昨年の秋の休日、友人夫婦が訪ねてきてくれました。
手には収穫したばかりの黒豆の枝豆。
「これ、ますおさんのおじいちゃんの黒豆です」
6年前、祖父が最後に育てた黒豆を父と私で収穫しました。祖父が種をつないできた黒豆がそこで途絶えてしまうことは寂しく、悲しいことだけれど、私には育てる自信がなく、その友人夫婦に黒豆を託しました。もしよかったら育ててみてほしい。
「おじいちゃんの黒豆は株のひとつひとつが小さく、立ち姿が美しいです。あと、その黒豆でお味噌もつくったんですよ」
嬉しくてたまらず、身体がほわほわと熱くなりました。
その日の夜は、お味噌を眺めながら、黒豆の枝豆をゆっくり、少しずつ食べました。


2月になって、あかねちゃんの家ではじめてお味噌をつくりました。
仕込むのは米味噌。材料は、大豆、米麹、塩。
つくりながら味噌の話を聞きました。その日につくったお味噌は半年後以降が食べ頃。でも京都のお正月のお雑煮で使う白味噌は、お正月の直前、12月に仕込んだりするそうです。麹の量が多く、塩の量は少ない、熟成期間はとても短い。
お正月を思い浮かべて1年間の畑仕事をがんばるのもいいな。大豆はお味噌になってお雑煮に、もち米はおもちになる。

お味噌づくりをしてすぐ、蕗の薹をいただきました。どうやって食べようかな、お料理するのははじめてと迷っていたら、「蕗味噌にすれば?」と、あかねちゃんが言ってくれました。
蕗の薹は細かく刻むために、まず縦半分に割きます。断面を見ると、外からはわからなかった花の可愛さに気がつきます。ああ、これから花を咲かそうとしていたんだよね……。
蕗の薹を炒めて、味噌とみりんとお砂糖とお酒を混ぜて完成です。ごはん、豆腐、蒲鉾にちょこっとのせていただきました。大人になってよかったなとしみじみ思う春の味。いつものお味噌の変貌ぶりに驚きました。

今、住んでいる家には小さな畑があります。大豆と黒豆、育てられるかな? まずは柵をつくらないと。今夜も鹿の声がよく聞こえます。

●ますお