柑橘のおいしい季節。
海と山の自然にかこまれ、瀬戸内の気候を活かしながら、みずみずしい柑橘を育てる、広島、愛媛の農家さんを訪ねました。

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井上果樹園 井上守さん(愛媛県今治市)

この日は、愛媛県今治市、海の近くの山里にある〈井上果樹園〉さんへ。
家の前に着くと、チョビという名前の猫と、2匹のヤギがお出迎え。チョビに久しぶりねと挨拶をしていると、井上さんが畑から帰ってきました。

小雨の降っていたこの日、井上さんの車に乗せてもらい、柑橘畑の横を通りながら、堆肥置き場になっている小屋へ。果樹の栽培には主に、自家製の堆肥や青草エキスが使われています。
堆肥は、米ぬかや魚粉、海水などを混ぜたところに、大豆からとった乳酸菌を加えて発酵。青草エキスは、畑のまわりで採れるヨモギやスギナなどを発酵させたもので、果樹の葉に散布することで病害虫の防除をしています。

文字にしてみると簡単ですが、何十キロもの重いタンクを担いで、畑に撒いて、という作業は大変な重労働。それでも、自然の恵みを活かし、そして還す、という想いで、日々取り組んでいます。

さらに車を走らせてたどり着いたのは、井上さんが新たにつくっているという加工所。ここを見せてもらうのが、今回訪れた理由の一つでもありました。
完成はまだ少し先ですが、これからこの加工所を活用して、畑で採れた柑橘やキウイの加工品をつくっていく計画です。

井上さんはこれまで、ほかの加工所に委託してジュースなどをつくっていて、坂ノ途中でも、温州みかんジュースやレモン果汁などの販売をしています。
品質には満足している一方で、加工所は遠方にあり、混雑時はなかなか加工できないこともあったり、そのあいだ、収穫した柑橘やキウイを保管しておく場所が十分になかったり。それに、今育てている木が大きくなったときには、収穫量も増え、それだけ加工用も多くなる。そういったことを考え、自分で加工所を持ち、小ロットずつでも製造できるようにしておきたいと考えるようになったのだそうです。

場所はほとんど整ったものの、次に問題となるのが人手不足。この地域でも高齢化が進んでいます。井上さんがここで農業をはじめた13年前は、まだ周りで草刈りの音も響いていたけれど、今はそれすら聞こえない。さらに10年後はどうなるのか、と不安の声を漏らします。

ここで仲間をつくる、新しく就農する人の受け皿になる。そんな想いから、いくつもの畑の世話をし、ついには加工所まで手がけてきました。
「自分たちに恵みをもたらしてくれる今治の自然を、大切に次の世代へつないでいきたい」と話す井上さん。
わたしたちもどうにか力になりたいと、切に思います。
この記事を読んでくださっているかたや、そのまわりで、果樹の畑や加工所で働くことに興味のある方がいらっしゃれば、井上さんにお繋ぎします。お気軽に坂ノ途中までご連絡ください。

広島と愛媛の4軒の柑橘農家さんを訪ねた2日間。
気候や風土、育てる作物は似ていても、それぞれの農業のかたちがありました。
畑に足を運んで感じたのは、私たちに届けられる「おいしい」は、簡単に、当たり前と言えるものではないということ。土づくり、草刈り、枝の剪定……雨の降る日も、暑い夏の日も、畑に立つ農家さんの作業があってこそ、冬から春、冷たい風が吹く時期に、みずみずしい果実がなり、そして、わたしたちのもとへ届けられます。
柑橘を手にとるとき、どこで、どんなふうにつくられたものだろうと、想像を膨らませてみてもらえたら、うれしいです。

text/Moyuru Takeoka

 

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