退職したスタッフとも、色々な形で関係が続いていくことが多いです

[春の会夏の会に続いて、株式会社おいかぜの取材チーム柳下・柴田(明)が坂ノ途中さんと一緒に開催させていただいたoikazeごはんの様子をお届けします。]

猛暑や台風、悲しくなるような異常気象を乗り越えて、京都にも待ちに待った秋がやってきました。10月最後の土曜日、秋雨がぱらぱらと地面を濡らす中、坂ノ途中 × oikazeごはんの準備が始まります。

春の会、夏の会に続いて3回目となる秋の会。朝からお台所に立つ多賀日奈子さんと原田有佳子さん、運営スタッフの松田明日香さんの表情にも心なしか余裕が感じられます。今日はどんなお野菜があるのかと調理台を眺めていた時、端っこに並ぶビンに貼られたメモがふと目に留まりました。「みかんジャム試食おねがいします。あかね」という可愛らしい文字。原田さんがトントンと心地よい音で人参を切りながらこんな話をしてくれました。

原田:あかねぽんというスタッフが、瀬戸内海の大崎下島(おおさきしもじま)と三角島(みかどじま)で柑橘を育てているんです。島のじいちゃんからみかんとレモンの木を譲り受けて、自社農場のやまのあいだファームと行き来しながら世話をしています。

京都南丹と瀬戸内。想像するとなんだかわくわくしませんか?二拠点農業を始めた経緯については、会場編で代表の小野さんがくわしく語ってくださいます。

「お茶飲みますか?」と多賀さんが淹れてくれた野草番茶は、後藤さんという元スタッフの方が島根のご実家に戻られて作っているものだそうです。そんなふうに退職後に農家さんになって取り引きを始める方もいれば、ウガンダオーガニックプロジェクトで有機農業の普及のため現地に駐在していた宮下さんという女性は、ウガンダに定住を決めて独立し、現在も坂ノ途中さんへのゴマやシアバターなど農産物の輸出を続けているとか。旦那さまも日本からウガンダへ移り住み、日本食レストランをオープンされたそうです。会社を離れてからもそれぞれの形で農業に携わり、つながりが続いていくのが素敵だなぁと思いました。

そんな坂ノ途中さんから、今日もお野菜の話をたっぷりお聞きしたいと思います。まずは、見た目も味も食感も、どこをとってもたまらなく個性的なレンコンについて。レンコンというと、真っ黒な沼地に浸かって収穫する農家さんの様子が思い浮かびます。原田さんに「レンコンのような泥に埋まっている野菜にも、農薬を使うんですか?」と訊いてみました。

原田:レンコンは蓮の茎の部分で、慣行栽培では地上に出ている葉っぱの部分に防虫や除草のために農薬をまきます。先日、石川県の加賀レンコンの農家さんのところに行ってきました。無農薬栽培をしているので、泥の中にはザリガニがいっぱい!ザリガニはレンコンを食べますし、カモも泥の中にもぐって食べちゃうんです。農家さんは「まぁちょっとくらい食べられるんはしょうがないな」と笑ってました。食材として使ってもらえないかと思って、フレンチのお店にレンコンと一緒にザリガニを送ったこともあるそうです(笑)。

レンコンはだいたい9月から5月にかけて収穫します。膝まで浸かって泥の中から掘り出すので、収穫はめっちゃたいへんです。しかも石川は冬になると氷が張るので、氷を割ってレンコンを掘り出すんですよ。夏の終わりの出始めはシャキッとしたみずみずしい食感で、冬に向かうに連れ、だんだんモッチリして味も濃くなりますね。今日は色々な味や食感を楽しんでもらえるよう、レンコンで二品作ります。柿と合わせたマリネと、風味が際立つから揚げです!

ところで、みなさんは秋の野菜といえば何を思い浮かべますか?「実りの秋」と言われるくらいなので野菜も豊富にとれるのかと思いきや、秋の実りは穀物や果物が多く、この時期の畑は春に次ぐ端境期を迎えるそうです。秋のイメージが強いきのこも、ほとんどの品種は施設栽培で年中収穫できるとか。でもやっぱり、今の時期に旬を迎えるマツタケや原木しいたけをはじめ、きのこの旨味は秋の食卓に欠かせません。今日はハタケシメジ、しいたけ、なめこ、三者三様のきのこたちが登場します。数年前に坂ノ途中さんの野菜セットに入っていたハタケシメジを初めて食べた時、しっかりした歯ごたえと主張しすぎない豊かな風味、その絶妙なバランスに感動したことを覚えています。今日はどんなお料理に使われるのか、楽しみでなりません。

原田:きのこ類は屋内で菌床を使って栽培しているものが多いです。このハタケシメジが育った菌床は京丹波町の間伐材を粉にしたものが主原料です。栽培後の菌床は、廃棄するのではなく土壌改良剤として畑に投入します。きのこ栽培は基本的に農薬を使わないのですが、栽培に使う資材等も含めて環境に配慮している会社や生産者さんと取り引きをしています。ちなみにハタケシメジという名前は、森ではなく畑やあぜ道など人の暮らすエリアに生えることからついたそうです。

続いて原田さんが手に取ったのは、パリッとみずみずしい水菜と菊菜。実はこの2つの青菜、我が家ではあまり人気がありません……。小松菜やほうれん草はパクパク食べる子どもたちですが、水菜と菊菜を前にすると箸が進まなくなってしまうのです。

原田:菊菜はサラダにしても美味しいですよ。オリーブオイルなどで和えると、苦味がやわらいで食べやすくなります。最近はハウスで育てて茎が細い状態で収穫したサラダ向きの水菜が多いのですが、今日の水菜は畑でしっかり時間をかけて育っているので、お鍋に入れてもシャキッとした歯ごたえが残ります。

手渡された菊菜の葉先を生のまま口に入れてみると、すっと鼻に抜ける香りとやわらかな食感からは私が知っている菊菜とは違う印象を受けました。家でおひたしにした菊菜よりもずいぶん優しい口当たり。これは嬉しい発見です。

松田:青菜はたくさん届くと余りがちですよね。私も時々、咲いちゃった菜の花を食べてます。ダイコンの花が咲いたこともあります(笑)。

原田:アブラナ科の野菜はどれも春まで置いておくと菜の花が咲くんですけど、それぞれに個性があっておもしろいですよね。白菜、キャベツ、小松菜……ブロッコリーも咲きます。お店で「菜の花」として売っているのも、品種は様々です。ほとんどが黄色い花ですが、大根の菜の花は白や紫でかわいいんですよ。

松田さんの手元には、春の会でちらし寿司にを彩りを添えてくれた枝豆が。かわいらしい緑の粒々が今回はどんな料理になるのかと楽しみにしていると、「枝豆つぶしますねー」という声と共にすり鉢が登場しました。東北地方の郷土料理、ずんだ餅を作るそうです。松田さんが枝豆をつぶし始めると、台所があっという間に若々しい豆の香りに支配されました。納豆になり、醤油になり、豆腐になり、味噌になり、更に和菓子にもなる大豆。なんと多才な食材でしょうか。この日はごはんにも、水で戻した大豆を炊き込みます。参加者のみなさんの喜ぶ顔を楽しみに、あつあつのもち米を丸めていきます。

お料理の準備も終盤にさしかかり、アサツキを手際よくきざむ原田さん。「いい香りですね」「ネギが入るとお料理がぐっと美味しくなりますよね」とネギ類の魅力を確かめ合うひと時が流れました。その流れで白ネギはなぜ先っぽしか緑色にならないのかという素朴な疑問を口にすると、日光に当たると光合成をしようと緑色になってしまうから、生育に合わせてどんどん土をかぶせていくのだと教えてもらいました。美味しい白ネギを作るためには、収穫に至るまでのたゆまぬ努力が必要なんですね。土をかけるための白ネギ専用農機もあると聞き、農業の奥深さをまた感じたのでした。

ちなみにこのアサツキは、亀岡の柴田さんの畑の脇に自生していたそうです。農家さんが植え付けをした畝の隣で、たくましく野生化した野菜が彼ら自身のサイクルで育っていく。その姿を想像すると、自分の生活からは遠く離れたところにあった「持続可能な農業」という言葉が少し身近なものになったような気がしました。しいたけのお出汁が嬉しい煮しめもすっかりいい具合になり、秋の味わいを積み込んだ車で会場へと向かいます。

 

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