まだ残暑がつづく9月、株式会社森野義が手がける〈KYONO ODASHI(きょうのおだし)〉の工場を訪ねました。坂ノ途中の京都オフィスから近鉄電車と徒歩で30分ほどのところにある、彼らの工場。近づくと、おだしのいい香りが漂ってきました。キリっとさわやかな笑顔で出迎えてくれたのは、KYONO ODASHI代表の森野賢治さん。坂ノ途中OnlineShopで新しくお取り扱いのはじまった3種類のおだしのこと、削り節の原料のこと、製造工程など、丁寧に分かりやすく教えていただきました。

つくり手|KYONO ODASHI(きょうのおだし)(京都府京都市)

左・工場長 金本さん 右・代表 森野さん

KYONO ODASHIは、1970年創業の京都・伏見の削り節屋〈森野義〉から、新しく生まれたブランドです。森野義ではこれまで、日本料理屋やうどん・そば屋などへの卸しが主な売り先でした。京都を中心に多くの料理人やお店の方からの信頼が厚い一方で、一般の家庭向けへの販売はわずか。「おだしの文化をもっと身近に」という思いから、家庭でも手軽に使えるおだしの提案をはじめました。
毎日の料理に使ってほしいから、余計なものは一切入れず、国内の産地から職人が目利きで選んだ、良質な節だけを使います。「簡単に、美味しく」おだしを楽しめるように、おだしのひき方や、おだしを使ったレシピもいろいろと発信中です。

節原料を知る

まずは、削り節の原料となる節について、お話を伺いました。
目の前に並んでいたのは、かつお・宗田がつお・さば・うるめいわしの4種の節。
見た目はよく似ているけれど、それぞれに味や香りの特徴があるそうです。

上からかつお節、宗田かつお節、さば節、うるめいわし節

かつお節は、最も香りがよく、すっきりとした味わい。
宗田かつお節は、血合部分が多いため、コクのある味わいに。
さば節は、甘みがあり、香りがしっかり。
うるめいわし節は、体が小さく頭からしっぽまで全体を使うので、魚そのものの味わいが感じられます。
こうした味わいが重なって、深いうま味のあるおだしが生まれます。

節原料それぞれの特徴に加えて、原料の産地や旬によっても味は異なります。
KYONO ODASHIの工場では、節ごとのバランスをとりながら、それぞれの風味が生きるよう、ひとつひとつ加工しています。

削り節工場見学


次は実際に製造しているところを見学させていただきました。節原料から製品になるまで、大きく分けて6つの工程があります。

1)原料攪拌(かくはん)


日本各地の産地から仕入れた節原料を混ぜ合わせます。工場長自ら、節の入った重い箱を持ち上げて大きなカゴに入れ、バランスよくブレンドします。

2)かご詰め


次の「蒸煮(じょうしゃ)」の工程に進むため、節をかごに詰めていきます。

3)蒸煮


かご詰めした節を蒸煮機に入れ、蒸気で加熱して殺菌します。

4)削り

専用の削り機で節を削っていきます。おだしの種類ごとに削り具合も調整します。

5)乾燥


削った節を熱乾燥します。

6)梱包


梱包し、最後は金属探知機でチェックをします。ここで、魚が釣られたときの針が検出されることもあるのだそう。最後まで気は抜けません。

これらの作業時間は全体を通しておよそ1時間。毎日2~3名のスタッフがこの作業を繰り返し、安定した品質の削り節がつくられています。
「削り節の作業工程はさほど難しくありません。私たちのこだわりは違う産地、生産者の節と節を合わせて調合することで、年間を通じて安定しただし感のある味をお届けしていること」と森野さんは教えてくれました。

おだし飲みくらべ

最後は、森野さんに「特撰削り節」のおだしをひいていただき、4種類のだしの飲みくらべをしました。「特撰削り節」以外の3種類は、市販のだしパックや白だしで、調味料や砂糖の加えられたもの。
どれもうま味があり、美味しいと感じられるものの、削り節はどこか違う。すっきりとしていて、こくのある深い味わい……素材の味が引き出されている! 坂ノ途中のお野菜を口にしたときの「しみじみとした美味しさ」と似た感覚のように思いました。

森野さんは明るくこう話します。「市販のだしにも、手軽にうま味を料理に取り入れられる便利さがある。けれども、削り節で一からおだしをひくということが、ひとつの選択肢になったら嬉しい。暮らしのなかで、手間や美味しさのバランスをとりながら楽しんでもらえたら」。

「味のブレ」を楽しむ

さらに印象的だったのは、家庭でおだしをひくことで生まれる「味のブレ」も楽しみのひとつだというお話。
森野さんが学生のころ、お腹を空かせて部活から帰ると、家の食卓にはおだしを使ったおかずとご飯が並んでいました。「今日は味濃いめやな」「ちょっと薄いんちゃう」というふうに、よく母親と話していたそうです。
いつも一定ではない味、ブレがあるからこそ生まれる会話。おだしは、食卓でのコミュニケーションにもつながります。

KYONO ODASHIの、素材の味が引き立つ、やさしく、厚みのある味わいのおだし。美味しいだけでなく、食卓まで温かくしてくれそうです。

 

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