母のつくるハンバーグ。思い出のお料理は? と訊ねられると、私はいつもそう答えます。
合挽ミンチにみじん切りの玉ねぎ、にんじん、じゃがいもの入った、まるでおはぎのようなたたずまい。そのときは、小学校からの帰り道、家に近づくと、台所の換気扇をとおして、肉の脂と特製のソースの混ざった匂いが漂っています。私は、その匂いをかぐと、たちまちテンションが高くなり、急ぎ足になってしまいました。元気のでる、魔法のハンバーグです。

私は和歌山市で生まれ育ちました。三人姉妹の末っ子です。
地元には、梅干し、みかん、醤油、マグロなど、日本の食文化になじみ深い特産物がたくさんあります。実家から、車で15分ほど走ったところには、小さな漁港があって、新鮮な魚介類が手にはいります。祖母といっしょに暮していたこともあって、食卓には、魚料理や野菜のおひたし、煮炊きものなど、あっさりしたお料理がいつも並んでいました──それもあってハンバーグの印象が強かったのかもしれません──。
お正月やお盆には、親戚の人たちがいっぱいあつまりました。母は手際よく、たくさんの料理をつくり、私たち姉妹が配膳係。母は料理を褒められると、お店を出そうかなぁ、なんて、いつも同じ台詞を口にして、みんなが笑う、そんな宴が毎年くりかえされました。

いまは、母はモモという名前の犬と暮しています。帰省したときには、みんなで囲んで食べる鍋料理が多くなりました。そして、実家をはなれるときには、つくったお料理をタッパーウェアに詰めて持たせてくれます。
来月はお盆。久しぶりに実家に帰省する予定です。たまってしまったタッパーを、母に返すつもりです。そのひとつに、母を真似てつくったハンバーグを入れてみようかと思います。

●むらた

やまのあいだファームでは、千両なすと賀茂なすに加え丸オクラの収穫がはじまりました。とうもろこしも待機しています。畑を見渡すとむらさき、みどり、淡い黄色とにぎやかです。
やまあいの夏のはじまりです。