農家さんの性格と、その人が作ったお野菜はなんとなく似ていることが多いんです

[春の会に続いて、株式会社おいかぜの取材チーム柳下・柴田(明)が坂ノ途中さんと一緒に開催させていただいたoikazeごはん夏の会の様子をお届けします。]

あっという間に季節はめぐり、猛暑の中、oikazeごはん夏の会の日がやってきました。今年の夏はとにかく暑い。この日も最高気温37℃という予報にげんなりしつつ、坂ノ途中さんのお台所へ向かいます。

「おはようございます」と迎えてくれたのは、前回もお料理を作ってくれたまかない担当の多賀日奈子さん。隣では、生産者窓口担当の原田有佳子さんが手際よくキュウリを切っています。普段はメールや電話で農家さんとのやり取りをしている原田さんですが、実は坂ノ途中料理四天王のひとりだそうです。原田さん自身について色々と質問したい気持ちをぐっと抑えて、まずは調理台に並ぶ珍しいお野菜たちについてお話を聞かずにはいられません。

多賀:今日はいろんなかぼちゃがあるんですよ。これがロロンかぼちゃです。そして、バターナッツかぼちゃ、ミニかぼちゃ、コリンキーの4種類です。コリンキーは春の会で使ったすずカボチャみたいに生で食べられます。

その隣で出番を待つオクラの中に、ひときわ豪華な星型を見つけました。「スター・オブ・デイビッド」という品種だそうです。「名前もきらびやかですね!デイビッドさんが作った種類なんですか?」と聞くと、多賀さんが「ダビデの星という意味です。ほら、形が似てるんです」とやさしく教えてくれました。ボウルの向こうでは、蒸しあがったナスたちがホカホカと湯気を上げて休憩中です。

多賀:今日はナスも種類が多いです。みどりナス、賀茂ナス、千両ナス、これは薄紫ナスです。坂ノ途中が扱う野菜の中で一番種類が豊富なのは、ナスだと思います。ゼブラナスっていう縞模様のナスもあるんですよ。

それぞれのナスを一口ずつ味見させてもらうと、食感が全部違って驚きました。種のぷつぷつがしっかり感じられるもの、口の中でトロッとほぐれるもの、実がぎゅっと詰まっているもの、透明感があってもっちりした食感のもの。個性豊かで、どれも美味しい。ナスは原産地のインドから日本にたどり着くまでに西へ東へとたくさんのルートがあり、どのルートを辿ったかで特徴が異なるそうです。くたくたのしわしわになったナスたちは、冷やし蒸しナスとしてふるまわれます。

ここで坂ノ途中さんのスタッフの方が台所へやってきました。冷蔵庫からおもむろに取り出したのは、丸いお皿に乗ったお好み焼き。時刻は朝9時過ぎです。電子レンジでお好み焼きを温めた彼女は、隣に見たことのない白いペースト状のものをスプーンでのせています。思わずのぞきこんでしまった私たちに、多賀さんがその正体を教えてくれました。これは「ババガヌージュ」というナスを使ったアラブ料理だそう。お好み焼き朝食には、めんつゆとババガヌージュが添えられました。遠慮なくシャッターを切る柳下おじさんから「撮らないでください!」と必死でお皿を隠す彼女の隣で、「ババガヌージュって、男の人を自由奔放に魅了する女性っていう意味らしいです」と多賀さんが微笑みながら教えてくれました。見てはいけないものを見てしまったような、複雑な気持ちになった瞬間でした。

次に登場したのは、カラフルなトマトたち。赤やオレンジはもちろん、黄色に紫、黒っぽいのも混ざっています。

原田:これは大渡さんのトマトです。大渡さんは、独特な野菜をたくさん作ってはります。もともとアメリカでお坊さんをしていて、そのあとカナダ人の奥さんと茨城でベビーリーフを作っていたのですが、震災を機に関西へ移ってこられたんです。

坂ノ途中さんが取り引きをしている農家さんは新規就農の方がほとんどなので、元はバリバリのビジネスマンだった方からヒッピー生活をしていた方まで色々な経歴の方がいるそうです。そして、農家さんの性格とその人が作ったお野菜は、なんとなく似ていることが多いんですって。野菜セットには育てた農家さんの名前が書かれた説明書がついていて、同じお野菜でも作り手によって味や見た目が違うことが楽しめるようになっています。今年の春まで東京で坂ノ途中 soil ヨヨギ garageの店舗スタッフをしていた原田さんが、こんな話をしてくれました。

原田:農家さん担当の仕事をするようになって、野菜が生き物だっていうことに改めて気づきました。店舗にいた時は、扱う野菜はある程度形や大きさがそろっているものが多かったのですが、集荷で入ってくる野菜たちを見て「こんなに色んな姿があるんだ!」って。畑に行くこともあるので、店舗で見ていたそれぞれのお野菜が、この人がこの畑で作って、天候がこうだったから、この野菜になったんだということがわかってくるんです。天候の影響は特に大きいので、直前までどんな状態で届くかが読めないんですよね。なので毎回お野菜セットを作る時はたいへんなんです。

ここで、色鮮やかなビーツが登場。一片いただいて口に入れると、まな板が紅く染まる程の強烈なカラーとやさしい甘さのギャップに驚きます。

原田:これはゴメスさんのビーツです。ゴメスさんは、奥さんが日本人、旦那さんがブラジル人のご夫婦です。大原に畑があるんですけど、ブラジルをはじめ海外でよく食べられている野菜をたくさん育ててはります。マシシキュウリっていう丸いイボイボのキュウリとか、コラードグリーンっていうケールとキャベツの間みたいな野菜とか、珍しいものがたくさんあります。マシシキュウリは味もちょっと酸っぱくて、日本のキュウリとは全然違うんですよ。

さて、調理台の上にはオクラたちと和えるネバネバ野菜がやってきました。モロヘイヤとオカワカメです。オカワカメとはこの時が初対面だった私。その独特の見た目から味を想像してみるものの、いまいちイメージが定まりません。ほんのり緊張しながら大きめかつ厚めのぬるっとした丸い葉っぱをかじってみると、思ったよりも癖がなくて食べやすい。噛んでいくと旨味が口いっぱいに広がり、栄養がしっかり詰まっていることを感じさせます。2枚めのオカワカメをもぐもぐしながら「美味しい」と口々に言う私たちに、「でも生で食べたらめっちゃ苦いですよ」と原田さん。この一言に多賀さんが思わず口を開きます。

多賀:ここに来て驚いたのが、みんな、どの野菜でも生でぱくって食べちゃうんです。ほうれん草とかマッシュルームとか、私は今まで生で食べたことがなかったので驚きました。でもやっぱり、生で食べると味が一番よくわかるんです。

これを聞いて、野菜提案企業ならではの“あるある”話が他にもたくさんありそうだなと思わず周りを見まわしてしまいました。それにしても、こんなにバリエーション豊かなお野菜を毎日まかないで食べられるなんてうらやましい限りです。お店で買い物をすると無意識に知っている食材を選んで買ってしまいがちなので、お客さんにとっては、定期宅配で食べたことのない野菜が届いて味を想像したり味見したりすることが日常の中の楽しみになっているんやろうなぁと思いました。

坂ノ途中さんでは毎日ビュッフェスタイルでまかないを出されていて、お昼休みには大皿に盛られたおかずが調理台にずらっと並びます。お昼の時間まで待ちきれず、台所の前を通ってつまみ食いしていく人もいるんだとか。たまにまかないのない日があると、皆さん自分で野菜を焼き始めるそうです。ちょうどこの前日に「最近伸びている会社の多くに共通しているのは、会社に台所があって皆でごはんを作って食べていること」という話をある人から聞いたのですが、まさに坂ノ途中さんのことではないかと納得がいきました。

原田:この仕事をしていると、野菜が全部かわいく見えるんですよね。なのでスーパーとか行っても、なんか幸せな気持ちになっちゃいます。

多賀:わかります。嫌なことがあって落ち込んでいる時でも、ここに来てトマトを洗ってたら元気になってきます。

こんな話をしながらニコニコと笑顔でお料理を仕上げていくお二人。前回に続いて、この日も坂ノ途中のみなさんのお野菜への愛情をたくさん感じた取材でした。

時計は11時を回り、ここでの調理は完了。青い車にできたてのお料理を積み込み、最高気温37℃の予報を少しも裏切らない陽射しの中、おいかぜへと一本道を進みます。膝の上にはほかほかのお鍋たち。車内には炊き込みご飯の福々しい香りが漂います。

 

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