vol.18

赤ちゃんのごはんにもお国柄があります。
あの国の赤ちゃんは何を食べているのかな? 

離乳食と補完食

赤ちゃんのごはんと聞くと離乳食を思い浮かべる方が多いかと思います。でも、海外では補完食という考え方の国が多くあります。
補完食はWHO・世界保健機構が提唱している赤ちゃんの食事です。離乳食は日本の厚生労働省が提唱しているもの。それぞれの定義は以下の通りです。

離乳食/離乳とは、成長に伴い、母乳又はミルク等の乳汁だけでは不足してくるエネルギーや栄養素を補完するために、乳汁から幼児食に以降する過程をいい、その時に与えられる食事を離乳食という。※「厚生労働省 授乳・離乳の支援ガイド2019年版」

補完食/補完食とは、母乳に加えて他の食物を与えること。それらの食物を補完食と呼びます。※WHO「Complementary Feeding -Family foods for breastfed children-」日本ラクテーション・コンサルタント協会 和訳

何が違うの? と思われるかもしれませんが、補完食はとくに「母乳」を大切にしています。
離乳食には「母乳又はミルク」という文言が出てきていますね。これは日本がミルクを安全・衛生的に作れる環境だからです。

WHOは世界の国々に対して栄養指針を発信しています。蛇口をひねるだけで安全な飲み水が得られる国は、世界を見渡してもほとんどなく、赤ちゃんが安心して得られる栄養源は、母親の乳房から与えられる母乳なのです。ですから、母乳をしっかり与えたうえで、足りない分を食事で補うといった補完食を推奨しています。

一方、離乳食では栄養補完にくわえて、食べる練習という意味を持たせています。これは口の発達を重視していることに関係しています。いわゆる先進国では成長期の歯列矯正がよく行われますが、日本ではそれほど浸透していません。そのため、よく噛む=食べる練習をすることで顎の発達を促し、歯列を整えるという狙いがあります。また、成人期のメタボリックシンドロームの要因として、早食いによる食べ過ぎがあるため、よく噛んで食べるための口の基礎を築くことを重視しています。

もちろん、離乳食も補完食も、乳汁だけでは不足しがちな栄養を与える、という基本的な考え方は同じです。違いは、靴を右足から履くか、左足から履くか、くらいの差です。

海外の赤ちゃんごはんはどんなもの?

補完食の考え方としては、母乳を優先するので、食事は栄養をなるべく詰め込んで少量にしようとします。日本の離乳食で控えめにする油脂は、補完食ではエネルギー(カロリー)を確保するためにしっかり使います。

そして、補完食では発育のための栄養補給を最優先と考えるため、離乳食のように月齢を目安とした食事のかたちはありません。栄養が含まれていて子どもが食べやすいものになります。レバーペーストなど、日本の離乳食では馴染みのないものが定番だったりします。

各国の離乳食の指針──日本でいうところの「授乳・離乳の支援ガイド」のようなもの──にもお国柄が出ています。いくつかご紹介しますね。

フランスの小児科学会のページでは、離乳食の開始のことを「多様化を開始する」と表現しています。乳汁以外のいろいろなものを食べていく、ということが自然と伝わる表現で素敵だなと思います。食材をひとつひとつ試していく、はじめは嫌がられても、10回くらい根気強くあげてみてとアドバイスがされていて、フランスの食文化を守るための味覚教育が影響しているのかな、と想像します(フランスにはジャック・ピュイゼ氏という有名な味覚の研究者がいます。日本にも和訳された書籍がありますよ!)。
※「La diversification alimentaire : comment débuter ?」
https://www.mpedia.fr/art-commencer-diversification/

イギリスの場合は、日本と共通している部分も多いですが、面白いのはフィンガーフード(手づかみで食べられるもの)をおすすめしているところ。日本でも耳にする「BLW・Baby Lead Weaning:赤ちゃん主導の離乳食」はイギリスが発祥です。赤ちゃんが自分で食べたい物や量などを意思表示出来るということを重視しています。
※「start 4 ife」 
https://www.nhs.uk/start4life/weaning/

アメリカでは離乳食の開始時期におすすめの食材として乳児用シリアルがあげられています。栄養価に重きを置いているので、乳児用シリアルの原材料は米・オートミール・その他全粒穀物など。日本で食べる白米に比べ、ミネラル類やビタミン類を多く含むものを推奨しています。補完食としての考え方が強いことが背景にあるのではないかと思います。
※「When, What, and How to Introduce Solid Foods」
https://www.cdc.gov/nutrition/infantandtoddlernutrition/foods-and-drinks/when-to-introduce-solid-foods.html

中国の離乳食の指針は日本のものを中国語に訳したものを使用しているようです──中国で暮らしていた知人の話ですが──。人種として近しい、食文化が共通項を持っていることが理由ではないかな、と想像します。

赤ちゃんのごはんにはたくさんの正解がある

赤ちゃんの食事についていろいろと調べることもあるかと思います。そして溢れかえる情報に、育児に不安を抱くこともあるかもしれません。
「これはダメ」「ゴボウは○か月から!」のような言葉もよく見かけますが、世界を見渡せばさまざまな方法、お国柄があって、そうして子どもたちは成長していきます。
日本に暮しているなら、いつもの食事に使う身近な食材を、赤ちゃんと一緒に食べられたら十分だと思います。それが上手くいかないようなら、ウエスタンスタイルでやってみようかなと呟きながら、試してもみたり。誰かの育児とくらべることなく、気負い過ぎず、自信を持って育児に取り組んでほしいなと思っています。

●奥野由(管理栄養士・母子栄養指導士)

執筆:奥野由(おくのゆい)
大学で栄養学を学び管理栄養士の資格を取得。食品メーカーで商品開発として楽しく働いていたが、出産を機に「子どもと食」への興味がむくむくと膨らみ退職。離乳食や幼児食の勉強をはじめる。母子栄養指導士の資格を取
助産院などで教室を開催しつつ、坂ノ途中と一緒にベビーフードを考えている。あだ名は「ちゅい」。その由来もいずれこのコラムで明らかになるかも……?