vol.16

みなさんは子どもの頃、好き嫌いがありましたか?
私はしろ菜や小松菜が苦手でした。なんとか口に入れて頑張って噛むのですが、飲み込めずにトイレでこっそり吐き出したりしていました。
でも、大人になった今はどちらも大好きです──不思議ですよね──。こんなふうに、子どものときに苦手だったものが大人になって食べられるようになった、好きになったという話はよく聞きます。
どうしてこうしたことが起こるのでしょうか。ご相談いただいたケースから、子どもの好き嫌いについて考えてみたいと思います。

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食べない子編「徹底的にお腹が空かないと食べる気持ちにならないんです」

相談・離乳食は食べないのに……

10か月の子です。
好きなものしか食べず、なかなか食べられるものが増えません。はじめてのものは絶対に口に入れようとしません。どうすればよいのでしょうか。
それと、離乳食はあまり量を食べないのに、赤ちゃんせんべいはもっともっとと欲しがるので、つい与えてしまいます。どのくらいならあげてもいいものでしょう?

回答・よくわからないものだから

はじめてのものを食べない大きな理由のひとつが新奇性恐怖です。これは、はじめての食べもの、色やかたちや匂いを怖いと感じること。
大人は食事を繰り返し経験したことで、茶色だからおしょうゆ味かな、緑の葉っぱだからこういう食感かな、プルプルしているからつるんと食べられそう、そんなふうに目の前の食べものの特徴から味わいを想像できるようになります。そして、これは寒いところで育てられる野菜らしい、これに含まれる栄養素は大切らしいといった知識や情報も蓄積されています。
でも、小さな子はこうした経験や情報をほとんど持ち合わせていません。好奇心旺盛な子なら、とりあえず食べてみよう! と思うかもしれませんが、慎重な子は、よくわからないものは口に入れない! と考えるのです。

新奇性恐怖との向き合いかたで、私がおすすめしているのは、ときどき食事に出すこと、親が食べている様子を見せることです。
食べなさい! と言われると拒否する気持ちは強くなります。無理強いせずに見守りましょう。それでも手が出ないようなら、「いらないのなら食べてもいい?」とだけ訊ねて、いいという返事があったら、「いただきまーす!」と大げさなくらい嬉しそうに食べてみせます。
こうすることで、その食べものの情報は、未知の怖いものから、親が美味しそうに食べるものに書き換えられて、次のときの行動は変わるかもしれません。

赤ちゃんせんべい、お子さんは大好きなのですね。あのサクサク感は離乳食にはないもの。お口のなかの感触が面白くて、遊びのひとつになっているのだと思います。
与えてもいい量が決められているわけではありませんが、成長に大切な母乳やミルク、離乳食の量に影響するようなら、赤ちゃんせんべいを減らせるよう、親子で楽しめるほかの遊びを見つけられると良いと思います。

相談・好きなものばかりを食べさせています

離乳食の頃は葉物野菜を食べていたのに、最近は残すようになりました。保育園では食べているそうなのですが……2歳6か月です。
家では、残されるのが嫌だったり、たくさん食べさせることを優先して、よく食べるもの、好きなものを出していまいます。
白ごはんは海苔を巻けば食べる、魚は食べないけれどお肉は大丈夫、野菜はトマト、にんじん、玉ねぎ、とうもろこし、きのこが好き、お味噌汁の具は豆腐だけ食べるという状況なのですが、決まり切ったものばかりを食べていて問題がないのか心配です。

回答・嫌いが好きに、好きが嫌いになることも

葉物野菜については同様のご相談が多いです。
子どもの口は発達の途上です。乳歯が生え、永久歯に生え変わり、12歳臼歯が生えてきます。それとともに歯触り、舌触り、味の感じかたも変化していきます。
2歳6か月ですと、大人の食事に近いものを食べはじめていると思います。離乳食の頃とは異なる食感、繊維や固さに、食べづらさを感じているのかもしれません。

保育園では食べられるということは、まわりでお友達も食べているという環境が手助けしているのだと思います。意思表示ができるようになる年齢なので、家では、これはあまり好きじゃないと伝えるコミュニケーションをとったり、甘えていることも考えられます。

特定のものばかり食べることについては、それがどういうものかにもよりますが、主食、主菜、副菜に分散していれば、それほど気にしなくても大丈夫です。今回のご相談ですと、海苔巻きごはん、お肉、にんじん、きのこの炒めもの、トマトのサラダ、豆腐のお味噌汁、というふうにきちんと献立がつくれますね。
好きなものだけという日もあっていいと思います。楽しくお皿をからっぽにできたという経験も大切です。ときどきはそうでないものも出してみて、これに触ることができたら、こっちの美味しいの食べようかというふうに、ゲーム感覚でふれあいをつくるのもいいですね。

私は子どもの頃、しろ菜や小松菜が嫌いでしたが、それは顎が小さく(歯科医院で治療を受けるほど)、繊維の多いものを噛むのが苦手だったからです。でも、成長して、顔に筋肉がついてからはしっかり噛みつぶせるようになり、美味しさがわかりました。
子どもは大人よりも苦味や酸味に敏感という研究データもあります。成長につれ、こうした味わいを好きだと感じられるようになることも多いです。

私の息子も、突然の好き嫌いがありました。
そのときは、息子の表情ばかり気にしながら食事をしていました。でも、まずは私が食べることを楽しもう! と切り替えて、美味しいねと話しかけることで、息子も嫌いなものにも少し手が伸びるようになりました。
私もまだまだ手探りしています。
いろいろな出来事で「嫌い」は「好き」に変わっていきます──その逆もありますが──。食経験と情報の積み重ねも関係してきます。気楽に、気長に、がいちばん大切かもしれません。

執筆:奥野由(おくのゆい)
大学で栄養学を学び管理栄養士の資格を取得。食品メーカーで商品開発として楽しく働いていたが、出産を機に「子どもと食」への興味がむくむくと膨らみ退職。離乳食や幼児食の勉強をはじめる。母子栄養指導士の資格を取り助産院などで教室を開催しつつ、坂ノ途中と一緒にベビーフードを考えている。