本は、私を見晴らしのいい場所へと引き上げてくれる存在です。

「考える食卓・おいしい未来」の記事を書くときもそう。自分で見たり聞いたりして考えたことも書きますが、本を読んで考えることもたくさんあります。
これはどう捉えたらいいのだろう、昔はどうだったのだろうか……。行き詰ったときにも、本を開けば先人たちの知恵が、私の思考を一歩も二歩も進めてくれます。
巨人の肩の上に立つ、という言葉はこの感覚をよく表現しているように思います。

食べものの来た道をたどる

食べものはどこから来たのだろう?
そこでは何が起きているのだろう?
答えを追い求めて、世界中を旅した人たちがいます。

ポール・ロバーツさんとマイケル・ポーランさんはアメリカのジャーナリスト。
食べものの裏側にどのようなストーリーが隠されているのか、それはどういった問題を引き起こしているのか。二人はそれぞれさまざまな現場を訪れながら、そこで起きていることを客観的データをもとに明らかにしていきます。
「食の終焉」には、グローバリゼーションの進展にともなって深刻化した食のシステムが抱える政治的・経済的な問題を、ロバーツさんが3年以上の月日をかけて取材した内容がぎゅっと詰まっています。
「雑食動物のジレンマ」では、工業化の進んだトウモロコシ農場、次に大規模なオーガニック農場へ、そして放牧を行う循環型の農場へとポーランさんが足を運び、さらには狩猟・採集を実践して、彼の考える「完璧な食事」を作りあげるといったことが語られています。
ダン・バーバーさんはジャーナリストではなく、ニューヨークのブルー・ヒルというレストランのシェフであり共同オーナー。美味しい食材がどのように育てられているかを知りたいという関心に駆られ生産現場へ旅に出たバーバーさんは、著書「食の未来のためのフィールドノート」のなかで、自分が調理するものの背後にある、生産を取り巻く環境の重要性に気づいていきます。 彼らの旅を読み、追体験しているうちに、自分の食べているものが持つ物語について、もっと知りたくなってきます。

「食の終焉 グローバル経済がもたらしたもうひとつの危機」(ちょっと難しめ)
ポール・ロバーツ 
ダイヤモンド社 2012年 

「雑食動物のジレンマ ある4つの食事の自然史」上下 
マイケル・ポーラン 
東洋経済新報社 2009年

「食の未来のためのフィールドノート 「第三の皿」をめざして」上下
ダン・バーバー 
NTT出版 2015年

ミクロの世界に目を凝らす

作って、食べる。そこで終わりではありません。
分解される。そうして体の一部になる。
そのことについて、私たちはどれだけ意識しているでしょうか。

分解者という存在の大切さを思い出させてくれたのが、藤原辰史さんの「分解の哲学 腐敗と発酵をめぐる思考」でした。積み木や掃除のおじさんなど、さまざまなものを引き合いに出しながら、分解について考察していきます。循環型という言葉が盛んに使われるこの頃ですが、生産、消費の後に分解があってこそ環が完成するということを、この本を読んでからより意識するようになりました。
「土と内臓」は、地質学者であるデイビッド・モントゴメリーさんと生物学者のアン・ビクレーさんご夫妻による共著です。デイビッドさんは庭の土の変化を見ることで土壌微生物の働きに気づき、アンさんは自身のがんをきっかけに体内の微生物の働きを考えて食生活を変えていきます。微生物だけでなく細菌や免疫のメカニズム、それらを活用した技術が発展した歴史まで緻密に書かれた、知的刺激にあふれた本です。
「生命と食」は、生物学者である福岡伸一さんが動的平衡という概念を用いて食べるということを捉えたうえで、狂牛病、食の安全についてそれぞれ福岡さんならではの鋭い考察を述べた短い文章です。
動的平衡という言葉は、人間の体内では分解と合成が同時に行われており、生命を維持しながら物質としては絶えず違うものに変化しているということを表現しています。 食べるということは食べものが自分の生命の一部になるということ。その事実を理解して受け入れると、食べものに対しての見方も変わってくるかもしれません。

「分解の哲学-腐敗と発酵をめぐる思考-」(難しめ)
藤原 辰史 
青土社 2019年 

「土と内臓」(ちょっと難しめ)
デイビッド・モントゴメリー / アン・ビクレー 
築地書館 2016年 

「生命と食」 
福岡伸一 
岩波書店 2008年


東北から世界を眺める

「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」
これは『農民芸術概論綱要』のなかの一節です。

宮沢賢治さんは岩手県で農業指導員として技術を教え、自らも農業を実践すると同時に、詩や童話の世界でも才能を発揮しました。農業をミクロな目で見ることと、遠くを見つめるように社会を眺めること。ふたつの世界を行ったり来たりする彼の生き方に、私はとても感化されています。周囲の農民に向けて行った講義の内容が書かれた「農民芸術概論綱要」からは、そんな彼の掲げる人生の指針を感じ取ることができます。
私は岩手県のお隣の宮城県の出身です。だから、東北という地域は歴史的に異郷性を背負ってきたのだという山内明美さんの著書「こども東北学」の主張にハッとしました。東北という地域の歴史とともに、宮城県沿岸部の田舎で生まれ育った自身の経験を綴り「<東北>は世界中に偏在する」と記しています。東北は米作りに適した土地ではなかったのに、今では田んぼが広がる穀倉地帯になっていること。東日本大震災と原発事故によってわかったこと。東北が負ってきた傷を知ることは、「世界がぜんたい幸福に」なる未来を考えるために必要なこと、そんな予感がします。

「農民芸術概論綱要」(難しめ)
宮沢賢治 
1926年

「こども東北学」(易しめ)
山内明美 
イースト・プレス 2011年


想像し、わくわくしてみる

リラックスしながら本を広げたい……。

最後の2冊は、そんなときにおすすめの本です。

「Farmlife 新・農家スタイル」を最初に開いたとき、私は思わず「わぁ」と声をあげました。世界のいろいろな地域で、自然の恵みを大切にしながら農業や漁業を行なっている38組の人たちを紹介するこの本。図鑑のように大判で美しい写真が散りばめられていて、まるで美術品のようです。
「都会からはじまる新しい生き方のデザイン URBAN PERMACULTURE GUIDE」は、都会に暮らしながら持続可能な社会へ向かって一歩を踏み出せる、具体的な方法がたくさん書かれています。読んでいるうちに、これならできる、やってみたい!と、そわそわしてくるかもしれません。

「Farmlife 新・農家スタイル」 
GESTALTEN 
グラフィック社 2019年

「都会からはじまる新しい生き方のデザイン URBAN PERMACULTURE GUIDE」
ソーヤー海, 東京アーバンパーマカルチャー 
エムエム・ブックス 2015年

昔読んだ本を手にとってパラパラと眺めていると、ときどき、意識しないうちに自分のなかに溶け込んでいた知識や考えを本のなかに発見したりします。食べものと同じように、これらの本も私の一部になっていたのだなあ、と愛おしい気持ちが湧いてきます。

私は、自分が少しずつ変わっていく感覚を味わうのが好きなのかもしれません。
いろいろな地域を旅したり、自分とは違う価値観をもつ人々と話をしたり。
本を読んでいるときにも、それに近いような感覚があります。

これから私はどんな本を読んでいくのかな。どんな自分になっていくのかな。
部屋の本棚を眺めながら、楽しみになってきました。

●石川凜