4年前の春。
はじめてやまのあいだファームに行ったとき、目の前は霧雨で白っぽく、ぽこぽことした畝がぼんやりと見えました。
畑を囲む電柵を調べてまわると、レインコートは冷たく濡れていて、少し寒かった。
過ごした8日間は、毎日のように雨が降りました。
すべての色、音、匂い、雨は世界の様子を変えてしまう。いろいろな境界がいつもより曖昧になる。
雨の日は、心地が良くて、呼吸もしやすい。雨のなかにいるのが好きです。

その年の秋。実家の稲刈りがちょうど終わる頃、祖父が病院に運ばれました。
病室で祖父は、お米の出來を気にしていました。
「臼挽きはいつすんのや?」
「籾は全部乾いたんか?」
「今年は不作やろ。天気が良うなかった」
「……雨か?」
その日は、晴れたり曇ったりの天気。でも、祖父には雨の音が聞こえたようでした。しばらくして、祖父は息を引き取りました。
祖父はずっと農家でした。米、野菜、果実を育て、それを食べて暮らす。亡くなる2か月前まで田畑に足を運んでいました。
祖父の衣類を整理していると、よく畑で着ていたシャツの胸ポケットから、なにかの粒が3つこぼれ落ちました。拾って見ると、赤くて小さなあずきでした。

●ますお