野菜のブレを許容できると、人にも優しくなれると思います

[ 台所編に続き、株式会社おいかぜの取材チームがお届けします。]

坂ノ途中さんのお台所からイベント会場であるoikazeCUBEにできたてのお料理を運び込み、いよいよoikazeごはんのスタートです。

野菜のブレを許容できると、人に対しても優しくなれるんじゃないかと思います。

「野菜ってそれぞれキャラクターがあっておもしろいんですよ」

会の中盤に小野さんがそう口にした時、会場にはうんうんと頷いている人もいれば、頭の上に「?」が浮かんでいるような表情の方も。この日は、イラストレーターさん、書家さん、せんべい屋さん、学生さん、デザイナーさんなど様々な方にお越しいただき、会場は大賑わいでした。最前列を陣取る子どもたちの返事や問いかけを拾いながら、小野さんがこんなお話をしてくださいました。

小野:うちも3歳の娘がいるんですけど、野菜と向き合う癖を子どもに持ってもらうってめっちゃ大事だと思うんです。なんというか、野菜って生き物なんですね。ブレがあって当然なんです。そのブレを許容できるかどうかがすごく重要で、でも今の売り方って、糖度計を通して何度以上のものしか置いてませんというお店が流行っちゃうんです。それほんまにいる?って思うんです。生きていく上で大切なことってそういうことじゃなくて、このトマトは甘いなぁ、これは酸っぱいなぁ、色々あるなぁ、って感じることだと僕は思っていて。ブレを楽しむ食生活をするか、ブレを許さない食生活をするかで生き方が変わってくるし、酸っぱいトマトに当たった時に「なんやこれ」と思うか、「あぁこういう味のもあるんや」と思うかでストレスも違いますよね。

今日も2種類のトマトが混ざっていて、味が全然違います。基本的に美味しい野菜を出しているつもりなんですけど、ある程度のブレは許容してもらいたいなと思っています。生き物としての野菜のブレを許容できる環境で育っていくと、色んな人いるよね、別にこれができなくてもいいよね、っていう感覚が自然と身について、人に対しても優しくなれるんちゃうかなと思うんです。

トマトは南米の山地出身、ナスはインドの熱帯出身。同じ夏野菜でも育ち方が違います。

以前から何かとご縁があった、坂ノ途中さんとおいかぜ。昨年冬に坂ノ途中さんが西院エリアに引越してきてくださったこともあってぐっと距離が縮まり、今回のイベントが実現しました。お野菜料理を食べながら、小野さんに野菜のことや会社のことを語っていただくという野菜尽くしのoikazeごはん。こんなに身近なのに実は知らないことだらけのお野菜話を、たっぷりお楽しみいただきます。

さて、野菜のキャラクターの話に戻りましょう。まずは、夏に美味しいトマトとナスのお話です。

小野:トマトって雨が続くと皮が割れちゃうんです。彼らは南米のアンデスという山地出身で、カラッカラに乾燥したところで育ってきました。だから水があればあるだけ全部吸おうとする。雨がたくさん降ったらどんどん水を吸っちゃって、それで皮が耐えきれなくて割れるんです。これはもうトマトの性質なので、お客さんにも届いたトマトが割れていたら「あぁ、あの時いっぱい降ったもんなぁ」と思ってもらえると良いなと思います。そういう時のトマトはあんまり美味しくないんですけど、「雨いっぱい吸った味やなぁ」とわかっているかどうかで受け取り方も違ってきますよね。

同じ夏野菜でも、ナスは逆でインドの熱帯で生まれたので水が好きなんです。畝(うね)と畝の間を水浸しにして育てる人もいるくらいで、じゃんじゃん水をあげて育てます。だから、雨の多い年はトマトは不作になりがちだけど、ナスが豊作です。

夏が来る度に毎日のように食べているのに、トマトが南米出身だなんて知りませんでした。もちろん野菜のキャラクターを形作る要素は出身地だけではありません。この日のお野菜トークは、こんなお話から始まりました。

どの野菜から先に食べるかは、野菜の呼吸量で考えます。

小野:今から野菜を食べる全世界の人に知っておいてほしいことを話します。野菜をたくさん買ってきたら、何から先に食べますか?

「トマト」「じゃがいも」と子どもたちが思い思いに食べたい野菜の名前を叫ぶ中、大人たちからは「葉物かな」という声がちらほら。確かに、冷蔵庫の中でしなっとくたびれたレタスや青菜を見ると切なくなりますよね。ここからの説明に、会場はにわかにざわめきます。小野さんいわく、買ったお野菜を食べる順番はこの通り。

小野:まず、置いておいたら美味しくなる野菜とそうでない野菜があります。さつまいもとかは追熟といって、置いておくとデンプンが糖に変わって、ほくほく感は減るけどしっとり甘くなるんですね。じゃがいもとかかぼちゃとかもそうです、おなかにたまるやつですね。それ以外の野菜については、呼吸量が多いやつから食べます。どこが呼吸量が大きいかっていうと、成長点、成長するポイントです。


1位 菜の花、ブロッコリーなどの蕾系・アスパラなどの芽系

小野:一番わかりやすいのは菜の花です。菜の花は春に咲くじゃないですか。あれは、冬を乗り越えて来て「今が俺の人生のピークや!」と思ってばっと花を咲かせるわけです。花を咲かせることは子孫を残す手段なので、植物にとって最も大切なことです。その花を咲かせる直前の蕾の状態で収穫するので、呼吸量は最大です。届いたらすぐ食べてほしいですね。畑でつまむのと持って帰って食べるのでも違うし、1日置いておくとその分筋が張ってきます。アスパラも見るからに伸びている途中ですよね。だから3日も冷蔵庫に置いといて「ちょっと筋っぽいな」と言われると、辛いです。アスパラってそういうもんなので。

2位 スナップエンドウ、きぬさやなどの豆類

小野:次が、今の時期の食べ物、スナップエンドウとかきぬさやとか。あれもどう見ても成長中じゃないですか。きぬさやって実がまだふくらむ前ですよね。スナップエンドウはそれよりもうちょっと大きくなった状態です。えんどう豆はもっと大きくなっているので、そこまで急がなくても良いです。キヌサヤとかのいかにも今大きくなっているというものを「未熟果」と呼ぶんですけど、これは急いで食べてほしいです。トマトなんかは真っ赤に熟してから収穫するので「完熟果」と言います。完熟果を食べる野菜は、もうできあがった状態なのでそれなりに日持ちすると思ってください。

3位 ほうれん草、小松菜などの葉物

小野:葉っぱはけっこう皆気にしてくれるんですよ。しなしなになってくるから。でも葉っぱの順番は、スナップエンドウより後です。どういうことかというと、葉っぱって何をしてるかわかりますか?葉っぱの仕事は光合成です。既に十分大きくなった葉っぱは、人間で言うと職に就いた大人みたいなものです。成長点に栄養を送るための光合成という業務についているから、自分がたくさん呼吸して消費してたらあかんわけです。なので、葉っぱの成長はそんなに激しくない。葉っぱの中でも、外側はもう完成されているけれど内側の方がやわらかくて美味しいですよね。

4位 さつまいも、里芋などの芋類・にんじん、大根などの根菜

小野:葉っぱが光合成で生み出した糖は、蕾や新芽といった成長点に運ばれるだけでなく、倉庫に運ばれて貯蔵されることもあります。その倉庫が人参とか大根とか、土の中で育つ野菜です。倉庫のエネルギー消費が激しいと貯める意味がないので、根菜類の呼吸量は少ないです。最後まで置いておきましょう。

さっき芋類も追熟させて置いておくと美味しくなるという話をしましたが、さつまいもはメキシコあたりの熱帯出身で寒さに弱いので冷蔵庫に入れたらだめです。冬でも10℃以上のところに置いてください。一方、サトイモも原産は東南アジアの熱帯ですが、縄文時代からずっとある食料で、実は米より付き合いが古いんです。なので日本の気候に適応していて、さつまいもよりも寒さに耐えてくれます。

今の話って、ところどころ知っているけど、呼吸量で考えたら説明がつくって、誰も教えてくれなかったと思うんですね。こういう話をあちこちでしてまわるのが僕の仕事だと思っています。なので野菜についてこれどうなんやろうって思うことがあったら聞いてみてください。


野菜って色はあまり気にしないんですよ。

冷蔵庫の底で変わりはてた姿の野菜を発見して、申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらゴミ箱のふたを開く……そんな経験があるのはきっと私だけではないと思います。野菜の呼吸量を考えるという発想はなかったなぁ、なるほどなぁ、と頷きながら会場に目をやると、同じく納得したような表情の人がたくさんいました。小野さんの口から次々に飛び出す野菜の生態に子どもたちも興味津々です。

子ども:ゴーヤって爆発するよなぁ。

子ども:爆発するなぁ、種が赤くなってトロってなんねん。

小野:よう知ってるなぁ。

柴田:今日子どもたちにも参加してもらおうと思ったのは、保育所で畑仕事をしているので僕より子どもの方が野菜に詳しいからなんです。

子供たち:ゴーヤ。純白ゴーヤ。ざくざくゴーヤ!白いナスも育てたで。

小野:そう、ゴーヤもナスもいろんな色がありますよね。野菜って色はあまり気にしないんですよ。緑や白のナスもあれば、紫や黄色のニンジンや赤い水菜もあります。色の種類が豊富なことは野菜の特徴の一つですね。野菜の色は色素で決まるので、品種が違っても同じ色の野菜には同じ色素が含まれています。

不思議なもので、同じ色素でも歓迎されたり嫌われたりすることがあるんです。例えば、ナスの紫色を作るアントシアンは体に良いと言われています。サプリでも売ってますけど、植物はアントシアンをすごい出すんですよ。でも皆が嫌がるアントシアンもあって、冬場ってブロッコリーとかキャベツの先が紫っぽくなるの、わかりますか?気温が下がると、寒さでストレスがかかってアントシアンを出す植物が多いです。昔は冬にはもっと紫がかった野菜が多かったんですけど、お客さんはよくわからないから「黒ずんでるしこれ古いんちゃうの」とクレームを言う人が増えて、種苗会社がアントシアンを分泌しないように必死で品種改良しました。でも逆に、紫ニンジンとかはアントシアンを出しやすいように品種改良されています。

柴田:なるほど、色の違いとかは単純に楽しいですね。僕自身はそんなに野菜を細かく気にして生きているわけじゃないんですけど、子どもたちは食にこだわった保育所に通っていてプランターを自分たちで運んだり毎日水やりをしながら、野菜を育ててるんです。今は何を育ててるんやっけ?

子供たち:トマト。ブルーベリー。キュウリ。

柴田:こんな感じで、子どもたちから今はこういう野菜が育つ時期なんだなと教わるんです。子どもがそういうことを知るのはすごく良いことだなと思っていて。坂ノ途中さんは子ども向けの活動とかもされているんですか?

小野:そこはぜひお力添えをいただきたいところで、すごく大事だとは思っているんです。ただその一方で、僕自身が学校に全然なじめなかった人間なので、自分一人では教育系のコンテンツを作ったりはできないんです。まっすぐ教育というものに向き合うのがどうも難しいというか……なので、コラボレーションして一緒に取り組んでいけたら嬉しいです。

柴田:野菜とか魚とかの話ってWebとかのコンテンツにしても多分伝わりにくいので、イベントやワークショップで体験として子どもたちに伝えていくのが一番いいと思っています。そうなると、坂ノ途中さんのような会社にしかできないですよね。この春夏秋冬のoikazeごはんも、そういう場にできたらいいなという思いもあります。

今後が楽しみになるような話が出てきたところで、ここからは小野さんにお話いただいたお野菜にまつわるエピソードをいくつかご紹介します。

○野菜と虫の生存競争

小野:キャベツやダイコンなどアブラナ科の野菜の葉っぱは、生でかじるとピリッと辛いんですけど、これは敵から身を守るためです。ちなみにワサビもアブラナ科です。辛みが虫の消化器官にダメージを与えるので、多くの虫はこれらの葉を食べることができません。人間でもたくさん食べ過ぎるとおなかが痛くなる人もいます。ただ虫の中にも例外がいて、モンシロチョウは独自の進化を遂げて、この辛みに耐えうる体を作りました。なので無農薬のキャベツ畑には必ずモンシロチョウが飛んでいます。キャベツが世界中で栽培されるようになって、モンシロチョウも世界中で飛び回るようになったと言われています。

○日本人の力の源、大豆

小野:昔は今ほど肉を食べられなかったので、大豆はタンパク源として人間にとってすごく頼りになる、力の源みたいな存在だったと思うんです。縄文時代から日本人の生活を支えてきたので、味噌、醤油、豆腐など色々な加工がされているし、節分には「鬼は外」と言って大豆をまきますよね。儀式に使うような土器の中で、大豆を混ぜて作ったものが発掘されたりもしていて。大豆はすごいっていうことを子どもたちにちゃんと教えたいですね。僕ら大人は今そういう話を聞いてもあまり大豆への意識ってもう変わらないですけど、子どもはこういう話を素直に受け取って、大豆を食べてめっちゃ元気になってくれそうじゃないですか。

○ニンニクの生き様

小野:ニンニクを栽培する時って、成長過程で茎を折って花を咲かせられないようにしちゃうんです。生物としては子孫を残せないという致命的な状態なんですけど、それでもあきらめずに分身を増やそうとして根をふくらませることで、ニンニクができます。その生命力はすごいなと思います。

小野さんのお話を聞いていると、こんなに個性豊かな彼らを「野菜」と一括りにするのがもったいないような気持ちになってきました。私たちが食べているのは、植物の実だったり葉だったり根だったりするわけで、それ以外の食べられない部分がどんな姿をしているのかすら知らない野菜がたくさんあります。その育ち方や生存戦略も、聞けば聞くほど多種多様。商品として棚に並ぶ前の野菜の様子を聞いていると、知らない世界をのぞいているようなワクワク感がありました。

お客さんの野菜に対する感覚や興味が変化していくのを感じると、嬉しくなります。

小野:定期宅配をとってくれているお客さんとは長い付き合いになるので、だんだん野菜に対する感覚とか興味が変わっていくのがわかります。ネット通販といっても会社にはしょっちゅうお客さんから電話がかかってくるんですけど、最初は「これ生で食べられますか?」とか、簡単なことですぐに電話をかけてきていた人が「今週のナスは皮が固いのですが、これは品種によるものでしょうか?それとも温度によるものですか?」なんて渋い質問をしてくれるようになってきたりします。「ナスは、夏はみずみずしく、秋になるにつれて皮が固くなります。その分味が濃くなるから、秋ナスは煮込んだりじっくり焼いたりするのに向いていますよ」とお返事しました。

虫についても、最初はどうしてもびっくりするじゃないですか。僕たちも無農薬だから仕方ないというのではなく、気をつけてきれいな野菜を届けようと思っているんですけど、どうしてもたまに野菜の中に虫がいることもあるんです。この間、昔野菜に虫がついているとクレームを言ってこられたお客さんが、「キャベツに青虫がついていたので、飼ってみようと思います。エサはキャベツだけで大丈夫でしょうか?」とメールをくれて。そういう変化は嬉しいですね。 野菜の宅配には毎回お野菜説明書を入れてるんですけど、長年利用してくださっている方はどんどん知識が豊富になっているので、そろそろ初めてのお客さんとは内容を変えた方が良いのかな、とも思い始めています。

野菜は生き物です、僕たちは生き物を食べているんです。

お野菜トークが終わると、はじめましての人も多い中、野菜のこと、仕事のこと、趣味のことなどあちこちで楽しそうな笑い声が聞こえてきました。今日のお話の中で私にとって最も印象的だったのは、小野さんのこの言葉でした。

小野:僕の今の一番の興味は、生き物を食べてんねんなってことなんです。それがめっちゃおもしろいと思っていて、食べ物のブレを許容することが社会の許容度をあげることだと思っているので、野菜をメインでやっていくけど扱うものは広がっていくと思います。ラオスでコーヒーを作り始めて2年間で品質がかなり上がったのもめっちゃ嬉しかったし、今ミャンマーでもコーヒーを作り始めています。このプロジェクトは他の国にも広げていきたいと思っています。

生き物を食べている。この事実を自分の中に実感として持っているかどうかで日々の食事の豊かさが大きく変わるのかもしれない、改めてそんなことを感じた1日でした。イベントの後、お野菜マルシェでお土産を選ぶ女性に感想を伺いました。

政田さん:身近なものやから、色々なお話を聞けてすごくおもしろかったです。何が傷みやすいかという話も勉強になりました。買ったまま料理できずに傷んでしまうこともあるので……そういう時、本当に悲しいし申し訳ないんですよね。保育所で園芸をしているので、4歳の娘も楽しかったみたいでよかったです。今日の根菜の話を聞いた時に『ぶらぶらするのは夏野菜、土に埋まってるのは冬野菜』と娘が言っていたのを思い出して、なるほどなぁと思いました。

美味しく楽しく、そして参加いただいた一人ひとりにとって野菜という存在が今までとちょっと違うものになったイベントだったように思います。春、夏、秋、冬と季節ごとに開催していくoikazeごはん。次回、夏の会に続きます。

【oikazeごはん〜春の会〜 お品書き】

  • お豆と梅酢のちらし寿司
  • 人参とじゃが芋のしりしり
  • すずかぼちゃのマリネ
  • 青ネギと厚揚げのにんにく味噌炒め
  • ミネストローネ
  • スティック野菜

【お話の中で登場した野菜たち】

  • トマト
  • ナス
  • 菜の花
  • アスパラ
  • スナップエンドウ
  • きぬさや
  • キャベツ
  • さつまいも
  • 里芋
  • 大根
  • 大豆
  • ニンニク