朝出勤して使える野菜を見てから、まかないのメニューを決めます

[ 株式会社おいかぜの取材チーム柳下・柴田(明)が、坂ノ途中さんと一緒に開催させていただいたoikazeごはん春の会の様子をお届けします。]

oikazeごはん当日、私たちは朝9時に坂ノ途中さんのオフィスを訪ねました。空は白い雲に覆われていますが、向かいの公園ではお父さんと子どもが楽しそうにキャッチボールをしています。お台所がある2階へと階段を上がっていくと、色とりどりの野菜が並んだ調理台はすでに優しい香りに包まれていました。友人の家にお呼ばれした時のような気分で台所にお邪魔すると、あちこちに見たことのない野菜やユニークな手書きの標語があり、何からお話を聞いてよいのか戸惑う程です。

包丁を握っているのは、今回のイベントを一緒に企画してくれたWebマーケティング担当の松田 明日香さんとまかない担当の多賀 日奈子さん。松田さんはトントントンと心地いいリズムでエリンギを刻んでいるのですが、どうも私の知っているエリンギとは何かが違います。ちょっと大きいような……いや、明らかに通常の倍くらいあるような……

明:エリンギ、めっちゃ大きくないですか?

松田:びっくりエリンギって言うんですよ。普通のエリンギは30日くらいで収穫するところを45日くらいかけてじっくり育てているのでこんなに大きいんです。その分味もしっかりしていてめちゃくちゃ美味しいです!これを食べて、美味しいきのこがあればお肉はいらないなって思いました。

松田さんは、入社前に東京で一人暮らしをしていた時から坂ノ途中のお野菜セット定期宅配を頼んでいたそうです。今では定期宅配に加え、オフィスで販売している野菜も持ち帰って調理していると聞いて、その野菜愛と料理の腕に脱帽です。

グリーンパンツという色も名前もユニークなバイカラーのズッキーニ、生のままで皮や種も食べられるスズカボチャ、先っぽにネギ坊主ができるというニンニクの芽。松田さんに色々な野菜を紹介してもらう中で「かわいい」という言葉が何度も出てきました。そして、農家さんのお名前が出てくることもしばしば。今年は気温が高く夏野菜の収穫開始が例年より2週間ほど早いそうで、「春の会」と銘打ったものの野菜の顔ぶれは既に夏の様相です。そもそも6月上旬を「春」と呼ぶことに無理があるのですが、それはさておき。

松田:このペコロスは、柴田さんという方が作ってます。小さい玉ねぎですね、見た目も名前もかわいいですよね。普通の玉ねぎよりも甘くて、スープとかに丸ごと入れちゃえます。

さくさくと手を動かし、時々野菜のかけらを口に入れながらとても嬉しそうにお話ししてくださるので、聞いている私たちもどんどん楽しくなってきます。

そんな中、多賀さんがコトコトと音を立てるお鍋の蓋に手を伸ばします。お野菜を詰め込んだカラフルなミネストローネから甘酸っぱいトマトの香りが漂う中、すかさずのぞき込んで「わ〜やだもう〜〜なんでこんなにかわいいの〜〜〜」と興奮のあまり女子化する柳下おじさん。底からぐるりとかき混ぜて、更に煮込んでいきます。

多賀さんは坂ノ途中で働く皆さんの胃袋を支えるまかない担当。まかないの材料はもちろん、農家さんから集荷されてきた野菜たちです。驚いたのは、朝出勤するまでどの野菜を使えるかわからないということ。集荷や注文の状況によってまかない用の野菜が決まるので、その日あるものを見てメニューを決めるそうです。

多賀:珍しい野菜が多いので、最初の頃は失敗もたくさんしました。アスパラガスチコリっていう野菜があるんですけど、ここに来るまで食べたことがなくて、煮物にしてみたらめっちゃ苦くて……(笑)。1年を通して400種類くらいのお野菜に触れるので、不思議なものもけっこうあります。茎レタスって知ってますか?シャキシャキしているけど見た目は丸くなくて、コンビニで売っている茎わかめみたいな食べ方をするんです。

野菜の話が途切れることなく続く中、料理も徐々に完成に近づいてきています。「お米、炊けました」の声と共に蒸気が上がり、現れたのは18合のホカホカご飯。松田さんはマルシェの準備のため一足先に会場へと向かい、私たち取材チームもちらし寿司の酢飯作りに参戦します。何に使うんだろうと気になっていたニンジンの葉は、炒めてちらし寿司に入れるとのこと。なるほど、苦味がいいアクセントになりそうです。

小さな台所の中でくるくると立ち回り手際よく30人分のごはんを仕上げていく多賀さんは、最近ではまかないの調理だけでなく出荷の仕事もしているとのこと。

多賀:もっと野菜のことを知りたくなって、出荷もやらせてほしいとお願いしました。まかないには回ってこない野菜もたくさんあるし、出荷場にいると、どれが誰の野菜かがわかります。同じ品種でも今の時期はこの農家さんのが美味しいとか、色々なことがわかって楽しいんです。

実は多賀さんは、坂ノ途中さんに入社する前、私の子どもたちが通う保育所で給食を作ってくれていました。打ち合わせでオフィスにお邪魔した時に驚きの再会をし、それ以来、お会いすると必ず保育所の子どもたちの様子をたずねてくれる優しい多賀さん。娘たちも今回のイベントで久しぶりに会うことができて喜んでいました。

明:坂ノ途中さんで働くようになって、野菜についての考えとか思いって何か変わりましたか?

多賀:変わりましたね。野菜ってこんなに美味しいんや!って思いました。今までは、食事のメインはお肉やお魚で野菜は副菜という意識があったんですけど、それがなくなりました。お肉や卵を使うこともたまにありますけど、まかないはほとんど野菜だけで作っているので。

言われてみると、私も食卓には肉や魚が必要だと当然のように思っていることに気づきました。野菜料理ばかりが並ぶと小学生のむすこが「お肉ないん?」と不満気に聞いてくるので、冷蔵庫に肉類がないとなんだか不安になってしまいます。今日の野菜尽くしのメニューに子どもたちがどんな反応をするのか、楽しみになってきました。

そんなことを考えていると、ミネストローネの鍋が再び開けられ、待ちに待った味見の時間がやってきました。ふんわり甘い匂いに顔面を包まれながら小皿の角に口をつけると、優しくあたたかな味に思わず頰がゆるみます。

お野菜を美味しく食べられる幸福感って、肉や魚とはまた違う、他には代え難いものがあるなぁと改めて思いました。ニコニコしながら何度もスープをすする私たちは、多賀さんの次の一言に衝撃を受けます。

多賀:塩だけで十分美味しいですよね。

明:塩だけですか?!

多賀:野菜に塩と少しの水を入れて1時間くらい煮込みました。今日は、玉ねぎ、キャベツ、ズッキーニ、プチトマト、エリンギが入っています。

野菜の出汁だけでこんなに豊かな味がするのか……と、さっきの多賀さんの言葉を反芻しながらまた一口。じっくり煮込まれた野菜たちの旨味が身体にじんわり染み込むようです。お日様と水と土からの栄養だけでこんなに美味しく育ってくれたんやなぁと、頭の中に緑が茂る畑を思い浮かべてしみじみ感心してしまいました。

そろそろ会場に向かおうという時、patagoniaのカタログが並んだ棚の上に葉っぱの入った小さなビンを見つけました。顔を近づけると、中にいたのは1匹のホタル。

多賀:それ、野菜についてたらしくてスタッフが飼っているんです。光らないんですけどね。

その言葉に、坂ノ途中さんが掲げる「百年先も続く、農業を。」というメッセージが頭をよぎります。単に野菜を売るのではなく、虫や鳥、雑草も含め、農業の周りに広がる生態系を持続可能なものにしていきたいという姿勢がこんなところにも表れているんですね。

ちらし寿司も無事に完成し、できたお料理を車に積んでoikazeごはんの会場へと向かいます。

 

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