こんにちは、海ノ向こうコーヒーで輸入・焙煎を担当している舛田菜緒です。
2021年から販売を開始した『ネパールのつぼみコーヒー』。多くの方から「ほっとするような味わい」といった声をいただいています。

ネパールは私にとって、とても思い入れのある産地です。今回は私がネパールと出会い、現地の農家さんとコーヒー栽培をはじめ、みなさんにお届けするまでのストーリー、そしてネパールという産地への想いを書いてみようと思います。

【INDEX】
なぜネパール?
ネパールでコーヒー栽培?
コーヒープロジェクト始動
マハバラットから広がった、新たな取り組み
小さなことから少しずつ

なぜネパール?

一番右がガネッシュさん、左から2番目が私です

「なぜ、ネパールなんですか?」
私がよくいただく質問です。

なぜ、ネパールなんでしょう……。
いまだにはっきりと答えることができません。

ひとつだけ言うならば、現地パートナーとして一緒に活動してくれているださっている、Ganesh Man Lamaさん(以下、ガネッシュさん)との出会いがすべてのはじまりでした。

2016年、当時大学2年生だった私は、2015年にネパールで起きた大地震の復興支援で、はじめてこの地を訪れました。そこで出会ったのがガネッシュさん。現地で日本語教育や旅行、ITなど、さまざまな分野の企業を取りまとめるグループ会社の社長を務めています(いつか彼のヒストリーも書きたいなと思いますが、また今度の機会に)。

「ガネッシュさんと、一緒に働いてみたい」
そんな、学生ならではの純粋かつ大胆な思いで、ガネッシュさんの会社でインターンをさせてほしいと申し出たところ、快く受け入れてくれました。それから1年後にはじまった私のネパール生活。おもな仕事は、日本語学校の先生として、日本へ留学をめざす学生たちに日本語を教えることでした。

あるとき、学生たちに「なぜ日本に行きたいの?」と聞いてみたことがあります。

「日本で働きたいから。働いてお金を稼いで、家族のためになりたい」
「両親は村にいて、仕事も農業しかないんだ。だから、私ががんばって働いて楽をさせてあげなきゃ」
「ネパールではいい仕事がないから。日本に行って仕事を見つけないと。家族と離れ離れになるのは、悲しいけどね」
そんな彼らの純粋な思いに、心が揺さぶられました。

ネパールでコーヒー栽培?

標高の高いネパールでは、空が近く感じられます

ある日、ネパール人の友人の実家に遊びにいくことになりました。私が暮らしていた首都のカトマンズから車で4時間ほど、カブレ ティマル サルシュカルカにあるチュカ村。ネパールで一番大きなお祭り「ダサイン」の時期だったので、友人の家族や親戚、村の人たちとお祈りをしたり、たくさんのごちそうを食べたり……とても楽しい時間を過ごしました。

「カトマンズの喧騒から離れられる、村の生活って穏やかでいいなあ」
そんなことをのんきに考えていました。

電気が十分に普及していない村では、日没から真っ暗になるのも早いです。ひとつふたつと民家の明かりが消え、星の輝きが一層強く感じられる夜。外で景色を眺めていると、ふと、友人が話しはじめました。

「実は、コーヒーを植えてみたんだよね」
え? コーヒーを植える? どういうことなんだろう。
当時、コーヒー栽培について全く知識のなかった私の頭にはてながいっぱい。コーヒーを「植える」ということにさえ、ピンと来ていませんでした。

「コーヒーは、野菜とかに比べてお金になるでしょう? 村にいても、ちゃんとお金を稼げるようにしたいんだ。村にいるのはほとんどが農家ばかりだよ。もちろん畑から自分たちが食べるぶんは収穫できるし、生きていくのには困らない。けれど、子どもたちに良い教育を受けさせるには全然足りないんだ。大学に行かせてあげたくても、お金がない。もちろん、大学に行ってないと良い仕事にもつけないよね。そうすると、その子どもも農家になるか、海外に行って危険な仕事をするか……そんな選択肢しかなくなる。だから、農家の子どももちゃんと学校に行かせてあげられたらいいなと思うんだ」

私は村に学校はないのかと尋ねました。

「大学はない。小学校や中学校、高校も昔は校舎すらなくて……僕も小学生のときは木の下で授業を受けていたよ。日本や海外の支援で、学校はできている。それでも、学校に行けない子は行けないんだよ」

ネパールでも公立の学校だったら授業料はいらないはずなのに、子どもたちが学校に通えない理由が分かりませんでした。

「雨季のあいだは村で農業ができるけど、乾季になると仕事がなくて、町に出稼ぎにいったりするんだ。たとえば、レンガ工場とか。そこに、子どもを一緒に連れていったりするんだよね。手伝わせることもある。すると、どう? 乾季の半年間は学校に行かないことになる。そんなに長く学校に行っていない子どもが、試験に合格して、良い成績をとれると思う? 」

私は、自分はなんて浅はかだったんだろうと思いました。
都市部の喧噪からちょっと離れ、豊かな自然にいやされたひととき。はじめて会った私を家族のように受け入れてくれる村の人。家族のために日本で働くんだと頑張る学生。いろいろなことが頭の中を駆け巡り、「……あのさ。コーヒー、一緒につくろう」と言わずにはいられませんでした。

コーヒープロジェクト始動

豊かな自然が広がるネパール

カトマンズに帰ってからすぐに、「サルシュカルカでコーヒーをつくりたい」とガネッシュさんに相談しました。なんと、ガネッシュさんはただの学生だった私の意見を聞き、「なおさんがそこまで言うなら、まずやってみよう」と言ってくれたのです。いま思うと自分はずいぶん無謀なことを言ったものです……。

やると決めたものの、そこからが大変。友人に聞きながら、コーヒーについて調べはじめました。
ひらけた土地がなくても森の中で育てられること。
ネパールのように標高が高い土地が栽培に有利であること。
果実は、野菜や果物より輸送中に傷んでしまう可能性が低いこと。
コーヒーの栽培をつづけられたら、もしかしたら何かプラスを生み出せるのかもしれない……と明るい未来を想像しながら必死に学んだのでした。

とはいえ、私もガネッシュさんも友人も、コーヒーづくりに関してはまったくの素人。自分たちだけで行うには、限界がありました。そこで、ネパールで教育分野を中心に活動する日本のNPO法人〈Colorbath〉に紹介してもらったのが、「海ノ向こうコーヒー」です。栽培から加工、販売のことまで、コーヒーの専門的なことをたくさん教えてもらいました。私も日本に帰国してから縁あって海ノ向こうコーヒーで働くことに。現在は、〈Colorbath〉と海ノ向こうコーヒーの双方でネパールのコーヒープロジェクトに関わっています。

マハバラットから広がった、新たな取り組み

農家さんたちにコーヒー栽培について教えている様子

2020年、サルシュカルカだけでなく、ネパールのほかの地域でもコーヒー産業の可能性を模索しようと、カブレ マハバラット(以下、マハバラット)を訪問しました。以前からコーヒー栽培が行われていた地域ですが、農家さんたちはそれぞれの手法でコーヒーを育て、収穫や加工を行っていたのです。農家さんは「今のやり方で、本当に正しいのだろうか? おいしいコーヒーをつくるにはどうしたら良いのか?」と悩んでいたそう。

「村、地域全体で、コーヒー生産をもっと盛り上げていきたい! 」
そんな思いを持った農家さんたちと出会い、 プロジェクトとして一緒にコーヒーをつくることになりました。

そこで、マハバラットでコーヒーを安定した品質でつくれるように農業グループを立ち上げることに。それが〈ププメンドコーヒー農業グループ〉です。「ププメンド」とは、マハバラットにすむタマン族の言葉で「お花(メンド)のつぼみ(ププ)」という意味。「ぼくたちは、まだはじまったばかりでお花のつぼみのようなものだ。でも、これからみんなでこのつぼみを咲かせたい」という願いが詰まっています。私たち海ノ向こうコーヒーもその想いを日本に伝えたいと心から思い、できたコーヒーを「つぼみコーヒー」と名づけました。

2021年、はじめて日本にやってきた「つぼみコーヒー」。飲んだ方から「おいしい」という声が寄せられたときはとても嬉しかったです。次の年にはもっとおいしくつくれるように、現地に行って、農家さんと一緒に取り組みたい。そんなことを考えていた矢先に、世界的に新型コロナウイルスの感染が広まり、渡航はかなわなくなりました。代わりに行ったのが、栽培や品質についてのオンラインセミナーです。農家さんからたくさんの質問が寄せられ、改めてコーヒーづくりに対する熱意を感じました。ほかにもコーヒー栽培のハンドブックを作成するなど、日本からできる方法で農家さんをサポートしています。 
(マハバラットだけでなく、ほかの地域の農家さんにも同様のサポートを行っています)

小さなことから少しずつ

植えられたばかりのコーヒーの木

ネパールでプロジェクトをはじめて約4年がたちました。サルシュカルカからはじまった活動は、現在はマハバラット、イラム ジトプールの3か所に広がっています。実は、3つの場所のうち、現在コーヒーが収穫できているのはマハバラットだけ。ほかの地では、苗を2~3年前に植えたばかりなので、収穫する段階には至っていないのです。コーヒーづくりは本当に時間がかかります……。

それでも大学生のときにネパールに行ってから、コーヒー栽培をはじめ、いまは海ノ向こうコーヒーでネパールの豆を販売したり、焙煎したりしている……夢のようで、まだ少し信じられません。こうして日本のみなさんにネパールのコーヒーを紹介できていることがとても嬉しいです。

農家さん、コーヒーを輸出してくれる現地のパートナーさん、そして輸入する海ノ向こうコーヒー、生豆を焙煎して届けてくださる日本全国のロースターのみなさん、ネパールのコーヒーを飲んでくださるみなさん。全員がそろってつぼみプロジェクトが成り立つと思います。いつも応援してくださっているみなさん、本当にありがとうございます!

大規模な土地もない、険しい山々で道路が整っていない、海外への物流も厳しい。
ネパールにはたくさんのハードルがあります。でもそんな弱みを強みに変えられるような産業づくりを、これからも農家さんと力を合わせて取り組んでいきたいと思っています。