坂ノ途中には、コーヒーを愛するスタッフがたくさんいます。
坂ノ途中の喫茶室は、「おいしい一杯」と向き合う人たちの、“好き”の正体を、対談でひもといていく連載です。
記念すべき第1回のゲストは、坂ノ途中コーヒーの開発担当・岩﨑卓也さん。
コーヒーとの出会いは、大学時代のイタリア留学までさかのぼります。
対談したスタッフ



コーヒー好きはいつから?
岩﨑さんがコーヒーに目覚めたのって、いつ頃だったんですか。
大学生のとき、たぶん18か19歳くらいですね。
もともと観光業に興味があって、観光といえばイタリアやフランスのイメージがあったので、大学でイタリア語を専攻してたんです。
え、そうだったんですね。
そう、それでイタリアといえばエスプレッソ*だよな、と。
直火にかける小さなエスプレッソメーカーを買ってきて、豆も買って、よくわからないまま淹れて飲んで。最初は「これがコーヒー……?」って、疑問符ばかり浮かびました。
最初はエスプレッソ*からだったんですね。
そうなんです。30ccくらいの小さなカップに、砂糖をスプーンで1〜2杯しっかり入れて。
そこから一気にのめり込んだ、という感じですか。
いや、全然(笑)
気分で飲んだり飲まなかったり、お土産でもらった豆があれば淹れる、くらいの感覚でした。
本当に変わったのは、大学3年生でイタリアに留学してからですね。
*エスプレッソ:深く煎った豆を細かく挽き、圧力をかけて短時間で抽出する濃厚なコーヒー。イタリアで親しまれています。
コーヒーより先に、バールが好きだった
イタリアって、とりあえずエスプレッソなんですよ。
朝も飲むし、昼も飲むし、ちょっと話そう、というときも飲む。
街のバール*に行けば、みんな立ったままエスプレッソを飲んでる。あの感じがすごく好きで。
味というより文化から入ったんですね。
完全にそうですね。
だから当時はスペシャルティコーヒー*っていう言葉も全然知らなくて。
「エスプレッソっていいな」くらいでした。
*バール:イタリアの喫茶店兼軽食店。朝も昼も人々が立ち寄ってコーヒーを楽しむ、イタリアの人々にとって欠かせない場所です。
*スペシャルティコーヒー:産地や生産の背景がはっきりわかり、品質評価の高いコーヒー。栽培から抽出まで、一杯一杯が丁寧に扱われます。
コーヒーが当たり前の存在に
ホームステイ先もすごかったとか。
そうなんですよ。
偶然にも、コーヒーのロースター*をやっている方の家だったんです。
え、そんなことあるんですね。
そう!なので、朝もエスプレッソ、外でもエスプレッソ、家に帰ってからもエスプレッソ。気づいたら一日中エスプレッソを飲んでました。
帰国するときは、死ぬほど豆を持たされました。
「お前、持ってけ」って(笑)
暮らしのなかにコーヒーがあるのが当たり前になったのは、間違いなくそこからです。
*ロースター:コーヒーの生豆を煎る(焙煎する)お店や人のこと。豆の個性を引き出す、焙煎の担い手です。

留学前は観光業に興味があったんですよね。
そうなんです。
でも、ロースターの家で暮らしていると、コーヒーを仕事にしている人の生活を間近で見るじゃないですか。みんな、すごく楽しそうで。
「ああ、コーヒーを仕事にするのもありやな」って思うようになったんです。
その頃には、観光業への気持ちは、ちょっと変わってきていましたね。
味の違いがわかる楽しさ
日本に帰ってきてからは、どうなったんですか。
カフェでアルバイトをするようになって、そこでコーヒーの飲み比べをして、「あれ、コーヒーって味が全然違うんだ」と、はじめて気づいて。
まずハッとしたのは、マンデリン*を飲んだときでした。ずっとエスプレッソばっかり飲んでたので、余計に衝撃的で。
豆の種類や焙煎の仕方、淹れ方によっても、味が違う。スペシャルティコーヒーというものがあるんだと知ったのも、そのときです。
味の違いがわかると、楽しくなってきますよね。
そうなんです。一回わかると、どんどん面白くなって。
自分でミルを買って、本を読んで、飲み比べして……。
就職活動も、コーヒー関連の企業にかたっぱしから応募しました。でも大手は全部落ちてしまったんです。
「とにかくエスプレッソが好きで」みたいな、偏ったコーヒー野郎だったので、まあ受からないですよね(笑)
*マンデリン:インドネシアのスマトラ島を代表するコーヒー。どっしりとしたコクと苦味が特徴とされています。
どんなコーヒーにも価値がある
そこから流れ流れて、いまは坂ノ途中コーヒーの岩﨑さんなんですね(笑)
生豆を選定したり、焙煎したり、カッピング*をしたり、仕事としてコーヒーに関わるなかで、いちばん「やめられない」と感じるところって何ですか。
コーヒーって突き詰めるほど、掘っても掘っても何か出てくる。それがずっと面白いんです。
とくに、産地や作る人のことを知ってからは、一杯のコーヒーから生産地まで、ぜんぶ手繰り寄せられるというか、おいしい一杯になるまでの景色、工程を想像できるようになって。「これ、たくさんの人の手によって、ここまで届けられたんだな」と。それからは、すごくやりがいを感じているんですよね。
*カッピング:コーヒーの香りや味わいを評価する、専門的な試飲のこと。豆の個性や品質を見極めるために行います。

だから、どんなコーヒーにも価値があると思っていて。日本全国どこでも売っているようなコーヒー豆でも、その産地では工夫や苦労があるんです。そう考えると、つい熱く語ってしまいます(笑)
休みの日も、やっぱりコーヒーですか。
子どもとお菓子を作るんですよ。焼きたてのクッキーと、淹れたてのコーヒー。これはもう、最強の組み合わせです。
エスプレッソはいまも、砂糖とちょっぴりの牛乳を入れて飲んでいます。イタリアの頃と、変わらず。
(つづく)
次回|「一杯の向こうに、作る人がいる。」
一杯のコーヒーにたくさんの人が関わっていることを理解した、という岩﨑さんのお話しを深掘りしていきます。




