坂ノ途中には、コーヒーを愛するスタッフがたくさんいます。坂ノ途中の喫茶室は、「おいしい一杯」と向き合う人たちの、“好き”の正体を、対談でひもといていく連載です。

今回は、少し遠くまで。飛行機を乗り継いで、山をのぼった先の村へと、話が広がります。

対談したスタッフ

坂ノ途中コーヒー 宮﨑咲弥
ゲスト
宮﨑 咲弥(みやざき・さや)

ラオス北部の産地に通い、生産者さんと一緒にコーヒーづくりに取り組んでいる。

聞き手 岩﨑卓也

聞き手
岩﨑 卓也(いわさき・たくや)

坂ノ途中コーヒーの商品開発担当。今回は聞き手として参加。

聞き手 安藤慶子

聞き手
安藤 慶子(あんどう・けいこ)

この連載の企画担当。聞き手。

コーヒーの、ずっと手前の話

安藤

宮﨑さんは、ふだんはどんなお仕事をされているんですか。

宮﨑

コーヒーの仕事、といっても、わたしはお店に立つわけでも、焙煎機を回すわけでもなくて。どちらかというと、コーヒーになる「ずっと手前」に関わっています。ラオスの北部の村に通って、産地の人たちと一緒に、コーヒーそのものを育てていくところから。

岩﨑

焼く前、どころか、豆になる前ですよね。

宮﨑

そうなんです。わたしたちの取り組みのなかに「COFFEE-Japan PROJECT」というものがあって。ラオス北部で、コーヒーの生産を通じて、その地域の暮らしや栄養の課題に一緒に向き合っていく、というものです。国連のWFP*、現地のパートナー企業であるサフロンコーヒーと、三者で協力して実施しています。

安藤

コーヒーを売るだけではないんですね。

宮﨑

はい。売り先をつくることもわたしの大事な役目のひとつなんですが、それと同じくらい、「どうやって育てるか」「どうやって暮らしにつなげるか」を、現地の人たちと一緒に考えています。だから、村に苗木を配るところからだったり、収穫のあとの精製*の設備を整えるところからだったり、まだコーヒーになっていない、その手前の景色をたくさん見てきました。

ラオス北部の村にて。写真中央が宮﨑さん

*COFFEE-Japan PROJECT:ラオス北部で、コーヒーの生産支援を通じて地域の暮らしや栄養の課題に取り組む活動。

*WFP(国連世界食糧計画):飢餓と貧困をなくすことを使命とする、国連の食料支援機関。

*サフロンコーヒー(Saffron Coffee):ラオスでコーヒーの生産、販売、輸出を手がける企業。2006年から、ルアンパバーン地域でコーヒー事業を行っている。

*精製(せいせい):精製は、収穫した実から種の部分を取り出して、発酵、乾かす工程のこと。


インターネットも、電気も、水道もない村で

安藤

ラオスの村って、あまり想像がつかないんです。どんなところなんですか。

宮﨑

古都のルアンパバーン*の街の中心部は、観光客でにぎわう、きれいな街なんですよ。朝はどこからかお経の声が聞こえて、お線香がふっと香って。メコン川がゆったりと流れていて、遠くには緑の山々が見えます。

でも、そこから車で20分も走ると、景色ががらっと変わってくるんです。民家がだんだん少なくなって、山が幾重にも重なります。そのうち舗装もなくなって、がたがた道になります。砂ぼこりのなかを、車の天井に何度も頭をぶつけそうになりながら進んでいって。何時間もかけて、やっとプロジェクトの村にたどりつきます。

村までの道中の景色

*ルアンパバーン:ラオス北部の古都。世界遺産にも登録された、寺院と緑豊かな自然に囲まれた街。


コーヒー生産への第一歩を踏み出す

安藤

村では、もうみなさんコーヒーを育てているんですか。

宮﨑

村によって、ぜんぜん違うんです。プロジェクトはいくつかの村で実施しているんですが、何年もコーヒーを育ててきた村もあれば、これからやっと始めよう、という村もある。そこでは苗木をつくるところからスタートです。

岩﨑

本当に、ゼロからなんですよね。

宮﨑

そうなんです。その村では、もともとはお米やトウモロコシが収入源で。あと、白い布のようなものが干してあるから「これは何ですか」と聞いたら、紙をつくってるんだ、と。ポストカードやノートに加工して売るんだそうです。

そういう村で、収入の選択肢をもうひとつ増やせないか、というところから、コーヒーの栽培が始まっていく。だから「コーヒー生産の第一歩を踏み出したばかりの村」に、わたしたちは通っているんです。

安藤

どうしてコーヒーだったんでしょう。

宮﨑

この地域では昔から、森を焼いて畑にする焼畑*が行われてきました。それはそれで、暮らしと結びついた農のかたちなんですが、続けていくと森が痩せていってしまう。そこで、樹木の陰でコーヒーを育てる「アグロフォレストリー」*という農法を提案しました。森の木を残したまま、その木陰でコーヒーを育てる。森を守りながら、新しい収入源ができます。

岩﨑

森の木を伐るのではなく、森を活かす。

宮﨑

はい。コーヒーの実は木陰でゆっくり熟していくので、味わいにもいい影響があるといわれています。さらにおもしろいのは、コーヒーの木のまわりに果物の木も植えたりするんです。強すぎる日差しや寒さからコーヒーの実を守ってくれるし、採れた果物も収入源になります。

赤く熟したコーヒーの実

*焼畑(やきはた):森や草地を焼いて畑をつくる、伝統的な農法。適切な耕作・休耕サイクルを守っていれば、環境的には持続可能な農法と言われている。

*アグロフォレストリー:農業(Agriculture)と林業(Forestry)を掛け合わせたもの。森林を伐採せず、同じ空間で多様な農作物を育てる、環境に配慮した農法。


こうして少しずつ、森を守りながらコーヒーを育てる村が増えています。ラオスの森から届くコーヒー。その一杯は、村の人々の暮らしとどんなふうにつながっているのでしょうか。

(つづく)

次回予告|後編「その一杯が、村までつながっている」

ラオスの村で育ったコーヒーが、どのように私たちのもとに届くのか、宮﨑さんにくわしく聞いていきます。

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