坂ノ途中には、コーヒーを愛するスタッフがたくさんいます。
坂ノ途中の喫茶室は、「おいしい一杯」と向き合う人たちの、“好き”の正体を、対談でひもといていく連載です。

記念すべき第1回のゲストは、坂ノ途中コーヒーの開発担当・岩﨑卓也さん。
コーヒーとの出会いは、大学時代のイタリア留学までさかのぼります。

対談したスタッフ

坂ノ途中コーヒー 岩﨑卓也
ゲスト
岩﨑 卓也(いわさき・たくや)

坂ノ途中コーヒーの商品開発担当。学生時代にコーヒーに出会いこの道へ。休日はコーヒーを片手に、子どもといっしょにお菓子づくりを楽しんでいる。

聞き手 安藤慶子
聞き手
安藤 慶子(あんどう・けいこ)

この連載の企画担当・聞き手。坂ノ途中の編集室で、コーヒーの魅力をどう言葉にして届けるかを考える日々。

聞き手 橋本遼
聞き手
橋本 遼(はしもと・りょう)

坂ノ途中コーヒーのマーケティング担当。この連載では聞き手として、気になったところをどんどん掘り下げる係。

コーヒー好きはいつから?

橋本

岩﨑さんがコーヒーに目覚めたのって、いつ頃だったんですか。

岩﨑

大学生のとき、たぶん18か19歳くらいですね。

もともと観光業に興味があって、観光といえばイタリアやフランスのイメージがあったので、大学でイタリア語を専攻してたんです。

安藤

え、そうだったんですね。

岩﨑

そう、それでイタリアといえばエスプレッソ*だよな、と。

直火にかける小さなエスプレッソメーカーを買ってきて、豆も買って、よくわからないまま淹れて飲んで。最初は「これがコーヒー……?」って、疑問符ばかり浮かびました。

安藤

最初はエスプレッソ*からだったんですね。

岩﨑

そうなんです。30ccくらいの小さなカップに、砂糖をスプーンで1〜2杯しっかり入れて。

橋本

そこから一気にのめり込んだ、という感じですか。

岩﨑

いや、全然(笑)

気分で飲んだり飲まなかったり、お土産でもらった豆があれば淹れる、くらいの感覚でした。

本当に変わったのは、大学3年生でイタリアに留学してからですね。

エスプレッソ:深く煎った豆を細かく挽き、圧力をかけて短時間で抽出する濃厚なコーヒー。イタリアで親しまれています。

コーヒーより先に、バールが好きだった

岩﨑

イタリアって、とりあえずエスプレッソなんですよ。

朝も飲むし、昼も飲むし、ちょっと話そう、というときも飲む。

街のバール*に行けば、みんな立ったままエスプレッソを飲んでる。あの感じがすごく好きで。

橋本

味というより文化から入ったんですね。

岩﨑

完全にそうですね。

だから当時はスペシャルティコーヒー*っていう言葉も全然知らなくて。

「エスプレッソっていいな」くらいでした。

バール:イタリアの喫茶店兼軽食店。朝も昼も人々が立ち寄ってコーヒーを楽しむ、イタリアの人々にとって欠かせない場所です。

スペシャルティコーヒー:産地や生産の背景がはっきりわかり、品質評価の高いコーヒー。栽培から抽出まで、一杯一杯が丁寧に扱われます。

コーヒーが当たり前の存在に

安藤

ホームステイ先もすごかったとか。

岩﨑

そうなんですよ。

偶然にも、コーヒーのロースター*をやっている方の家だったんです。

橋本

え、そんなことあるんですね。

岩﨑

そう!なので、朝もエスプレッソ、外でもエスプレッソ、家に帰ってからもエスプレッソ。気づいたら一日中エスプレッソを飲んでました。

帰国するときは、死ぬほど豆を持たされました。

「お前、持ってけ」って(笑)

暮らしのなかにコーヒーがあるのが当たり前になったのは、間違いなくそこからです。

ロースター:コーヒーの生豆を煎る(焙煎する)お店や人のこと。豆の個性を引き出す、焙煎の担い手です。

ホームステイ先のロースターさん家族と岩﨑さん
ホームステイ先のロースターさん家族と岩﨑さん
橋本

留学前は観光業に興味があったんですよね。

岩﨑

そうなんです。

でも、ロースターの家で暮らしていると、コーヒーを仕事にしている人の生活を間近で見るじゃないですか。みんな、すごく楽しそうで。

「ああ、コーヒーを仕事にするのもありやな」って思うようになったんです。

その頃には、観光業への気持ちは、ちょっと変わってきていましたね。


味の違いがわかる楽しさ

橋本

日本に帰ってきてからは、どうなったんですか。

岩﨑

カフェでアルバイトをするようになって、そこでコーヒーの飲み比べをして、「あれ、コーヒーって味が全然違うんだ」と、はじめて気づいて。

まずハッとしたのは、マンデリン*を飲んだときでした。ずっとエスプレッソばっかり飲んでたので、余計に衝撃的で。

豆の種類や焙煎の仕方、淹れ方によっても、味が違う。スペシャルティコーヒーというものがあるんだと知ったのも、そのときです。

安藤

味の違いがわかると、楽しくなってきますよね。

岩﨑

そうなんです。一回わかると、どんどん面白くなって。

自分でミルを買って、本を読んで、飲み比べして……。

就職活動も、コーヒー関連の企業にかたっぱしから応募しました。でも大手は全部落ちてしまったんです。

「とにかくエスプレッソが好きで」みたいな、偏ったコーヒー野郎だったので、まあ受からないですよね(笑)

マンデリン:インドネシアのスマトラ島を代表するコーヒー。どっしりとしたコクと苦味が特徴とされています。

どんなコーヒーにも価値がある

橋本

そこから流れ流れて、いまは坂ノ途中コーヒーの岩﨑さんなんですね(笑)

生豆を選定したり、焙煎したり、カッピング*をしたり、仕事としてコーヒーに関わるなかで、いちばん「やめられない」と感じるところって何ですか。

岩﨑

コーヒーって突き詰めるほど、掘っても掘っても何か出てくる。それがずっと面白いんです。

とくに、産地や作る人のことを知ってからは、一杯のコーヒーから生産地まで、ぜんぶ手繰り寄せられるというか、おいしい一杯になるまでの景色、工程を想像できるようになって。「これ、たくさんの人の手によって、ここまで届けられたんだな」と。それからは、すごくやりがいを感じているんですよね。

カッピング:コーヒーの香りや味わいを評価する、専門的な試飲のこと。豆の個性や品質を見極めるために行います。

社内のカッピングの風景
社内のカッピングの風景
岩﨑

だから、どんなコーヒーにも価値があると思っていて。日本全国どこでも売っているようなコーヒー豆でも、その産地では工夫や苦労があるんです。そう考えると、つい熱く語ってしまいます(笑)

橋本

休みの日も、やっぱりコーヒーですか。

岩﨑

子どもとお菓子を作るんですよ。焼きたてのクッキーと、淹れたてのコーヒー。これはもう、最強の組み合わせです。

エスプレッソはいまも、砂糖とちょっぴりの牛乳を入れて飲んでいます。イタリアの頃と、変わらず。


(つづく)

次回|「一杯の向こうに、作る人がいる。」

一杯のコーヒーにたくさんの人が関わっていることを理解した、という岩﨑さんのお話しを深掘りしていきます。