秋晴れの空がひろがる10月はじめの土曜日。
ポルトガルから来日中のワイン生産者〈キンタ・ドス・ロケス〉のルイス・ローレンソさん、次男のジョゼ・ローレンソさんを坂ノ途中の京都オフィスにお招きし、ワイン勉強会をひらきました。
まかない担当のスタッフは、朝からたっぷりのお野菜の下ごしらえをし、ワインに合わせるお料理を準備。ポルトガルの家庭でよく作られるという、たらとじゃがいものコロッケやエスカベッシュ(南蛮漬け)に、きのことれんこんのオーブン焼き、さといものサラダ、焼き栗など秋の食材をつかった品々が揃い、キッチンからいい香りが漂います。
お昼すぎになると、キンタ・ドス・ロケスのローレンソさん親子、彼らと私たちを繫いでくれたワインのインポーター、木下インターナショナルのスタッフさんらが到着。そして、坂ノ途中のスタッフも10名ほどが集まり、さっそく勉強会がはじまりました。
ルイスさん:
今日はお招きいただきありがとうございます! みなさんにお会いできて嬉しく思います。
これから私たちのワイン造りについてご紹介いたします。
山に囲まれた穏かな土地、ダン地方でのワイン造り
キンタ・ドス・ロケスは、家族経営のワイナリーです。
ポルトガル中北部、ダンという地域に、ぶどう畑とワインの醸造所があります。ポルトガル本土の最高峰、エストレラ山脈に近いこの地域は、標高が400m〜800mと高く、山に囲まれた盆地の地形をしています。松林に囲まれた畑がこの土地の典型的な風景です。
周囲の山々のおかげで、海からの湿った風、スペインからの乾いた熱波が遮られ、気候は穏やかです。土壌のほとんどを水はけのよい土質の花崗岩が占め、盆地を流れるダン川、モンテゴ川という二つの川が、土に適度な水分をもたらします。
ポルトガル原産品種のぶどうを大切に育てる
ポルトガルには固有のぶどう品種が多く、その数は250以上。これらが個性豊かなワインの味わいをつくりだしています。
キンタ・ドス・ロケスでは、この地方を代表する「トウリガ・ナショナル」や「エンクルザード」など、多品種のポルトガル原産ぶどうを育てています。赤ワイン用のぶどうは16種類、白ワイン用のぶどうは9種類、品種が定まっていないものを含めるともっとたくさんの種類のぶどうの木があります。
黒ぶどうのトウリガ・ナショナルはスミレの花のように香り、しっかりとしたタンニン感を持ち、白ぶどうのエンクルザードは糖度と酸度のバランスがよく、ワインに骨格を与えます。
そんな、ぶどう品種の持ち味を生かしながら、ワインを造っています。
産地の自然を尊重したサステイナブルな農法
私たちの農園では、化学合成農薬や化学肥料を使わず、環境に配慮した農法でぶどうを栽培しています。ぶどうの木の周りには、四季折々の花や草が自由に生えていて、そこでは虫や小動物も共生しています。土の中には菌がたくさんいて、土質を豊かにしています。
冬のあいだは、畑に羊を放ち、草取りを任せているんです。その羊のミルクからつくったチーズをいただくこともありますよ。
手摘みのぶどうを樽で熟成してワインに
畑の草刈り、枝の剪定、収穫から選別までを、すべて手作業で行っています。
大規模な農園では機械での収穫が一般的ですが、私たちは手摘みです。1箱におよそ20kg入る小さめのケースに摘んだぶどうを入れていきます。丁寧に選果することができ、また、ケースのなかでぶどうが潰れて発酵がすすむのを防ぎます。
こうして集めたぶどうはワインの醸造場に持ち込まれ、ここでもう一度選果作業が行われます。選果場での作業は、ときどき、孫のペドロも手伝ってくれます。彼はワイナリーが大好きみたいです。
そして、ワイン造り。醸造にはフレンチオークの木樽とステンレスタンクを使っています。
木樽はワインに複雑な風味を与え、タンニンを落として柔らかにするといった効果があり、ステンレスタンクは果実のフレッシュさや酸味を生かすといった効果があります。表現したいワインの味わいを造り出すために、これらの樽をうまく使い分けるようにしています。
1+1=2の世界から、自然相手の世界へ
私はここでワイン造りをするまで、数学教師の仕事をしていました。結婚を機に、妻の実家であるキンタ・ドス・ロケスにやってきたのです。はじめはワイン造りのことはさっぱり分からず、とても苦労しました。
これまでなら「1+1=2」という式で答えが出ましたが、自然相手のぶどう栽培、ワイン造りはまったく異なるものでした。最高のぶどう同士を掛け合わせたとしても、最高のワインになるとは限らない……当時は混乱しました。
先代である義父も、以前は鉄鋼商社マンとして働いていた人でした。ワインと異なるバックグラウンドから来た私たちは、伝統を継承しながらも、新しい視点を持ってワイン造りに取り組みました。
伝統を守りながら、新しいワインを
この地域ではもともと、複数のぶどう品種をブレンドして、赤ワインや白ワインを造っていましたが、当時、それぞれの品種の特徴を理解している人はいませんでした。
私はどのぶどうが、どんな味わいを持っているかを一つひとつ確かめながら、研究を重ねました。こうして、単一品種のワイン造りにも成功し、品種の味わいの特徴を理解してブレンドワインを造れるように。今では、ぶどうをブレンドする作業は、私にとってワイン造りでいちばん面白いパートの一つです。
義父は当時、実をつけにくく、育てにくい品種と敬遠されていたポルトガル固有品種のトウリガ・ナショナルの味の良さを信じ、たくさんの木を植えてくれていました。これからもこの品種を守り、美味しいワインを造っていきたいと考えています。
次世代のワイン造りを担う3人
今日一緒に来ている次男のジョゼ、そして長男のマヌエルと長女のルイーザが、キンタ・ドス・ロケスのワイン造りを受け継いでくれます。ジョゼとマヌエルは今もワイナリーで一緒に働いていて、長女のルイーザは今は別の会社に勤めていますが、そのうち帰ってきてくれるはず。3人とも性格が全く違うので最強のタッグになると思いますよ。
吉村(坂ノ途中ワイン担当):
お話を聞かせていただきありがとうございました。
今日は私たちのシェフが、それぞれのワインに合わせてお料理を準備してくれています。あちらでワインとお料理をいただきながら、さらに詳しくお話を伺ってもよいですか?
ルイスさん:
それは最高だね。いきましょう!
勉強会は、ワインとお料理のペアリングにつづきます。
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