瀬戸内のみかん畑のある山の持ち主は93歳のおじいちゃんです。
「将来の夢はね」
はじめて会ったとき、そんな言葉が出てきて、少し驚きました。
「生まれ変わったら、もう一度みかん農家になりたいと思っとるんよぉ。みかんはおもろいからねぇ」
90歳を過ぎた人のロマンにとても感動してしまいました。

やまのあいだファームでは、夏野菜の準備がはじまっています。ささげやトマトの苗が大きくなってきたので、そろそろ植えはじめないといけません。まわりを見ると、田んぼの準備や畦の草刈りをしている人も多くなってきた。初夏のこの時期は、活気があっていいなあ。
農道を散歩しているおじさんに声をかけられました。
「きばっておられますね」
話をすると、おじさんも畑をしているそう。
「自然農、私も30年しているんですけどね、やっと土が良くなってきましたわ」
30年かかるのか……私はやまあいの土を思いながら、おじさんの気の長さに脱帽しました。

植物や小さな生きものの力を借りて、ゆっくりでも土が変っていけばいいなと、やまあいでは土を耕さずに野菜を育てています──去年、耕す畑もはじめましたが。草や虫たちが増えてきていますが、まだまだ肥沃な土とはいえません。失敗もたくさんするし、いまだに毎日が試行錯誤の日々です。
私は農業をずっとずっとつづけたいけれど、みかん山のおじいちゃんのように、自分がやってきたことを生まれ変わってもう一度やりたい、もっと突き詰めたいといえるような人生になるでしょうか。散歩をしていたおじさんのように、根気よくつづけた先には、どんな景色が広がっているんだろう。
今日も畑に向かいます。

●あかね

*「きばっておられますね」はこのあたりの農村ではよく使われる挨拶の言葉です。本来なら、頑張ってますねという意味だけれど、使い方としてはもっと軽くて、出会ったときの最初のセリフという感じです。私は移住者なので真意はわからないけれど……最初の頃は褒められているのかなと思ったけれど、そういうワケではなさそう。