ある日、ふさふさと立派でかわいい葉を付けたニンジンを見つけました。
買って帰り、すぐにキッチンで、いつもお野菜のお料理をはじめるまえに、するように、そのニンジンを包丁で少しだけ、ちいさく切って、そのまま口に入れてみる。甘い、わかい柿のよう、果物みたいな風味、はじめての味。
そのときから、ニンジンがいちばん好きな野菜になりました。坂ノ途中に入社するときに提出した履歴書には、いつかニンジンをつくりたいですと書きました。2年まえのことです。

いつもはオフィスでデスクワークをしていますが、去年から、ときどき、やまのあいだファームで、畑や土や野菜にふれています(​坂ノ途中​には、農家さんの畑仕事のお手伝いに、有給休暇が付与されるしくみもあったりします)。
はじめての農作業は、発見がいっぱいでした。
遠くから見ていると、「しずか」と思える畑の風景は、そのなかに立つといろいろな音にあふれている。
サクッサクッと草を刈る音、畑をわたる風がヒューヒューと帽子のツバを揺らす音、ザクザクと土を突くスコップの音。
苦手だと思っていた、ミミズやいろいろな虫を、畑で見つけると嬉しくなること。
2ミリの種が、90日で、30センチにも育つダイコンがイトオシクなること。
これまで、知らなかったこと、見すごしてきたこと、いい大人なんだからとわかったふうでいたこと、そんなことに、意表をつくように気づきが訪れるのが、とても愉しい──まだまだ出てきそう──。

あまり汗をかかなかった私が、汗っかきになりました。そしてもちろん疲れます。けれど、畑仕事のあとのスッキリした感じがとても心地良く、明日もがんばろうという気持になります。
種を蒔き、芽が出て苗になり、成長して、収穫して、土へ還る、そんな、ひとつひとつに心をうごかされることは、やまあいからの贈物のようです。
今年は、自分でも、小さな畑をはじめます。どんなニンジンができるかな。

●むらた