「環境負荷の小さな農業と暮らしを広げたい」
2009年7月21日に、たった3人ではじまった坂ノ途中は、おかげさまで100人を超えるスタッフとともに、12周年を迎えました。
私たちの今日という日があるのは、たくさんの人たちの支えがあったからと深く感じています。本当にありがとうございます。
今日はみなさまからよくいただく、「有機だとなぜ環境負担が少ないの?」という質問について、坂ノ途中代表・小野邦彦が、2020年12月8日に坂ノ途中Instagram(@sakanotochu)でお話しした内容をご紹介します。Instagramの投稿はこちらから。
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坂ノ途中のしていること
坂ノ途中はいわゆるオーガニックのお野菜、化学合成農薬・化学肥料不使用のお野菜を主として扱っている会社です。
一番大きな特徴は、取り引き農家さんの9割弱が新規で農業をはじめられた方という点です。
新しく農業をはじめる人たちは規模が小さく、流通にのらないことが多いのですが、とても熱心で、環境に負担をかけない農業に取り組み、とびきりの野菜を育てます。
彼ら、彼女らの野菜を販売することで、未来につながる農業の担い手を増やしていけると考え、そんな方たちの作るお野菜をお届けしています。
こうして環境への負担が小さい農業を広げようとしていると、「有機農業だとなぜ環境への負荷が少なんですか?」というご質問をよくいただきます。
環境への負担とは何か
有機農業=環境への負担が小ない、サステナブルなのでしょうか。
答えとしては、まぁ小さいといえることも多いけれど、場合によるよなぁと思っています。
どういうことか。環境への負担とはなにかを考えてみましょう。
ひとつは、マクロっぽい、グローバルっぽい話。
エネルギー使いすぎていない? CO2どれくらい出ている?有限な資源に依存してない? といったテーマです。
もうひとつは、ミクロ、ローカルな地域の話。
生き物が減っていないか、地域の生態系保全みたいな目線、いろいろ投入したら水質汚染になるよね、といった話。
化学肥料とエネルギーの話
まずはマクロっぽい話から。
有機農業は、
農薬や化学肥料を使いませんよ、地域にある資源を有効利用して自然循環することで、持続可能な農業を目指そうというのが大きな方針です。
そもそも、化学肥料とはなんでしょう。
植物のメインのエサは窒素。 つづいてリン、カリがあります。
窒素ってどこにでもある。空気の8割くらいは窒素です。
だけど植物は、空気中の窒素をそのまま吸収することはできません。化学肥料では空気中の窒素を圧力をかけて固定化します。
化学肥料の登場より、農産物(植物)の生産が飛躍的にしやすくなりました。
ただ、固定化するときに大量の天然ガスを使います。
エネルギーの使用量を抑えていこう、CO2の排出量を抑えようという話でいうと、できたら減らしていきたいです。
リン、カリは鉱山資源由来で日本のリン鉱石、カリ鉱石の自給率は0%。
リンは中国、カリ鉱石はカナダなど、メインの産地があり偏在しています。
日本ではリン鉱石もカリ鉱石も採れないなかで、化学肥料に頼らないと農業生産できないのは、持続可能性という意味で結構危ういです。
これは現代農業における一般的な問題として挙げられます。
有機農業だとそういったものに頼らないので、エネルギー消費や地域の資源循環といった文脈で良いと言われています。
では、有機農業はぜんぶ地域のものを使っているかというと、そんなことはありません。
いろいろなものを遠くから取り寄せています。
たとえば土壌改良剤のペーハー調整で使われるピートモス。
確かに原材料は水苔なので、天然資源由来です。
ただ、シベリアや北海道など、寒い地域の湿地帯の水を抜いて水苔を採取しているので、生態系を壊すということにおいては結構大きなインパクトがあります。
湿地は本来生物多様性の宝庫なのに、それを壊して作られる農業資材も存在するわけで、有機農業であればなんでもかんでもサステナブルというわけではありません。
もうひとつ気にしなければいけないポイントとして、どれだけエネルギーを使っているかがあります。
わかりやすいのは加温。
例えばハウス栽培のみかん、マンゴーは結構暖房を焚いて育てられます。
ミニトマトやきゅうりも冬に作ろうとすると、重油を使います(どこで栽培するか等によって、使用量はだいぶ差がありますが)。
農薬の使用の有無、オーガニックかそうでないのかに関わらず、CO2は出る。
これもオーガニック=サスティナブルではないというひとつの例です。
農薬と生態系の話
そしてミクロな話。
生物密度を上げていく、タフな環境で育てるというのが有機農業の基本方針です。
農薬って「薬」とついているけど、おおざっぱに言えば競争相手を排除するもの。
農業において排除したい競争相手って、虫と草と菌なので、農薬のほとんどは殺虫剤、除草剤、殺菌剤です。
やはり特定のものを排除すると、生態系はアンバランスになりやすいんです。
菌がたくさんいると、病原菌が大量発生しにくい。
つまり、いろんな菌がわらわらいる状態にしておくと、特定の菌のパンデミックは起きにくいわけです。
実際に畑に行くと、瞬く間に病気が広がるハウスと、じわじわ広がるハウスがあったりします。
ところで、生物農薬にバチルスというものがあります。
農薬とついているし、バチルスってなんだか強そうですが、納豆菌の仲間です。
最初に納豆菌を付着させて菌だらけにしておくことで、病原菌が広がらないようにするのですが、有機農業をしている人はこういった菌を上手に使っています。生物的防除といったりします。
なので、農薬を使わずに生きものいきものいっぱいの畑って素敵!となるのですが、現実的には生きものを増やしたら自然に収穫ができて経営が成り立つかというと、決してそうではありません。
たとえば除草はとても手間がかかるので、広い面積の畑で除草剤を撒かない代わりに、ビニールで覆うことがあります。
畝だけではなく畝間までビニールマルチすると、除草剤は撒いていないけれど、環境負荷という点でどうでしょう。
雨が降ったあとの保水性には問題があります。
ビニールで覆ってしまうと、田畑が本来もっている大事な役割、水を留めておくという力が大きく失われます。
そう考えると除草剤を使った方が田畑の役割を果たせることになるので、環境負荷が小さいではないか、と考えることもできると思います。
だから、農薬を使わないからOKというわけではないんです。
化学肥料は便利で効き目がある程度計算が立つ。
一方で有機肥料は扱いが難しい。
散布するのも大変です。
かつ、高分子というか、つまりサイズが大きいので土に入れてすぐ効くわけではありません。
微生物がじわじわ分解して植物が食べてくれる大きさになって、やっと効いてくる。
どれくらいの速度で分解が進むかは微生物の量や地温によるので、適切な投入量がわかりにくく、入れすぎてしまうこともあります。
畑にいろんなものを投入すれば、だいたいそれは環境負荷になります。
窒素だと半分くらい植物が吸わずに河川に流れ出て、河川に流れた窒素は水質汚染につながります。
投入量がわかりにくく、つい入れすぎてしまう有機農業と、適量を施せる化学肥料。
水質汚染という観点でいうと、ちゃんと施肥設計しないのであれば、化学肥料の方が無難だと言える可能性もあります。
おしまいに
そんなわけで
有機農業はサステナブル、慣行農業はダメというわけではないんです。
いろいろなグラデーションがある。
そういう危うさの上で、植物を育てている。
誰かが教えてくれる黄金の方程式があるわけじゃなくて、それぞれ自分の好みとか地域の特性を踏まえて選び取っていく。
坂ノ途中が扱う野菜は、その多様さが面白いと思っています。
みなさんもご自身にとって何を選択するのがしっくりくるか、考えるきっかけになればうれしいです。
●小野邦彦
※掲載にあたり、若干の加筆訂正をしています。