ふたつの山に挟まれた谷に川が流れている。その川に沿うように細い道路が走り、道から少し奥まったところに私の家がある。窓から外を眺めると、手前に田んぼ、それから道、谷川があって、川向こうにも田んぼがあり、奥に1軒の家、そして山。私の家の裏も山。

3月のはじめの頃。裏の山から流れ出した土砂をスコップで片付けていると、いきなりブーンブーンブーンという音が。顔を上げてみると、満開の梅の花のまわりに小さなハチが群れていた。
お向かい(といっても100mは離れている)の家のおじさんが、犬の散歩の途中に立ち寄って、「うちの庭の梅はまだやけど、こっちはもう満開やな。陽がよく当たるから」と声をかけてくれた。彼の家の東側は山になっているので、午後にならないと陽が当たらない。
ここでは3月から4月のおわりまでずっと桜を見ることができた。いろいろな種類の桜の木があるし、起伏に富んだ土地だから場所によって日当たりや気温のばらつきが大きくて開花時期に差が生まれるのかもしれない。遠くの山にぽうぽつと咲いている桜は、丸い桜餅のように見えて、見るたびにお腹が空いてしまう。

4月には、夜になると一斉にカエルが鳴きはじめた。まだ田んぼには水も入っていないのに、こんなに早く? 山にこだましているのか、とにかく大きな声。
冬眠していたカエルたちを起こしてしまったことがあって、申し訳ない気持ちになったことを思い出した。寝ている生きものを起こすのは、どうしたって気まずい。
ついこの間、家の前の田んぼに苗が植えられた。カエルの声はますます大きい。


桜がおわると、山の木々は藤の花で飾られる。藤はありとあらゆる木に蔓を伸ばし、花を咲かせる。杉や檜に巻きついて、高いところで紫の花をわさわさと揺らせている姿は、クリスマスツリーか七夕飾りのよう。あちこちに咲く藤はどこか自由に見える。
辛夷(コブシ)、檀香梅(ダンコウバイ)、上溝桜(ウワミズサクラ)、近くで見るのははじめての木々や花もある。
「木を覚えるのなら春がいい」先輩からそう教わったことがある。
花を手はじめにして、葉や樹皮の様子を観察するといいという。

山の春は、その多様さが心地良かった。ひとつひとつ、それぞれが、良きときに芽を出す、花を咲かせる、葉を伸ばしていく。ヒトにはなかなか大変なこと。

●ますお

*最近のやまあい
ズッキーニ、ささげ、きゅうり、すくなカボチャの種まきやトマトの苗の定植がおわりました。ジャガイモは1度目の土寄せの作業。鍬を振り続けた日の夜は深い眠りにつきました……。