「カブトムシ、持って帰らない?」
やまあいの畑にいるとき、そんなふうに声をかけられました。
ちゃんとカブトムシを見るのって何年ぶりだろう。
オス1匹、メス一匹。思わず、可愛いと声が出てしまった。

虫を愛で育てるって、いつ頃からのことだろう。
江戸時代には、虫売りの行商が盛んだったらしい。美しく光るホタル、細かく鈴を振るように鳴く鈴虫、松林を抜ける風の音になぞらえた松虫、ちょっとうるさいクツワムシなどの虫たちを売る。庶民のあいだで、虫を飼い、その声や姿を楽しむことが大流行したそうです。

古代中国で考案された季節の指標、二十四節季。ひとつの節季をさらに細かく3等分した七十二候というものがあります。
そこには虫にちなんだ候がいくつも登場します。
たとえば、第二十五候・螳螂生・かまきりしょうず・6月5~9日頃はカマキリが卵からかえるころ。第二十六候・腐草為蛍 ・くされたるくさほたるとなる・腐った草がホタルになるころ。
虫はずいぶんと人のそばにいたのでしょうね。

去年、やまのあいだファームでは、ささげに赤いアブラムシが大量発生しました。指でつまんでつぶしていきます。半日がかり。ふと手を見ると、手袋が真っ赤に染まっていて、カイガラムシが染料に使われることを思い出しました。
畑の仕事では、虫を殺してしまいます。
ナスの葉っぱを食べ尽くすスズメガの幼虫、のらぼう菜などの葉に集まるダイコンサルハムシ、ほかにもテントウムシダマシやウリハムシ……生きものの命を奪っているのだと強く感じます。

装飾品や絵のモチーフとして、ある種の信仰の対象として、食材として、いろいろなかたちで人間は虫と付き合ってきました。虫の方も、人に寄生したり、血を吸ったりしてきました。
畑仕事を助けてくれる存在でもあります。受粉や、堆肥づくりを助けてくれるのは虫たちです。そしてなにより、その存在には心が和みます。表情は読み取れないですが、姿や行動は面白くて可愛い。
「虫と人って似ていると思う。アリやハチはとくに。巣のつくり方とか、集団があって、社会をつくって、それぞれに役目があるところとか。そんなふうに似ているからこそ、人と虫は仲良くなれないんじゃないかな」
友人の言葉です。そうかもしれない。でも、虫は愛おしいです。
カブトムシは虫カゴごともらって帰りました。

●ますお