休日を、よく、映画を観てすごします。ちいさかったころ、映画好きの父に映画館を連れ回されたからなのか、いつしか私も映画鑑賞が趣味のひとつになりました。客席の照明がおちていく、あの、魔法にかけられたような瞬間、そして、ヒーローにときめいたり、見知らぬ国や時代に想いをめぐらせ、聞きなれない言葉を歌を聴くように愉しむ、私のとっておきの時間です。
一年のはじまりも映画です。あたらしいノートに最初の一文字を書くときのようで、毎年、すこし緊張して映画を探します。よい一年になりますように、そんな願いもすこし込めて──家でアマプラということも増えて、以前とは様子もちがいますが──。
今年は『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』(原題: The Iron Lady)を選びました。メリル・ストリープが、イギリスで最初の女性の首相になり、鉄の女と呼ばれたマーガレット・サッチャーを演じ、その人生を、若年のころから描いた二〇一一年のイギリス映画です。
ある場面で、サッチャーは、のちに信念となる言葉を父親から伝えられます。
「考え」が「言葉」になる。その「言葉」が「行動」になり、その「行動」がやがて「習慣」になる。「習慣」がその人の「人格」になり、その「人格」がその人の「運命」となる。「考え」が「人」を創るのである。
じつは、私はこの作品を観るのは二度目。この言葉が、最初に観たときから心に強く残り、もう一度観たいと思っていました。「考え」も「言葉」も、なにもかもがまだまだですが、いつか、私という人をつくりたい、そんな気持ちを、もう一度確かめたかった。

映画の本編がおわり、エンドロールが流れはじめます。すぐに席をたつ人もいますが、私は、客席のあかりが灯るまでまつ人です。余韻に浸りながら、数分間、スクリーンを流れるキャストやスタッフの名前をぼんやり眺めています。
そういえば、まえに、お野菜のひとつひとつにストーリーがあると書いたことがあります。もしも、そのお野菜にエンドロールをくっつけるとどうなるでしょう。お野菜を育てた農家さん、坂ノ途中、お野菜をはこぶドライバーさん、お客さま、八百屋さんやシェフ、まだまだたくさんの名前がならびそうです。お野菜という作品が、手から手へ、人から人へとつながり、観客(お客さま)のところへとどいていることを思うと、あらためて心がふるえてしまいそうです。
今年もよき一年でありますように。

●むらた

このたびの令和六年能登半島地震、犠牲となられた方々に心よりお悔み申し上げるとともに、被災された方々に心よりお見舞い申し上げます。