やまのあいだファームには敵が潜んでいる。
作物を食べてしまうシカやイノシシ、葉っぱの裏のアブラムシ、畑を穴だらけにするモグラ……。
だけどいちばんやっかいで、いちばん手強い相手は雨だ。降らないと困る、降りすぎても困る。敵か味方かよくわからない。

雨が降ると耕運ができない。
無理をして耕すと土がゴロゴロの塊になり、それが乾くとカチカチになる。
足元はぬかるんで動きにくい。
作物は生き生きするけれど、雑草も生き生きして、僕は草刈り機のハンドルを握るハメになる。
雨は昔から好きじゃなかった。高校は自転車通学で、雨の日は朝から憂鬱だった。中学の頃は、バレーボールの部活で床が滑って困った。雨の日は休みになる部活の方がいいくらいだと思っていた。

もっと昔──。
小学生の頃は、傘も長靴も使った覚えがない。雨が降っていても、走ればなんとかなるような気がしていた。裸足教育の小学校だったので、外でも裸足で遊んでいたのが影響しているのかもしれない。
この頃、雨はそれほど嫌いではなかったんだと思う。濡れてしまった服や靴の後始末とか、風邪をひくかもとか、考えたこともなかった。濡れて汚れることが楽しかったくらい。
でも、男の子3人を抱えた母は、どろどろに汚れたびしょ濡れの服を洗濯しながら、雨を呪っていたはず。

今、3歳の娘は、雨の日が大好きだ。駐車場から保育園の入り口までのほんの10メートルの距離を歩くために、お気に入りの長靴を履き、黄色い傘をさす。それがすごく楽しいみたい。
僕にも、雨を味方にできるアイテムがあればいいのだけれど……。

●ケンゾー