鬼はそと、福はうち。
ちいさな祈りを握りしめて、豆をまいた。
心配ごとはなくならないけれど、それでも、前を向く。
雪のしたには、もう、春が待っている。
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月に一度、坂ノ途中の編集室のウェブマガジン「日和 びより」をお届けします。
お野菜をはじめ、わたしたちが取り扱うもののこと。生産者さんのこと。暮らしのこと。坂ノ途中のスタッフが今、どんなことを考えているのか。
そんなあれこれを、ありのままにみなさんにお伝えしていきます。
#お野菜、よもやま

部屋のなかに立ちのぼる、甘い匂い。この季節のたのしみは、ストーブの上でつくる焼きいもです。
今日のおいもは「種子島のたからもの安納いも」。
ころころ、ころころ、焦げないようにころがす時間も、いとおしい。
安納いもは、種子島が発祥の地。暖かな海風そよぐこの島で、たいせつに育てられてきました。ところが近年、さつまいもの生育不良や腐敗をまねく基腐病(もとぐされびょう)が蔓延し、島の生産者さんたちを苦しめています。「種子島のたからもの安納いも」を育てるマタハリファームさんも例外ではなく、収穫量が前の年の半分まで減ってしまったこともありました。
マタハリファームさんは、予防のために、健康な苗を植え、溝掘りや除草をして畑の水はけと風通しをよくするなど、工夫を重ねてきました。徐々に効果が出てきているそうで、この冬も、おいしい安納いもを届けてくれています。
台風が来たり、大雨が降ったりで大変なのに、病害まで……それでも、できることを考えて手と足を動かす農家さんの姿勢には、頭が上がりません。 どうして、続けられるんだろう。
そのとき、自分自身のお米づくりの経験を思い出しました。
五年前から、栃木県茂木町の、七畝ほどの小さな田んぼで、お米を育てています。
はじめての年、ざぁっと風に揺れる稲穂を思い浮かべて、きらきら光る緑の苗を一本一本植えました。その夏の終わり、元気だった稲たちは、日を追うごとに枯れていきました。お米特有の病気「いもち病」です。
見ていられない、悲しい、悔しい。
育苗から約五か月、目をかけ手をかけてきたけれど、結局、お米はほとんど収穫できませんでした。
それでも、また米づくりをやろうと思う自分がいました。 次はどう対策して、七畝分のお米を収穫するか。また田んぼに立つ自分を、想像したのです。
さつまいもをころがし、まだ訪れたことのない種子島の風景を思い浮かべます。
この湯気の向こうに、マタハリファームさんの畑が、今日もつづいている。
おいもをほおばると、じんわり甘くて、そっと背中を押してくれるような味がしました。
語り・古田佐恵子(はんそく/お野菜セット組担当)
#in my little kitchen

幼いころから、あんこが好きだ。それは、母の影響が大きいと思う。
あんまり贅沢をできるような家庭ではなかったはずだけれど、母といっしょに街へ出かけたときは、甘味処に入り、あんみつや善哉をおやつに食べた。あんこのことにおいては、甘やかされていたみたい。
大人になって、じぶんで炊くあんこは、また格別だと知った。
つくりながら愛着がわいて、どのお店のあんこよりもおいしく感じてしまう。
水につけた小豆の紅色は、ルビーのように鮮やかで目を引く。ことことと炊くうちに、薄紫を帯びた、淡い茶色に変わっていく。豆の芯までやわらかくなったら、たっぷりのきび砂糖と、ひとつまみの塩を加えて混ぜ、できあがり。
どんなふうに食べようか。甘い夢がひろがる。
あんこの炊き方
少々時間はかかりますが、じっくりと豆を蒸らしながら炊くと、ふっくらおいしくできあがります。蓋をあけるたび、あたたかな湯気に包まれて、それだけでも、なんとも幸せです。
あんこもち、あんみつ、くるみあんこトーストのつくり方も、あわせてご紹介しています。
文・武岡萌(レシピ/編集担当)
#いいもの、ひとつ

本『ことばの食卓』
武田百合子 著、野中ユリ 画、ちくま文庫
亡き夫と枇杷をほおばった日の会話。弁当箱の中で転がる、梅干しの種の音。なにげない日常の記憶が、ぬくもりのある言葉で綴られたエッセイ集。ところどころに、ちくりと棘があるのも、心地好い。


