友人から、引越をしたという知らせが届きました。
街なかの暮しから、田んぼや畑がちらほらある場所への転居。家のちかくを歩いていると、足もとの草や花によく目がいくようになったといいます。
「だから、よく道草を食うようになったよ。すごく愉しい」と、彼女。
そうか、野草も食べる生活になったんだな、どんな草を食べているんだろう……一瞬、そう思ってしまいました。
やまあいの仕事では、ヨモギ、スズメノエンドウ、オゼイユやセリなど、畑の畦に自生している野草を収穫(食用)にすることがあります。だから、これは食べられるのかな、と草に触れているせいで、勘違いしてしまったのです。
道草を食う。目的地にそのまま向わず、途中で寄り道をしたり、ほかのことに時間を費やしたりすること。馬が道ばたの雑草を食べて、歩みが止まってしまうことから。
馬、おいしい草があったんだろうな。草、食べたかったんだろう。馬、愉しかったかもしれない。ポジティブに用いられることはない諺かもしれませんが、私は、なんだかいいなあと思いました。

目的地にそのまま向わず……私の目的地って何処でしょう。
やまのあいだファームではじめて畑仕事をしたのは7年前の春。農家さんの毎日ってどんなふうだろう。それを知りたくて、やまあいに10日間泊まり込みました。そのあとも、ときどきやまあいに通い、しばらくして、やまあいと大工の仕事の掛け持ちをする日々がはじまりました。
「大工の仕事は遊びでやっているの?」「農家で独立したらいいのに」「ひとつのことに集中しないと成果は出ないよ」
いろいろな声をいただいて、とまどったり、考えたりしながら、おもろいなあということをやっています、お世話になっています、としか言葉にできませんでした。

少しまえに、絵を描く仕事も再開しました。なんだかとてもしっくりきています。仕事の種類は3つに増えたけれど、頭も体も気持ち良くうごく。
けれども、自分のペースを見つめなおしてみて、この春でやまのあいだファームを離れようと思っています。
そして、私の家のちいさな畑で、不耕起自然栽培をつづけます。やまあいで憶えたことを糧に、自分なりに畑をつくり、野菜を育てる。それから大工仕事と、絵を描くことも。
やまのあいだファームと瀬戸内の柑橘畑、お野菜の世話はもちろん、作業小屋を建てたり、段々畑に階段をつくったり、いろいろなことがありました。畑をつくる、それがとてもおもしろかった。
やまあいの野菜や瀬戸内の柑橘を手にしてくださったみなさん、たくさんある食べもののなかから見つけてくれてありがとうございました。
一緒にはたらいたみなさん、とてもお世話になりました、ありがとう。
私の目的地はわからないけれど、でも、おいしい草が見つかれば、歩みをとめて、おいしいなあって味わってみる、そんな毎日をめざします。
みなさま、あたらしい草の芽吹く、よき春を。

●ますお

※坂ノ途中発行のリーフレット「日和」では、「そとの景色」と題したイラストを掲載させていただいています。テーマは、お野菜や果物の育つ風景。これからも描きつづけますので、ご覧いただけるとうれしいです。