ひっそりと、しずかな畑が、不思議でした。セミの鳴き声が聞こえない。去年も、一昨年も、夏はけたたましくセミが鳴き、その声が畑仕事をいっそう暑くしていたのに。
気になって、ネットで調べてみると、わたしとおなじように問いかける投稿がいくつもありました。
セミは(種類によって)ある条件・気温帯で鳴くらしく、日本に生息するセミの場合は25℃~33℃くらいだそうです。34℃を超えると、危険な暑さを感じるためなのか、鳴かなくなってしまう。
セミの鳴き声のない、太陽の日差しだけがジリジリとあたりを焼きつける夏の畑は、不思議をとおりこして、不気味な感じでした。

この夏、やまのあいだファームのある亀岡は、猛暑のうえに、雨があまり降りませんでした。そのせいで、コガネムシやニジュウヤホシテントウなどの虫が大量に発生して、ナスの葉や実が食べられてしまう被害に遭いました。そして、その虫を餌にするカマキリもしょっちゅうあらわれました。
先日も、おおきなカマキリがオクラの葉にとまり、わたしが近づいても動くことなく、なにかに集中している様子でした。カマキリは、天敵のコウモリが発する超音波をキャッチできる耳があり、動くものまでの距離をつかめる目を持っています(霊長類の立体視とはちがうしくみだそうです)。なにかの獲物を狙っていたのかもしれません。


ヒトには、カマキリのような目も耳もありませんが、おおきな脳を持っています。感情や想像力を生み出す器官。
少しまえに、お客さまと、お野菜の物語についてお話をしました。目のまえのお野菜が、どこで、どんな人に、どんなふうに育てられたのか、その物語を思い浮かべてお野菜を口にしたとき、それはより愉しく味わえるのではないか、と。お野菜に、畑の様子や、農家さんの姿を見る、それが「人らしさ」かもしれない。
最近、AI(人工知能)が、ヒトの活動のあらゆる場面に進出しています。農業の世界も例外ではありません。これからさらに技術が進めば、人が汗だくになって働く農業は姿を消してしまいそうです。高齢化や人手不足は解消されるかもしれませんが、そこに物語は生まれるでしょうか。人間くささがなくなってしまうのは淋しく思います。
どのような未来がやってきても、わたしは小さな畑で土にまみれ、野菜を育てていきたいと思っています。ある農家さんが、どこかの畑で、お野菜を育てる、そんなお野菜の物語を受けとったら、その人には物語のつづきをつくってほしい、そんなふうに思っています。

●むらた