実家には田と畑がほんの少しあります。
ずいぶん昔には、祖父と祖母が米をつくり、野菜を育てていました。僕は小さい頃、おばあちゃんに連れられて畑に行っては、遊んでいたことを覚えています。
保育園の年長、5歳になる頃に、家の事情で祖父母とは離れて暮らすことになりました。祖父母の家に戻ったのは、祖父と父親が相次いで亡くなった高校生のとき。
おばあちゃんは元気で毎日畑仕事に精を出していて、僕は頼まれて土起こしをしたことがあります。たいした広さの畑ではないのですが、スコップと鍬を使っての作業は高校生でもきついものでした。

大学生になって親元を離れましたが、ときどきおばあちゃんのつくった野菜が送られてきました。冬には白菜や大根、さつまいもなんかがダンボール箱いっぱいに入っていました。どれも立派で見事な野菜ばかりでした。
おばあちゃんは長いあいだ畑をつづけていましたが、7年ほど前に、風邪をひいて体調を崩し、家から出られない日がつづいたことがきっかけで畑仕事をやめてしまいました。畑は誰にも引き継がれず、ほったらかしになりました──近所に申し訳ないので、草刈りだけはときどき母がしていたようです。


僕は実家の畑のことなんてまるで気にもしていなかったのですが、青年海外協力隊員として派遣されたドミニカから戻ってきてから数年が経って、ビーツを育てることになり(そうなった経緯はvol.59・ビーツ!ビーツ!ビーツ!に書いています)、それからは週末ごとに実家に帰っては畑の手入れをしています。
保育士だった母も、定年退職してからは畑仕事をしています。といっても、母と一緒というわけではなくて、べつべつに、それぞれの場所で育てたいものを育てているのですが。
つい最近、母が9月に種蒔きをした大根が、葉っぱをことごとく虫に食べられてしまい、どうも収穫は難しそうです。
「サルハムシっていう虫がいて、土のなかから出てくるから防虫ネットをしても意味がないよ。夏のうちに、太陽熱消毒をして、土のなかの幼虫をやっつけるといいらしい」
農業初心者の僕ですが、やまのあいだファームで仕入れた知識をもとに、偉そうに母にアドバイスをしています。
毎週は実家には帰れないので、畑を母に託すときもありますが、母は僕が育てていたビーツが気に入ったようで、今年は自分で種蒔きをしていました。

おばあちゃんは2年前に亡くなりました。
畑を耕していると、いつもプルタブ(昔の缶ジュースなどの蓋の部分)が出てきます。
おばあちゃんは缶コーヒーのカフェオレ味が好物で、いつも畑で飲んでいました。
畑にゴミ捨てるなよー。ぶつぶつ言いながらも、おばあちゃんが畑仕事をしていた姿を思い浮かべると、しょうがないなあという気持ちになってしまいます。

●まつい