気候や土壌と向き合い、環境に配慮して育てられたお米の定期宅配「田んぼと食卓むすぶお米」。
それぞれのお米の産地の景色やつくり手の想い、味わいをご紹介します。
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湖北、滋賀県長浜市の、小谷山の麓。稲作の歴史の古いこの地域では、時代を越えて、田畑と暮らしが、分け隔てなく営まれてきました。
お米の家倉・家倉敬和さんは、この集落に代々つづくお米農家の五代目。田んぼを育み、二十年以上になります。
「田んぼから生み出されるものは、米粒だけではない」という敬和さん。
湖北のうつくしい風景や文化を、この先につなぐ。生産だけにとどまらない、田んぼとの関わりかたがありました。
自分の意思でお米を育てるまで

敬和さんが、家業を継いだのは、大学を卒業してすぐのことでした。当時は建築を学んでいて、農業をするつもりはありませんでしたが、父が体調を崩し、母から帰ってきてほしいといわれて、断ることはできませんでした。
正直なところ、嫌々だったという一年目。受け身で仕事をこなしている自分に、心のなかでは悶々としていました。このままではだめだ、気持ちを変えなければと思った敬和さんは、農閑期の冬のあいだ、一人旅に出ました。
旅の途中、仕事について尋ねられ、お米をつくっていると答えると、どんなお米をつくっているの? とさらに質問が。そのとき、曖昧な返事しかできなかった自分が悔しく、恥ずかしかった。その出来事が、二年目からの原動力になりました。自分らしい米づくりとはなにか、米づくりを通して何をしたいのか、主体的に考えて、農業に取り組みたいと。
二年目から、一部の田んぼではじめたのが、農薬、化学肥料を使わない栽培でした。過去に農薬が目に入り視力を落としたこと。農薬を撒いたあとの田んぼに浮かぶ生き物のすがたを見て感じたこと。農薬や化学肥料のない時代を生きた祖父が、昔の米はもっとうまかったと語っていたこと。手間も労力もかかるけれど、この農法に取り組む、十分な理由がありました。
稲の色と味わい

自分らしい農法で、みんなを喜ばせる、おいしいお米をつくるには、どうしたらよいのだろう。試行錯誤の日々がつづきました。栽培技術を学び、土地に合った農法を探り、稲と田んぼを観察する毎日。敬和さんはいつのまにか、稲を見て触るだけで、その健康状態が分かるようになっていたといいます。
「葉の色、葉のやわらかさ。生長の過程それぞれに、稲にとっていい状態があることに気づいたんです。それを一つひとつ重ねていくと、実った稲穂は、めちゃくちゃ綺麗な色をする。田んぼの黄金色を見るだけで、あ、ここのお米はおいしいなというのが分かる」
健康な苗をつくる。根を痛めない土をつくる。水を保って草を抑える。必要な分だけの肥料を施す。そのすべてが、美しい実りの色につながります。
「おいしいお米は、健康に育ったお米」
それは、経験からたどり着いた、自分なりのたしかな答えでした。
食の選択が、風景をつくる

この土地でお米づくりをつづけるなかで、気がかりなことがありました。かつては暮らしとつながっていた田んぼが、多くの人にとって遠い存在になっていたことです。目の前の風景に関心がなくなり、お米を選ぶ基準が価格やブランドに偏っていく。お米が、モノになっていくような感覚。
ただ生産するだけでは、受け継いだ田んぼを未来に残せないかもしれない。どうしたら変えられるんだろう? 一方で米の価格は下がり、需要は減って、生産だけに追われる厳しい時代がつづきました。

もう一度、考え直すきっかけになったのは、2020年頃のコロナ禍でした。そのころ、妻の愛さんが、お米の家倉に参画。あらためて、自分たちのまわりに当たり前にあると思っていた自然や、暮らしと向き合う時間を過ごしました。
「山々があり、田畑があり、水がきれいで、釣りもできて。その豊かさに触れて、ここでの暮らしが好きだとあらためて思いました。集落の祭りや行事のように、人と人のつながり、考え方や人間性を醸成してきた文化も、足元にあったということに気づいて。
ここにある日常を、自分たちがもう一度味わって、伝えていこうと。生産だけでなく、そのまわりも含めた文化や価値を伝え届けていくことをはじめたんです」
田んぼはお米を育むだけでなく、土や水に触れる体験の場にもなり、藁や糀、味噌、日本酒といった多様な価値も生み出します。人と田んぼをつなぎ直し、暮らしを彩りながら、この風景をつなぐ。田んぼを真ん中にして、ひとつの輪がひろがりはじめました。

お米の家倉では、「ridō(里道)」という場を二〇二五年に新しくつくりました。みんなで集まって味噌仕込みや藁仕事をしたり、土地の食材をつかったごはんを食べたり。日常と田んぼをつなぎ、風景をつくる拠点です。
建物の前に田んぼがあり、窓には季節の景色が映ります。春のあたたかな陽がさし、田植えの頃には水面に月が照らされ、水鳥たちがとびかい、黄金色の稲穂が揺れて、冬には一面の雪景色がひろがる。
湖北の風景を、みなさんの食卓でも感じていただけたら。そして、ともに風景をつくることを味わっていただけたらと願います。
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お米の家倉のミルキークイーン・コシヒカリ ・産地 |
季節とともに移りゆく色。
水や土、草花と生きもの。
にぎやかな田んぼの景色を一緒に育んでいきませんか。
おいしいお米を味わうことが田んぼとわたしたちの食卓をむすび、未来につづく農業や暮らしを考えるきっかけとなりますように。



