vol.13

ベビーフードはとても悩ましいです。
私は離乳食をつくることにすごく苦労していました。育児で疲れているうえに、柔らかくしたりすり潰したりの手間も大変、味にも──赤ちゃん用ですから確かめようもなくて──不安がある。
だからベビーフードに頼ったことが何度もあります。
でも、少し後ろめたさもありました。
美味しいものを、旬のものを、手づくりのものを食べさせたい、そう思っているぶん、子どもに対して申し訳ない気持ちになりました。

manmaのベビーフードに出会ったのは最近のことです。
ホームページには、「野菜の風味がそのまんま」「そのとき美味しい旬の味」。なんだか坂ノ途中みたいでした。
試食させていただくと、その言葉どおりの味わい──野菜のお味そのままだから大人でも美味しくて──。
ほんとうに、子どもが小さかったころに知っていればと思い、坂ノ途中OnlineShopのアイテムのひとつにもなりました。

最高の離乳食づくりに取り組んでいるのは、滋賀県に本拠をおく、株式会社はたけのみかたさん。
代表の武村幸奈さんに,少しお話を訊かせてくださいと言うと、「もちろん!」と元気な言葉が笑顔といっしょに返ってきました。

はたけとの出会い

──武村さんがmanmaにたどり着くまでのことを聞かせてください。学生時代とか、将来をどう思い描いていましたか?
「なにか社会のためになることができればいいなあという、ぼんやりとした気持ちがあったんです。今の社会、どうなってんねん? みたいな。大学は政策学部という、町づくりや社会課題を学ぶところに進みました。それで1年生のおわりに「伏見わっしょい新党」という学生団体をはじめたんです」
──伏見わっしょい新党?
「はい。わっしょいですから、お祭りみたいにいろいろなことができるといいよねというので、たとえば食のイベントの企画をしたりしていました。農家さんとの関わりが生まれたのもその活動からです」
──農業とか農家さんって、あまり身近ではなかったんですか?
「まったく縁がありませんでした。農家さんにお声をかけたことで、農作業を体験させてもらう機会ができたんです。それをきっかけに、ただお野菜を売るのではなくて、育てられた農家さんをお呼びしてお話をしていただくような、そんな野菜市を企画しはじめました」
──農家さんとのお付き合いで、なにか影響を受けられた?
「ある農家さんに、イベントでお野菜を売らせてほしい欲しいってお話をしたんですね。すると、その方から、八百屋になりたいのかって言われたんです。かなり衝撃的でした。私たちと八百屋さんってどう違うのか。私たちができることってなんだろう、求められてることってなんなんだろうって考えるきっかけになって」
──それが、はたけのみかたにつながっていくんですね。
「そうですね。八百屋になりたいのかと言われたのは1年生のときで、それから3年、4年考えつづけてはたけのみかたというかたちになった。自分たちがなすべきことを考えるきっかけになった出来事です」

はたけのみかた

──はたけのみかたというのは面白いネーミングですね。
「ありがとうございます(笑)」
──名前の由来を教えていただけますか。
「社名の「みかた」は、あえて平仮名なんです。3つの意味があって、ひとつは、私たちは畑の「味方」でありたいという意志の表明。もうひとつは、畑に対する「見方」を変えるような仕事をしていきたいということ。それから、私たちが滋賀の会社ということもあって、昔の近江商人の思想をあらわした「三方(さんぽう)よし」という意味も社名に込めました。売り手にとっても、買い手にとっても、そして社会にとってもよい商いをすること。私たちもその精神を大切にしたいという思いですね」
──畑、農業に対する「見方」を変えるというのはどういうことですか?
「みなさん、お野菜は食べられるのに、畑のことって、あまり知られていないと思うんです。何処でどんなふうにお野菜が育っているのかわからないだけでなく、なにか固定観念のようなものがあるようにも感じます。ひとりひとりの農家さんが、それぞれの思いを持って取り組んでいること、社会のなかでこういう役割を果たしているんだということ、あ、そんな大切な意義があったんだとか、そういうふうに、畑に対する見方を変えていきたいなっていう意味で「見方」と」

大切にしたいのは、優しさ

──武村さんも、小さいお子さんがいらっしゃるんですよね。
「はい。2年前に息子が生まれました」
──どんなふうに育ち、どんな未来が、将来が訪れてほしいと思っていますか?
「私はこの子になにを伝えられるだろう、伝えたいんだろうと考えるようになりました。ひとつ思い浮かんだのが、優しさです。人のことを思える人。今の世の中にはいろいろな問題があるし、これからも新しい問題が出てくるし、立場が違い、意見が違い、解決が難しいものもたくさんある。だけど、人と人とかお互いに了解しあえるところを諦めずに探っていくこと、真摯に考えつづけること、あなたと私は考えが違うけれど、ここまでは一緒に答えを出すことができるよねと行動と言葉を紡いでいくこと、そういう姿勢が優しさかなと思うんです。私も、息子も、はたけのみかたも、そうありたいと思います」
──難しいけれど、すごく大事なことだと思います。
「manmaの背景にも、野菜の風味のことや、坂ノ途中さんと同じように環境に負荷をかけない農業という考えがあります。でも、だからといって有機農業は良い、それ以外の農業は悪いと、白黒をつけるような考え方は少し変だと思います。その間(あわい)や、人の想い、未来にどうつながるのかを考える、その時間こそが大切なんだと感じています」

(Part2はこちら

執筆:奥野由(おくのゆい)
大学で栄養学を学び管理栄養士の資格を取得。食品メーカーで商品開発として楽しく働いていたが、出産を機に「子どもと食」への興味がむくむくと膨らみ退職。離乳食や幼児食の勉強をはじめる。母子栄養指導士の資格を取り助産院などで教室を開催しつつ、坂ノ途中と一緒にベビーフードを考えている。あだ名は「ちゅい」。その由来もいずれこのコラムで明らかになるかも……?