みなさんが野菜をほんまに好きなんやなって実感できました

[ 台所編に続き、株式会社おいかぜの取材チームがお届けします。]

平成最後のクリスマスを目前に控えた三連休初日。冬の京都らしからぬ穏やかな空気が漂う夕暮れ時、4回目となる坂ノ途中×oikazeごはんが始まりました。旬のお野菜を存分に味わいながら、株式会社坂ノ途中 代表取締役 小野邦彦さんと、株式会社おいかぜ 代表取締役 柴田一哉が野菜にまつわるよもやま話をくり広げるこのイベント。冬の会は初めての夜ごはんです。西喜商店さんが振る舞ってくださる自家製サングリアや梅サワーに、ついつい心が躍ります。

ウガンダで育ったごまの香りを最大限引き出した、無濾過のごま油です。

小野:さっき「ごま油が美味しい」という声が聞こえたので、今日はごまの話から始めたいと思います。坂ノ途中は環境への負担が小さい農業を増やすことをテーマに野菜を販売している会社で、日本国内だけでなく海外でも活動しています。そのひとつとして、2012年から5年間ウガンダで有機農業の普及活動をしていました。

アフリカの農村では、すごく乱暴に言うと、雨の量と経済的な豊かさが比例します。雨の少ない土地では、キャッサバなどのあまり収入の見込めない作物しか作れないんです。ウガンダの乾燥地域で生産者さんたちが十分な収入を得られる作物は何かと考えて、乾燥に強いごまを育てて日本に輸出することにしました。ところが、ウガンダで栽培しているごまは品種改良が進む前の粒が小さい品種でした。日本の商社が欲しがるのは粒の大きいごまです。

だから、僕たちは粒の小ささを活かす方法を考えました。果実も種子も、皮の近くには、中身を守るために香り成分や抗酸化作用のある成分が含まれています。粒が小さいほど皮の割合が多くなるので、ウガンダのごまは香りが豊かなはずなんです。そこで、京都の桂にある山田製油さんに、焙煎を深くして香りを強調したごま油を作ってもらうことにしました。焙煎方法を工夫することで、甘みや旨みは弱くなりますが、香りをしっかり出すことができるんです。

さらに香りを際立たせるために、今シーズンから無濾過のごま油を作っています。普通は焙煎したごまを絞った後に、沈殿物を取るために濾過するんです。でも濾過すると香りや旨みは損なわれるので、この商品は濾過せんとこうと決めました。なので、かなり香りが際立ったごま油になっています。

製造方法についてもう少しお話すると、山田製油さんは昔ながらの道具を使ってごまをギューッと絞っています。ごまは成分の50%くらいが油なんですけど、物理的に絞るそのやり方では、油は半分の25%くらいしか取れません。一方、多くの企業は、化学薬品を使って油を全部取るんですね。その方が経営効率はいいけど、薬品を使うので人によってはなんか嫌やなと感じる人もいるし、雑味やえぐみも一緒に抽出してしまいます。

絞った後のごまは、農家さんに肥料として使ってもらっています。有機肥料って匂いがきついものが多いんですよ、鶏糞とか。ごまの絞りカスは香りがいいので、畑にまくと気持ちがいいと好評です。ウガンダから始まった海外事業は他の地域でも続いていて、2016年からはラオスの山の中でコーヒーの品質向上プロジェクトを実施しています。

暖冬などの影響で、野菜がめちゃくちゃ安いです。

小野:今日は西喜商店の近藤貴馬さんがドリンク担当で来てくださっているので、野菜の値段の話をちょっとしたいなと。今、野菜がめっちゃ安いですよね。

近藤:自己紹介が遅れましたが、近藤と申します。うちは京都で90年程続いている八百屋で、主に京都市中央卸売市場から仕入れた野菜を扱っています。僕は四代目として3年前から店に入りました。

この冬は本当に野菜が安いですね。小松菜が特に暴落していて、市場の落札価格が一袋25円まで下がりました。普段は100円前後なので、この数字には驚きました。夏は自然災害が続いて野菜も高かったんですけど、秋以降は晴れの日が多くてどこの畑も大豊作になりました。逆に去年の冬は、お鍋ができないくらい野菜が高かったのを覚えてますか?秋に台風や大雨が続いて、白菜が一玉1000円、レタスも一玉800円くらいしたんです。その影響で、作付けを増やした農家さんも多かったんだと思います。

小野:この冬はあったかいですよね。その分、野菜の成長が早いので、年明けに収穫する予定だったものを前倒しで収穫せざるをえない状況です。なので、年明けはもうちょっと値段が上がると思います。

僕らは農家さんとは固定価格で直接取り引きするので、世間一般に野菜が安くなっても通販の野菜セットの値段と量は変わらないんです。ただ、この冬はとにかく野菜が安いので、新規の注文がものすごく少ないですね。レストランや小売店さんからの注文も、全体的に見ると減っています。

近藤:僕は、市場価格が安いと、直接取引している農家さんからの仕入れがしづらくて心苦しいです。いつもと同じ値段で仕入れると、市場の安い野菜と並んだ時にどうしても売れ残ってしまうので。好きな農家さんの野菜を扱いたいという思いがある一方で、市場からはいっぱいあるからもっと買ってくれという声が強くて、この冬はずっと葛藤があります。フードロスの問題も悩ましいですね。市場が出荷制限をかけているので、この冬は野菜の産地でかなりの廃棄が出ていると思います。

冬至に食べるかぼちゃが、地球の裏側から輸入されている理由。

小野:今日は冬至なので、かぼちゃの話をしようと思います。かぼちゃって、いつ収穫するかわかりますか?

参加者:夏です。

小野:そうです。夏の終わりに収穫します。夏に収穫したかぼちゃを冬至に食べる風習が生まれたのは、昔はかぼちゃの皮がもっと固くて、かなり日持ちする野菜だったからなんです。冬は栄養価の高い食材が不足するから食べずに置いておこう、と先人たちは考えたわけです。

ところが、最近はこの風習が成り立たなくなってきました。切りやすさを優先して皮が薄くなるように品種改良した結果、今のかぼちゃは2~3ヵ月置いておくと傷んでしまいます。冬至までもたないんですね。今日の料理に使った宿儺(すくな)かぼちゃは飛騨の伝統野菜で、昔からある皮のかたい品種なので、冬至まで置いておくことができます。でも今では、この時期のかぼちゃはほとんど輸入物なんです。古くから伝わる食の習わしが、輸入に頼らなければ行えないという不思議な状況になっています。

しかも、かぼちゃは昔よりも美味しくなくなっています。ホクホク系のかぼちゃは、いっぱいデンプンをためこんでから収穫して、収穫後にデンプンがゆっくり糖に変わるのを待って食べるのが一番美味しいんですよ。でも、皮の薄いかぼちゃだと甘みが出る前に傷んでしまいます。品種改良によって美味しくなる野菜も多い中で、かぼちゃは品種改良によって味が落ちた野菜のひとつだと思います。

近藤:国産のかぼちゃは、今の時期もうほとんどないですね。うちの店でもメキシコ産を置いています。日本から持って行った種を農薬の使用を抑えて栽培しているので、安全面の心配はないんですけど、気持ちとしては複雑ですよね。冬至にかぼちゃを買いに来るお客さんも少なくなりました。ゆずは売れますけど。

小野:そもそも、かぼちゃの原産はメキシコあたりなんですよ。ネイティブアメリカンの主食であるトウモロコシよりも先にかぼちゃの栽培が始まっていた、という説もあります。人類史上最古の栽培食物のひとつかもしれないですね。ちなみに、日本最古の栽培食物とされているのは里芋です。米よりも先に里芋を育てていたそうです。

1500年代にコロンブスがアメリカ大陸を発見して、かぼちゃの存在が世界に広まっていき、日本に入ってきたのは1541年です。その時のかぼちゃは、べちゃっとした食感をしていました。甘さも少なくて、昔は冬瓜みたいな感覚で食べていたんだと思います。鹿ケ谷(ししがたに)かぼちゃという京都の伝統野菜が似た種類ですね。今のほくほく甘いかぼちゃが出てきたのは明治維新頃です。アメリカで品種改良されたものが黒船来航のタイミングで日本に入ってきて、国内でさらに品種改良が進みました。その品種を、今またメキシコに持って行って栽培してもらっているという、かぼちゃをめぐる長い物語があるんです。

品種改良によって美味しくなくなった野菜もいくつかあります。

参加者:かぼちゃの他に昔よりも美味しくなくなっている野菜はありますか?

小野:鋭い質問ですね。一番わかりやすいのはネギです。昔のネギって、京都の九条ネギみたいな青ネギ系は、とろっとしたあん(餡)が中に入っているのが普通やったんです。あんには旨味が詰まっているし、水溶性の食物繊維なのでデトックス効果もあります。ただ、流通の過程でネギがやぶれてあんが出てしまうと、どうも見た目が汚くなっちゃうんですよね。それで、あんの少ない品種が増えました。

柴田:けっこう短い期間で味が落ちていったんですか?

小野:ネギの品種改良が進んだのは戦後ですね。短い期間で味が落ちたものといえば、いもち病というお米の病気があるんですけど、それに強い品種が登場しました。で、めちゃめちゃ美味しいわけではないんじゃないのコレ、と一部では言われているのですが、やっぱり病気に強いお米のほうが収穫量が安定するので、一部の産地ではその品種が主力になっています。その産地が品評会で賞をとることは減ったというウワサが聞こえてきています。

柴田:美味しさの基準って人それぞれじゃないですか。どうやって評価するんですか?

小野:美味しさの基準は人によるのですが、最近多いのは糖度計測ですよね。秋の会でもお話ししましたが、トマトは糖度競争が激しくてオーガニックはその分野では勝てなくなっています。水分量や二酸化炭素、温度などを全て管理して育てた方が、自然のリズムに合わせてじっくり育てるよりも安定して高い糖度のトマトを出荷できます。環境をコントロールできれば、糖度を上げるのは難しくないんです。極端な話、砂糖水をあげれば甘いトマトができます。なので、「美味しい=糖度が高い」という感覚の人が増えると植物工場で栽培したトマトばかりが売れるようになります。

でも、トマトの青臭い香りや食感を出そうと思うと、そう簡単にはいきません。噛んだ時に満足感があって、しかも口には残らないみたいな後味の良さとかあるじゃないですか。甘さだけじゃなくて、食感や香りも含めて美味しさを感じてもらえると、僕たちのトマトは勝てると思います。

柴田:AIやテクノロジーの進化で、そういう複雑な味も判定できるようになったらおもしろいですね。

小野:そうなっていくかもしれませんね。ただ、今はいろんなものが有り余っているから、栽培のあり方も変わり続けています。化学調味料を作っている日本の会社が東南アジアに進出して、工場で余った旨味成分を現地の農家さんに肥料として提供していたりします。この話が企業の途上国支援の事例として語られたりするのですが、野菜にアミノ酸を吸収させて旨味を出すことが本当にいいことなのか……直感的には違和感があるような気もします。たい肥を入れることと何が違うのだと言われると、そんなもんかなぁという気もします。

トークの合間にも、お料理とドリンクのおかわりが進みます。大人も子どもも大好きなポテトフライのお皿は、あっという間に空っぽになってしまいました。坂ノ途中さんでまかない担当を務める多賀日奈子さんが土鍋の蓋をあけると、蒸しあがったブロッコリー、紅大根、人参たちが登場。机の上がぱっと華やぎます。3歳の娘がレンコン目当てにおでんの鍋へ向かう度に、会場のみなさんが優しく見守ってくださいました。

レンコンもニンニクも、一族を増やすための植物の知恵から生まれています。

子ども:レンコンもういっこ食べたい。

会場:(笑)

小野:レンコン美味しいよね。みなさん、レンコンの畑って見たことありますか?レンコンは蓮(はす)の根と書きますね。蓮は沼に生えます。蓮の花が咲き終わって葉が枯れた後に、沼の中にある部分を収穫します。正確には根っこではなく地下茎なんですけど、収穫作業がとにかくたいへんなので、最近は浅いところに丸く太った地下茎を広げるダルマレンコンという品種が主流になっています。

今日のお料理で使っているレンコンはちょっと珍しくて、昔から栽培されている備中レンコンという品種です。この備中種の収穫は1mくらい掘らないといけないうえに、細くて穫れる量が少ないので、今は余程こだわりのある農家さんしか栽培していません。大分県で「じいちゃんが遺した畑を引き継ごう」と備中種の栽培を続けているかっこいい兄弟、タナカレンコンさんから届きました。美味しいのでぜひ食べてみてください。

蓮がなぜ地下茎を太らせるのかを、少しお話しますね。植物ってしたたかで、どうやって自分の一族を増やそうかとものすごく考えています。理想は花を咲かせて、受粉して、遺伝子を交ぜて種を作ることなんですけど、それが叶わなかった時用の別の手段を持っている植物が多いんですよ。例えば、ニンニク農家さんは、花を咲かせようと思ってニンニクが出した花芽をポキポキ折ってしまいます。この時折られたものが、中華料理でおなじみのニンニクの芽です。するとニンニクは「遺伝子を交ぜるのは子孫に任せて、次世代に命をつなぐために自分のクローンを作ろう」と考えて、球根を太らせるわけです。レンコンも同じようなパターンですね。花を咲かせて種をつけるけど、念のために茎にも栄養をためています。

野菜ひとつひとつにおもしろいストーリーがあるので、それをみなさんに伝えるのが僕たちの役目かなと思います。

小野:おでんの中でエリンギを包んでいるのは、カーボロネロというキャベツの仲間なんですけど、見た目は全然キャベツっぽくないですよね。キャベツはギリシャ時代から食べられている野菜で、丸い形になったのって実はけっこう最近なんです。当時のキャベツは、このカーボロネロにかなり近い、結球しない品種でした。胃腸の調子を整える成分が含まれているので、ギリシャ人は飲み会の前にキャベツのスープを飲んだそうです。今もキャベジンって薬局にありますよね。

キャベツや白菜の結球って、実は植物生理的には意味不明というか、かなり妙なんですよ。葉っぱは光合成をするためのものなのに、葉っぱの裏しか太陽に向いていない。他の植物が効率よく日光を浴びることを考えている中で、結球という行動はなんか世捨て人っぽいんですよね。

例えば、トウモロコシや麦、米などのイネ科植物は初期の成長が他の植物よりも速いです。最初にひゅっと伸びて、誰にも邪魔されずに日差しを受けようとします。一方、人参の葉っぱはかなり細かく切れ目が入っています。あれは人参が群生するからなんです。ぎゅうぎゅうの状態でも葉っぱのどこかは太陽の方に向くように、あんな形になっています。ちなみに人参は密集するのに慣れているので、まばらに植えるとなかなか育ちません。競わせて間引いていく栽培をしないとだめです。

柴田:丸くなった形は、キャベツにとって何か都合がいいんですか?

小野:おそらく成長点を守るための突然変異だったのだと思います。たまたま丸くなった個体を人間が見つけて、運びやすいから種採りをして、その品種が広まったんじゃないですかね。成長点は茎や根の先端にあって、ここがやられるとそれ以上大きくなれないので、植物にとって一番大事なところです。やわらかくて栄養が詰まっているので、鹿とかに狙われやすいんです。冬場は日差しが弱く日照時間も短いので、葉を広げてもたいして光合成はできません。食べられたり凍ったりするリスクを負うより、栄養補給はあきらめて冬眠しようという戦略です。春になったらキャベツも白菜もぱかっと開いて成長点を伸ばし、花を咲かせます。

冬野菜は寒さが厳しい方が美味しくなります。

柴田:おでん美味しいですね。

小野:冬野菜は本当は、寒い方が美味しくなりやすいんですけどね。だいたいの野菜は中身の9割くらいが水なんです。野菜ってタフで、朝に多少凍っても昼には復活していたりします。とはいえ何回も凍ると凍傷になってしまうので、凍るのを防ぐために野菜は体液を濃くするんです。理科の授業でやった、真水より塩水の方が凍る温度が低いっていう実験結果と同じ理屈で、体液になんらかの成分を溶かしておくと凍るのを防げるんです。植物は日常的に糖を作っているので、寒くなるとまず体液中の糖を増やします。なので、寒くなるとほうれん草の軸が甘くなってくるんですね。溶かすものはなんでもいいので、ビタミンCやミネラルなどの栄養も濃くなっていると思います。ちなみに肥料を入れて成長速度を上げて育てた野菜よりも、時間をかけて育った野菜の方が寒さには強いです。

似た話として、京野菜が美味しいのは昼と夜の温度差が大きいからだと言われています。これに関してはほんまかいなと思うところもありますが、一応理屈としては成り立っていて、植物が栄養を作るのは光合成ができる昼間だけなんですよ。光合成で作った糖を呼吸で消費するので、昼間は日照量が多い方がいいし、夜は呼吸量を抑えるために気温が低い方がいい。呼吸量を抑えることは、野菜の品質を上げるためにとても大事です。冷蔵庫に入れるのも、呼吸量を少なくするためです。

なんでもオーガニックじゃなきゃだめだというのは、都会の人の勝手な押し付けだなと思うようになりました。

参加者:みかんなどの果物も同じですか?

小野:みかんは気温もですが、いかに水はけを良くするかが大事ですね。だから斜面で育てることがほとんどなんですけど、それがみかん農家さんがどんどん減っている理由のひとつです。平地で行う野菜の栽培だと80歳以上の農家さんもたくさんいるけど、年齢が上がってくると急な斜面で作業するのはかなりきついです。

でも、秋の会でもお話ししましたが、みかん畑は里と山の境界になっているので、地域の暮らしを支えるために維持しないといけないんです。なので僕たちは、みかんに関しては、完全に無農薬じゃなくても取り引きをしようと決めました。75歳のおじいちゃんに斜面で草刈機を使わせるわけにはいかないじゃないですか。その地域の生活と農家さんの生きがいを守るために、斜面にあるみかん畑の除草剤はありにしようと。そのくらいの柔軟さはあった方がいいと思っています。現場に行けば行くほど、オーガニックじゃないとだめだというのは都会の人の勝手な押し付けだな、と思うようになりました。

ところで、最近うちの会社は瀬戸内でみかんとレモンを育て始めたんですけど、レモンって今ぐらいが収穫時期なのに夏のイメージがありますよね。

近藤:店でも、夏によく「国産のレモンないですか?」と聞かれます。暑い時にレモンサワーとか飲んでスカッとしたいのに、収穫は秋の終わりからという、このギャップがレモン栽培の難しいところですよね。冬のあったかいレモネードを広めていきたいところです。

夏のレタス畑が抱える闇と、野菜の工場栽培について。

柴田:あまり意識したことなかったんですけど、収穫する季節と味のギャップがある野菜や果物ってけっこうあるんですか?

小野:さっきのかぼちゃもそうだし、レタスもずれますね。他の葉物野菜と同じく暑さが苦手なので、5月頃の収穫か冬の収穫だと栽培しやすいんですけど、今の時期、野菜セットにレタスを入れると「夏に欲しかった!」ってお客さんから言われます。でも、長野の高原とかで行われている夏のレタス栽培は、かなり無理があるんですよ。外国人実習生が過酷な条件で働いていたり、毎年レタスを育てるから連作障害が出て、土壌消毒も必要になります。

土壌消毒は農薬の中でも一番環境への影響が大きいです。悪さをする菌と一緒に有益な微生物も殺してしまうので、土壌に虫や病原菌の侵入を防ぐ力がなくなり、それらを排除するために農薬をかけ続けるんです。さらに雑草が生えないように、畑にビニルマルチと呼ばれるビニルをかけます。普通は保温や雑草の抑止のために畝(うね)だけにビニルをかけるんですけど、夏用レタスの畝間もふくめて畑全体をビニルで覆ってしまうことがあります。これは見た目にもかなり異様な光景ですし、降った雨が土にしみこまずに流れてしまうので洪水被害にもつながります。

農村や田畑は本来、食べ物を作るだけでなく、生き物を増やすことや保水性などいろんな機能を担っているのですが、夏のレタス畑は栽培以外の機能を持ちません。夏場にレタスを食べることは、なかなか罪深い行為なのかもしれません。

柴田:そこまでいくと、工場で栽培するのと変わらないですよね。

小野:環境への影響で考えると、むしろ工場の方が良いんちゃうかと思います。

柴田:工場でオーガニックの野菜を作ることはできるんですか?オーガニックの定義って難しいなと思っていて。

小野:基本的に農薬や化学肥料を使わずに育ったものをオーガニックと言うのですが、工場での栽培は肥料の面でちょっと難しいんです。農薬は必要ないんですよね。土がないので虫や雑草の心配はないし、病気が出たらまとめて廃棄する方が農薬を使うより効率が良いので。ただ、土がないから肥料を水に溶かしてチューブで与えるので、化学的な液肥が必要になります。有機肥料は水に溶けにくくてチューブが詰まったり、割高だったりします。西喜商店さん、市場には工場で作られた野菜も出回っていますか?

近藤:フリルレタスは時々見ますけど、量は少ないですね。

小野:今はまだ栽培コストがかかるので割高ですが、ベビーリーフやレタスは将来的には工場栽培がメインになっていくと思います。特に業務用に関しては、土も虫もつかないので飲食店さんは使いやすいと思いますよ。日光がたくさん必要な野菜は、工場では難しいですけどね。

参加者:工場で育った野菜には、遺伝子や自然摂理的な面での危険性はないのでしょうか。一抹の不安があるのですが……。

小野:工場栽培の野菜は、人間でいうとサプリメントや栄養ドリンクから栄養を摂取して育っているようなものです。それをどう捉えるかは人それぞれですね。遺伝子組み換えの種を使うかどうかは、工場で栽培することと直接的には関係ありません。

野菜って誰にとっても美味しいものになりえるんだなと思いました。

柴田:そろそろ時間なので締めに入りましょうか。春、夏、秋、冬とこのイベントを4回続けてきて、野菜って美味しいなってつくづく感じました。わりと何でも美味しく食べるんですけど、こんなに野菜が美味しいと思った1年は今までになかったですね。毎月の会議で食べるお弁当も坂ノ途中さんにお願いしてるんですけど、初回は「肉がない」って言う男性社員もいたんですよ。でも今では、皆「美味しい」ってニコニコして食べています。僕自身もその感覚の変化を味わったし、この会で子どもたちが野菜を食べる姿を見ていても、野菜って誰にとっても美味しいものになりえるんだなと思いました。

小野:僕たちは主な事業が通販なので、お客さんの反応を直接見ることってあんまりないんですよね。ずっと買ってくれる人も多いし、メールや電話で「美味しい」「楽しい」って言ってもらうこともあるんですけど、ほんまなんかなって。でもこうやってイベントをすることで、何回も来てくれる方がいたり、皆さんが美味しそうに食べてくれるのを見たりして、みなさんが野菜をほんまに好きなんやなって実感できました。

僕らの仕事はお客さんの味覚に支えられているので、こうやっていろんな美味しさの感覚を共有できる場があるとすごく嬉しいんです。例えば今日の大根はお箸を入れた時の感じがすごくよくて、ちゃんと健全に細胞分裂して育った食感やなって思うんですよ。そういう感覚を、この場ではシェアできている感じがします。

柴田:4回とも来てくださった方もいて、嬉しい限りですね。イベントをするのは時間も手間もかかってたいへんなんですけど、その場に来て体験してもらわないと伝わらないことが、これからはますます大事になっていくと思います。来年以降どういう形になるかはまだ決まっていないのですが、何らかの形で続けていければと思っています!ありがとうございました。

小野:ありがとうございました!


大人も子どもも、口いっぱいにお野菜をほおばる笑顔をたくさん見せていただいたこの1年間。小野さんをはじめ、坂ノ途中のみなさんのお野菜に関する知識と愛情がたっぷり詰まった8つの記事ができました。秋の会でご紹介した“野菜の気持ちカルタ”の制作もゆるりと進んでいますので、今後の展開を楽しみにしていただければと思います。春、夏、秋、冬とお読みいただいたみなさん、どうもありがとうございました。

【oikazeごはん~冬の会~ お品書き】
・おでん(聖護院だいこん・カーボロネロ・ロマネスコ・エビイモ・レンコン・エリンギ・ハタケシメジ ・リーキ・こんにゃく・パクチー・手作りがんも)
・チンゲン菜とことり菜の豆乳クリーム
・白菜の酢の物
・蒸し野菜(黄人参・人参・スティックブロッコリー・紫大根・紅大根・かぶ)
 ・バーニャカウダ
 ・お豆腐とヒヨコ豆ディップ
 ・ねぎみそ 
・ポテトフライ(キタアカリ・アンデスレッド・ドラゴンレッド)
厚あげの酢あげ(レンコン・ヤーコン・紫大根・紅大根
・いとこ煮(すくなかぼちゃ・だるまささげ)
・おこわおにぎり(リーキ・原木しいたけ)