やまのあいだファームに来る前の話です。
僕はきこりとして山で働いていました。毎日、山に入り、ひたすら木を伐る。
きこりの仕事は、本来なら植林、枝打ちなどもありますが、近頃はひたすら間伐作業です──海外の木材が輸入され、流通するようになってから、植林はほとんど行われなくなりました。そして幼年期の木がないので枝打ち作業もないという図式。
多いときには1日に300本くらいを伐ることもあります。
そんなに伐ったら木がなくなるんじゃないかと思いますが、そんなことはありません。
日本は国土の3分の2が森林で、そのうちの4割が杉と檜の人工林です。
かつては、1ヘクタール(100m四方)あたり、3,000本から4,000本、地域によっては1万本の木が植えられました。木は育つに連れて枝と枝がぶつかりあうようになるので、間伐をして密度を下げていきます。それを7年とか8年おきに繰り返して、残した木を大きく育てていくわけです。
植林された山をそのままにしておくと暗い森ができあがります。耕されなくなった畑、耕作放棄地のようなもの。
でも、しっかりと手入れ(間伐)をすれば、大径木の森になり、すき間には広葉樹などの新しい植生も生まれ、植林された山でも自然林に近い状態になります。
子どものころは、森林伐採=環境破壊だと思っていましたが、日本ではそれは当てはまらない。逆に木を伐らないといけない状態になっています。

農業は、たいていの場合、1年以内に作物が育ち収穫するというサイクルです。林業では、植えた木が一人前に育つまでには最低でも30年はかかります。なかには、100年以上もかけて育てる森もあります──これまでは60年くらいで収穫(主伐)を行ったりしていましたが、現在は長伐期施業といって、100年を超える森をつくることが目標にされつつあります。
きこりは木を伐るのが仕事ですが、どの木を伐り、どの木を残すのか、これから先の何十年をその木が生きていくことを思うと、簡単ではありません。成熟した森ならなおさらです。1本ずつ、傷や曲がり、バランスなどを見ますが、60年、70年生きてきた木々、この木を伐ろうか、いややっぱりあっちの木を伐ろうか、悩んでしまってどの木も伐れなくなったことを思い出します。

毎日、強化合宿かと思うくらいきつい作業でしたが、光が射し込み、明るくなった森を見ると、いい山に育ってくれよと願います。
きこりの仕事から離れて8年、そろそろ次の間伐の時期です。僕が木を伐った森がどんなふうになっているのか、見に行ってみたいです。

●まつい