやじゃがいも。
スナップエンドウは、暖かな気候を活かした栽培が行われる鹿児島では、1月から3月が収穫期。そこからだんだん北上し、中国・四国・関西などでは4、5月に旬を迎えます。
新じゃがいもは、鹿児島のなかでも離島の屋久島や種子島から、3月半ばに出荷がはじまります。そしてスナップエンドウと同様、暖かいところから順に出荷を迎え、長野や北海道の生産者さんのものまで、幅広くお届けしています。
冬のお野菜を惜しんで味わいつつ、少しずつお届けする春の味から、新しい季節の訪れを感じていただけたらと思います。
この時期だけのおいしさも
端境期といっても、旬のお野菜がまったくないわけではありません。
私たちも毎年楽しみにしている、春だけの味わいもあります。
葉つき玉ねぎ
新玉ねぎよりもっと早く、春がまだまだ待ち遠しい、1月中旬ごろから収穫がはじまるのが、葉つき玉ねぎ。
青々とした葉っぱの部分はねぎのように使えて(でもねぎほど辛みはありません)、下の白い部分は新玉ねぎのように使える。そんなちょっとお得感のあるお野菜です。
菜花
菜花は、アブラナ科のお野菜の花芽のこと。品種改良により、食用菜花というものもできていますが、冬のあいだじっと栄養をため込んで、春になったらいっせいに花を咲かせる、その直前の花芽を、昔から日本人は食べてきました。
アブラナ科の冬野菜──大根、かぶ、白菜、小松菜、ブロッコリー、ケールなど──の菜花も、坂ノ途中のお野菜セットではお届けしています。お野菜の特徴がほんのり出ていて、見た目も味も個性豊かでおもしろいので、味わってみてくださいね。
春を告げるフキノトウやワラビといった山菜、そしてタケノコも、少量ですがお届けしています。時季も限られているので、お野菜セットに入っていたらラッキー。野山の春を感じていただけたらなあと思います。
季節のコントラストを楽しむ
「四季折々、バランスよく旬のお野菜がある」。それは、実は人の暮らし、都市での暮らしに寄せた発想かもしれません。自然はもっと偏っていたり、ダイナミックな濃淡があったり。
端境期はお野菜が少なくてちょっと寂しいけれど、だからこそ初夏のアスパラガスや豆類が出てきたときの嬉しさは大きい。
そんなふうに、顔ぶれの移り変わりも楽しんでいただけたら。これから夏に向かって畑が生き生きとしていく、その喜びもお伝えしたいと思っています。