このところすこし忙しくて帰宅が遅くなりがちでした。
家につくのが遅くなるとそこからお米を研いで炊きあがるのを待ってはいられなくパスタかうどんを茹でたりとすぐ食べ始められるものをつくりがちです。 こういう生活が続いているとたまにちゃんとお米を炊くことができるとほっとします。ありものでつくった味噌汁とちょっとしたおかずをつくっていっしょに食べる米がうまい。

(米、どんぶりは近所の陶器屋さんで買いました。)

そんな中、炊飯器の保温をうっかり切ってしまって放置してしまったことで、しばらく食べる機会がなかったお冷やご飯のおいしさを再発見しました。 保温せずに常温で数時間か半日ほど置いておいたご飯です。

「冷や飯を食らう」という言葉があるようにお冷ご飯は冷遇されることの代名詞でもあるのですが、なかなかうまい。自分が育った家では、大きなガラスのボウルにとって蓋をしておいたご飯がしばしばキッチンに置かれていて、単に「お冷や」と呼ばれていたことを思い出します。おなかが減ったときにはこれをおやつ代わりにそのまま食べることもありました。

そんなことを考えながら読んでいた本に、お冷ご飯に触れられていました。時代小説家の子母沢寛さんが新聞記者だった1920年代に、著名人に食について聞きにいって新聞に書いたコラムをまとめた「味覚極楽」という本です。うまそうな料理屋やこだわりの美食に混じっていた、この、お冷やご飯の話がおもしろかったので紹介します。

ゆく年くる年で有名な増上寺の大僧正、道重信教さんの話です。引用します。

飯じゃがね、これはつめたいに限る。たきたてのあたたかいのは、第一からだに悪いし歯にもよくないし、おまけに飯そのものの味もないのじゃ。本当の飯の味が知りたいなら、冬少しこごっている位のひや飯へ水をかけて、ゆっくりゆっくりと沢庵で食べてみることじゃ。この味は恐らくわしのような坊主でなくては知るまいが、うまいものじゃ。

なんだかよく分からないですが、じんわり唾が出てくるような迫力のようなものがある気がします。温かいご飯が体や歯に悪いというのは迷信ですが、お冷やご飯こそが米の味がわかるというのには同意します。この1934年に亡くなった大僧正のころのお米から、いくぶん品種改良もされているので同じ味ではありませんが現在のお米も冷ましたほうが味がよくわかります。余談ですが、この大僧正の兄の孫の孫(ほぼ他人です)は「モーニング娘。」の道重さゆみさんで、この増上寺でライブをしたこともあるそうです(出典 http://www.crank-in.net/entertainment/news/29082)

機会があればみなさまもぜひ冷めたお米をゆっくり噛んで味わってみてください。

(たまに鍋で炊いて、おこげができるのもおいしいものです)

そういえば、自分はいつごろからお冷やご飯をいつから意識していたかを振り返ると、大学生のころのある失敗に行き当たります。大学では、過酷な練習で知られるボート部に所属していて朝晩、大量の練習をこなしつつ米を1日5合も食べる生活をしていました。いまでは信じられませんが摂取カロリーを計算すると、一日5,000kcalは食べていたはずです。これだけ食べてようやく体重をキープできていて、よくやれたなと思います。食べるのが仕事なこの生活にて、大量に食べるお米をおいしく食べるためにいろいろ試行錯誤していて、卵かけご飯(当時はTKGと呼ぶことが流行っていました)はさまざまな種類を試しました。海苔とめんつゆと卵が好みでしたが、シンプルな醤油だけが定番です。あるとき、炊きたてすぐに卵かけご飯をつくったらもっとおいしいんじゃないかと思いいたりまして、一度、炊飯器でご飯を2合炊いて、その炊飯器に直接、卵を2つ落として醤油を混ぜて食べたことがあります。ほかほかの湯気が立つ熱いご飯に卵を混ぜてさぞおいしいだろうと期待していたのですが食べてみると、炊きたてゆえの柔らかさとともになんともいえない微妙な食感で食べきるのに苦労したのでした。そのときに、もしかして、炊きたてご飯は、そのイメージほどはおいしくないのでは、と思いなおし冷静にいろいろ食べ比べていく中で、お冷やご飯の美味しさに気付いていったのを覚えています。就職してからは、炊飯器に保温をかけるようになって、自然とお冷ご飯を食べていませんでしたが、最近になって再びお冷ご飯を意図的につくって食べています。


坂ノ途中ではいま、いくつかのお米を扱っていますが、コシヒカリもササニシキも京都旭も、どれも個性はありつつ冷めてこそ、それぞれの味の違いが見えておもしろいです。
もちろん、なにかおかずと食べてもいいし、味噌汁に入れてねこまんまにしてもいい(ただし、一部地域の人は、ご飯に鰹節と醤油をかけたものをねこまんまと信じているようなのでご注意を)、ふりかけをかけたり、炊き込みご飯とかやくご飯とまぜご飯はどんな関係なのだろうか考えながら食べる炊き込みご飯もうまいです。 たまにいい魚が手に入れば酢飯にして寿司にしましょう。

いろいろなお米 | 坂ノ途中

というわけで、お米はいいものだと再発見した今日このごろでした。

片山

これはスーパーで買った筋子を漬けてつくったいくらを載せたごはん。いくらは濃厚で抜群な旨味があるけれど、それを輝かせるのは白米しかないと思います)