坂ノ途中には、コーヒーを愛するスタッフがたくさんいます。
坂ノ途中の喫茶室は、「おいしい一杯」と向き合う人たちの、“好き”の正体を、対談でひもといていく連載です。

第2回は、岩﨑さんが、コーヒー豆を“焼く人”、そして産地の豆を“見きわめる人”へと、少しずつ作り手の側に近づいていく道のりをたどります。

対談したスタッフ

坂ノ途中コーヒー 岩﨑卓也

ゲスト
岩﨑 卓也(いわさき・たくや)

坂ノ途中コーヒーの商品開発担当。学生時代にコーヒーに出会いこの道へ。休日はコーヒーを片手に、子どもといっしょにお菓子づくりを楽しんでいる。

聞き手 安藤慶子

聞き手
安藤 慶子(あんどう・けいこ)

この連載の企画担当・聞き手。坂ノ途中の編集室で、コーヒーの魅力をどう言葉にして届けるかを考える日々。

聞き手 橋本遼

聞き手
橋本 遼(はしもと・りょう)

坂ノ途中コーヒーのマーケティング担当。この連載では聞き手として、気になったところをどんどん掘り下げる係。

淹れる現場から、焼く現場へ

橋本

前回は、就職活動でコーヒー関連の大手企業にことごとく振られて(笑)、というところまでうかがいました。そこからは、どんな日々だったんですか。

岩﨑

関西でコーヒー専門店をやっている会社に入って、4年半くらいですね。

お店に立って、途中からは店長のようなこともしながら、毎日コーヒーを淹れていました。

安藤

そこから、どうしていまのように、豆そのものを扱う仕事に?

岩﨑

毎日お店で淹れていると、だんだん「その上流にある一つひとつ」が気になってくるんです。

淹れる前の、焙煎*。焙煎について知りたいな、自分でやってみたいな、と思うようになって。

それで次は、コーヒーを“淹れる”仕事から、“つくる”に近い仕事ができる会社へ移りました。1950年創業の、名前はそんなに知られていないけれど、コーヒー豆を焙煎して売る、というのをずっと続けてきた老舗です。

橋本

そこでは、どんなことを?

岩﨑

作業服を着て、毎日ひたすら焙煎機を回していました。

生豆*の入った袋って、大きいものだと60kgくらいあるんですよ。持ち上げるのは無理なので、引きずりながら運んで。

安藤

けっこうな力仕事なんですね。

岩﨑

そうなんです。古い工場だから、冷房もそんなに効いていなくて。

夏は外からの暑さに、焙煎の火の熱も加わって、もう汗だくで。正直、しんどい日もありました。

それでも「今日はこのコーヒーを焼けた」って、うれしくなることのほうが多かったですね。

安藤

コーヒーの匂いって、染みつきそうですね。

岩﨑

染みつきます、完全に(笑)

焙煎したり、業務用のミルで豆を挽いたりすると、もう一瞬で。帰りの電車のなかで、ちょっと申し訳ないくらいでした。

焙煎(ばいせん):コーヒーの生豆を煎ること。火の入れ方ひとつで、同じ豆でも味わいが変わります。

生豆(なままめ):焙煎する前の、緑がかったコーヒーの種子。これを煎ることで、私たちの知る茶色いコーヒー豆になります。


生豆と向き合う日々

安藤

それから、坂ノ途中へ。

岩﨑

はい。まだ焙煎の経験者が1人しかいなかったときに、声をかけてもらいました。

橋本

入ってからは、何を?

岩﨑

最初は、生豆まわりの仕事ですね。毎日いろんな産地からサンプルの豆が届くので、それをカッピング*して、点数をつけて、評価する。

買う・買わないのお金が動くところは先輩の担当でしたが、届いた豆を見て味を確かめる、というのは入社してすぐの時期からやっていました。

安藤

淹れる側から、だんだん“焼く側・仕入れる側”に近づいていったんですね。

岩﨑

そうなんです。そうやって今度は、生産者さんのほうを向くようになって。

コーヒーを育てる人のことを知る機会が、ぐっと増えたんです。

カッピング:コーヒーの香りや味わいを、専門的に評価する試飲のこと。豆の個性や品質を見きわめるために行います。

一杯の向こうに、いくつもの手がある

橋本

産地や生産者さんのことを知って、コーヒーの見え方は変わりましたか?

岩﨑

変わりましたね。もうシンプルに、知らなかったことが多くて。

本で読んで“情報”としては知っていても、「へえ、こういう理由でこうしているのか」と腹落ちしていくと、コーヒーの魅力が急にぶわっと増えたような感覚になったんです。

安藤

具体的にはどういうことですか?

岩﨑

たとえば、コーヒーを飲んで「なんだか、ちょっと変わった味がするな」と気づくことがあるんですよ。以前ならそれで終わりだったのが、「なんでこの味がするんだろう……もしかしてフルーツの酵母も一緒に発酵させているのかな?」「生産者さんが一生懸命工夫して付加価値を付けているんだな」なんて考えられるようになると、すごく愛おしく思えてくるというか。

橋本

愛おしい(笑)

岩﨑

コーヒーって、生豆から、いろんな加工をへて、液体になるころにはもう豆の形は残っていないけれど、人の手がたくさん入ったものなんですよね。どんな豆でも、その産地ならではの工夫や苦労がある。大きな生産国には、それを成り立たせるための技術や知識、流通網がある。そう考えると、産地の規模や知名度による優劣みたいなものは、あまり感じなくなってきましたね。

安藤

仕事だと、売れる・売れないもありますよね。そこはどうですか。

岩﨑

ありますあります(笑)生豆って在庫商売なので、これくらい売れそうだからこれだけ買おうと見立てて仕入れる。読みが外れれば、そのぶん手元に残ってしまう。だからどうしても、売れるかどうかで選びそうになる瞬間があるんです。

でも、豆や産地とちゃんと向き合うからこそ、ラオスのような、知名度は高くなくても自分たちが本当に届けたいコーヒーを仕入れて売ることができる。深く知ろうとするから、「あ、こんな工夫がされているのか」と心が動くものに必ず出会うし、どの豆も楽しく売ろうって思えるんです。


橋本

最後に。最近はどんなコーヒーを飲んでいるんですか。

岩﨑

家から30分以内のところに、好きなコーヒー屋さんが何軒かあって。休みの日は、そこで豆を買って飲んでいます。

安藤

あれ、会社の豆は?(笑)

岩﨑

持って帰れば飲むんですけどね(笑)

でも、わざわざお店に買いに行きたいんです。やっぱり、お店の人と話したいので。

ウォッシュド*のちょっと深めの焙煎が好きで、中煎りと深煎りを買って、深煎りはいまもエスプレッソで飲んでいます。

ウォッシュド:収穫したコーヒーの実を、水で洗いながら果肉を取り除いて乾かす精製方法。すっきりとした味わいになるといわれています。

——豆を育てる人、仕入れる人、焼く人、そして淹れる人。たくさんの手から手へと渡ってきた一杯を、岩﨑さんは今日も幸せそうに味わっています。


(おしまい)

次回|坂ノ途中の喫茶室 #03「まだ、コーヒーになる前の話」

ラオス北部の産地に通い、生産者さんと一緒にコーヒーづくりに取り組んでいる宮﨑さんのお話です。