気候や土壌と向き合い、環境に配慮して育てられたお米の定期宅配「田んぼと食卓むすぶお米」。
それぞれのお米の産地の景色やつくり手の想い、味わいをご紹介します。

「小さいころから田んぼの手伝いをしたり、店の手伝いをしとって、それがめっちゃ楽しくて」

その、まだ色鮮やかに聞こえる思い出を話してくれたのは、nakata farmの中田拳太さん。父親とふたりで農園と店を営むため、地元である三重県伊勢市に帰ってきたのは、2023年、彼が28歳のときだった。

米と餅と漬物。その生産・加工・販売を家族で手掛けるというのが、彼のひいおばあちゃんの代からの中田家の生業で、週二回、大阪の枚方市にある自店舗へ行ってお米や野菜を売り、月二回は京都の縁日にも出店する。それ以外は、田んぼの手入れをして、餅つきをして、漬物を仕込んでと、話を聞いているかぎりはほとんど休む暇もないようすだけれど、彼の話し声はあかるい。

拳太さんは、坂ノ途中の元スタッフでもあって、野菜の出荷や、生産者さんとのやり取りを担当しながら、その傍らで映像やカメラの仕事をしたり、レストランで働いたり、人一倍の好奇心を持っているように見えた。彼はどのようにして、いまの仕事へとたどり着いたのだろう。

自分でつくって、自分で売る

「ずっと親父の背中を見てきて、商いが好きっていうのが、自分の軸にあるんです。

大学進学のときは、好きな映画を学ぼうと京都の大学に行って、監督を目指したりもしたけど早々に挫折して、カメラをずっとやっていて、でも自分の生業ではないなと感じていました。就職となったときに、やっぱり家の仕事をしたいと思って、親父に話したんですけど、やめときって断られて。当時はなんでやねんって思ってました。

それで結局、京都の映像会社で働きはじめたんですけど半年で辞めてしまって。そのとき、世の中では種苗法改正の話があって。農ともう一度向き合いたいなと思ったタイミングで 偶然見つけたのが、坂ノ途中だったんですね。まったく、どんな会社か知らなかったけど、野菜に触れられるならいいかというので入って。全国のいろいろな野菜を見たり、味わったりして、ものすごく五感を刺激されました」

「でも、やっぱり商売が好きで、自分の店を持つならどんな店がいいのかと考えていたときに、不思議に惹かれたのが、長崎の雲仙市にある『タネト』という野菜の直売所だったんです。インターンを募集していたので迷わず行ったら、もう、面食らった感じで。

まず農家さんがすごいんですよ。在来種の野菜をずっと種とりして繋いでいるご夫婦に出会って。野菜も米もいのちがあって、食べものである以前に、生きものであるということを感じた。自分の目指したい農家のかたちが生まれました。

そして直売所では、その野菜を、たとえば葉物は根っこが付いたまま水に浸けて売っていたり、生きものとしての姿を見せていて。つくり手へのリスペクトを持ちながら、お客さんと会話していて、とても気持ちのいい売り場で。こういう商売がしたいと思いました。つくり手と売り手。それが家の仕事とも繋がって、自分にもできるっていう可能性が見えたような気がしたんです。

それで伊勢に帰って、もう一度、親父に話をしたら、まあ一緒にやってみるかと。

最初に話したときに断ってくれたこと、いまでは感謝していますね。おかげで、面白い人や野菜と出会えたし、自分自身も柔軟に考えられるようになった気がするから」

生きものとともに

「畑に立って、日々感じているのは、生命の循環。トラクターで土を耕せば蛙が出てきて、それを鳥たちが食べる。草刈りのときは、草といっしょに蛙やカニを切ってしまうこともあって、でもそいつらはそのまま畑の肥料になったり、ヘビの餌になったりする。複雑な気持ちではあるけど、食物連鎖、いのちが繋がっていることをいつも実感している。一方で、自分の手で土地の生態系を崩すかもしれないという不安もあって。

特別栽培基準のお米は、そういうことを考えながらも、僕がやりたいといって、新しくはじめたんです。いまは、一町ほどの面積ですけど、小さくてもいいから、続けていきたい。

カメムシからの被害を抑えられるように田植えと稲刈りの時期を一番早くしたり、なるべく草が生えないように親父は水の管理をしてくれたり。それでも、夏の草刈りは毎日大変なんですけど。

目標は、自分で有機栽培のお米をつくることです。人それぞれの考えがあっていいと思うし、エゴになってしまうかもしれないけど、自分としては、いちばん気持ちのいいつくり方であって。おそらく、お米たちも、気持ちよく育ってくれるんじゃないかなと思っているんです。この地域は海に近くて、田んぼの水が直接海へ流れるから、まわりの環境にも配慮したい」

つくれることへの感謝

「去年、米づくりをしていて、思ったんです。いま、お米や野菜をつくれる環境にあるというだけでも、すごく有難いということ。水不足や大雨で作物が収穫できなくなったというようなニュースを耳にしたり、自分でもこの気候を外で体感していると感じます。つくれることに感謝。この気持ちだけは、ずっと大切に持っておきたくて。辛いときとか、落ち着きたいときにも、思い出すようにしています。

そして、お客さんがいてくれる、食べてくれる人がいるというのも、ほんとうに大切。つくるだけで意味がないことはないけど、商売あっての農業っていうのが、うちらにはあるから。感謝してやっていきたいです」

8月中旬、お盆が明けると、nakata farmの稲刈りが始まる。春に田植えをして、夏は毎日汗だくになりながら草刈りと水の管理をして。この数か月のあいだに、小さな種が、何十倍にもなって実り、収穫のときを迎える。

拳太さんとお父さんのつくるお米、コシヒカリは、伊勢の穏やかな気候のもとで陽をたくさん浴びた、熟した甘みがあって、一口でも満足するのに、次々とお箸がすすむ澄んだ味。これからも、味わっていきたい。

彼自身のこれからの店づくりについて、最後に訊いてみると──。目指すのは、ひいおばあちゃんが始めた枚方の店のような、地域に根ざし、地元のひとに愛される店。米と餅と漬物を売って、おにぎりを握って、週末には市をひらいて野菜を売るような未来のすがたを描いているらしい。

伊勢のひとびとの、にぎやかな笑い声が、もう聞こえてくる。

 

nakata farmのコシヒカリ
・産地
三重県伊勢市
・栽培基準
特別栽培農産物相当(化学合成農薬の成分使用回数、化学肥料由来の窒素成分量が栽培地域で慣行的に使用されている量の半分以下)
坂ノ途中の特別栽培についての考え方はこちら

季節とともに移りゆく色。
水や土、草花と生きもの。

にぎやかな田んぼの景色を一緒に育んでいきませんか。

おいしいお米を味わうことが田んぼとわたしたちの食卓をむすび、未来につづく農業や暮らしを考えるきっかけとなりますように。