2022年1月から坂ノ途中のOnline Shopで取り扱いがはじまった〈アマモス・アマゾン〉のチョコレート Na’kauシリーズ。今回は、代表取締役の武田エリアス真由子さんにインタビューを行い、その原動力に迫りました。お話を聞く中で気づいたのは、産地に対する想いや農家さんとの関係づくりで海ノ向こうコーヒーと共通する点がたくさんあったこと。そこで今回は〈アマモス・アマゾン〉さんと海ノ向こうコーヒーとの接点を探ることで、組織の枠を超えたペアリングを試みたいと思います。

みなさん、チョコレートとコーヒーがよく似ていることはご存知でしょうか?果実の種が原材料であることはもちろん、発酵や焙煎を経て作られるなど、その共通点は数え切れません。この冬、坂ノ途中でも〈アマモス・アマゾン〉さんのチョコレートを取り扱うことになりました。〈アマモス・アマゾン〉さんはブラジル・アマゾナス州(以下、アマゾン)の自然と人々の暮らしを守るため、1つの土地で種類や高さの異なる農作物を育てることで、森を伐採せずに安定した収入を生み出す「アグロフォレストリー」の普及や野生種のカカオを使ったチョコレートの製造・販売などを手掛けています。その姿は産地に足を運び、農家さんと一緒に品質向上や環境保全に取り組む海ノ向こうコーヒーと通じるものがありました。
さらに〈アマモス・アマゾン〉さんの活動を知る中で驚いたのは、携帯も通じない・交通の便も悪いエリアで農家さんと関係を築き、独自の製造フローを作り上げたこと。現地では、気候などのちがいから一般的なカカオの作り方が通用せず、失敗のリスクも計りしれない状況を逆手に、新しいチョコレート産業を作り上げたそうです!彼らのお話からは、枠組みに捉われない身軽さと「アマゾンに還元する」という強い想いが見えてきます。武田さんたちを突き動かしているものとは?その原動力に迫りました。

アマモス・アマゾン株式会社


環境保全と経済の両立を目指すアグロフォレストリーの普及の経験と、アマゾン愛から設立された。産地に根付いた活動、日本とアマゾンをつなぐビジネス。双方を組み合わせることで、持続的かつ効果的なインパクトを生み出すことを目指している。

代表取締役 武田エリアス真由子


国際基督教大学(ICU)卒業後、民間企業で働いたのち、主にアジア·アフリカ地域における開発プロジェクトに従事するなかで社会・経済・環境が両立する仕組みへの関心を高める。2011年たまたま訪れたブラジルに「ここだ‼ 」と惚れ込み、アマゾンにおけるアグロフォレストリー普及事業に関与し始め、NPO法人クルミン・ジャポン設立メンバーとなる。2017年からプロジェクト実施&研究留学で現地に暮らし、年の1/3をアマゾンで過ごすなかでさらにアマゾン愛を高め、起業。東京大学大学院 新領域創成科学研究科 サステイナビリティ学グローバルリーダー養成大学院プログラム修士課程修了。研究テーマはアグロフォレストリーの世帯経済効果。

 



【INDEX】
1. 「ブレがあっても良いんだ」。アグロフォレストリーから始まったチョコレート作り
2. 行動を起こすものさしは、「アマゾンに還元する」こと。
3. 産地のストーリーを広く届けるために必要な心がまえとは。

「ブレがあっても良いんだ」。アグロフォレストリーから始まったチョコレート作り

海ノ向こうコーヒー(以下、うみむこ):〈アマモス・アマゾン〉さんの活動を拝見していると、活動のスタート地点がブラジルだと知りました。アグロフォレストリーの普及活動のはじまりから、カカオ栽培、チョコレート製造まで、はじまりはどんなきっかけだったのでしょうか。

武田エリアス真由子さん(以下、武田):もともと、NPO法人HANDS(以下、HANDS)で、定森というものがブラジルで最も貧しいアマゾン地域で医療や保健の支援活動をしていました。そののちに、私と定森でNPO法人クルミン・ジャポンを一緒に立ち上げて、〈アマモス・アマゾン〉につながっています。

当初は、HANDSの主軸である医療や保健分野から取り組もうとしました。しかし、いろんな問題の根底には貧困があって、生活が成り立たないなかで保健指導を行っても定着しづらいことに気づいたんです。同時期に、アマゾンの環境破壊も問題になっていたので、アグロフォレストリーの普及活動も行うことになって。そして2015年に、HANDSがブラジルから撤退することになったときに、定森とともにNPO法人クルミン・ジャポンを立ち上げて活動を引き継ぎました。そこから現地パートナーと野生種のカカオを使ったチョコレートの製造をはじめて、さらに販売活動を行うために〈アマモス・アマゾン〉を設立したという流れです。

アマゾンで生えているカカオの木

うみむこ:アグロフォレストリーのなかでも、どうして野生種のカカオにこだわっているんですか?

武田:アグロフォレストリーは通常の農業に比べて労力が大きく、世界的に見ても定着しづらい事実があります。私自身、農家さんにとってその大変さに見合うメリットがあるのか疑問を抱いていました。当時、大学院でアグロフォレストリーの経済効果について研究していたこともあり、毎月農家さんに家計簿をつけてもらい、その実態を調べることにしました。すると、アグロフォレストリーを行っている農家さんの収入が平均より高いことが分かりました。しかし、導入したからといってアマゾンのように市場アクセスが極端に悪い地域においては、適切に付加価値を上げて流通させないと儲かりにくいことも判明したんです。

では、アマゾンでなにを産業にすればいいのだろうかと新たな策を探っていたときに、カカオの野生種が生息していることが分かりました。野生種のカカオと品種改良種のカカオは見た目や種のサイズ、味、収穫の時期がまったく異なります。とくに野生種のカカオは種のサイズが小さいことから “効率が悪い”とみなされて、カカオオイル用に安価で取引されることはあっても、それ以外はほとんど価値のないものとして捨てられていたんです。

うみむこ:現地では、チョコレートの材料になるという認識もなかったのでしょうか。

武田:ありませんでしたね。チョコレートの原料となるために必要な「発酵」のプロセスが知られていませんでした。カカオはアグロフォレストリーで育てやすいし、なんといっても年単位で保存できるので国際マーケットに流通させやすいんです。なので、さらにカカオの栽培とその付加価値を高めるための加工(発酵・乾燥)に注力することにしました。ただ、アマゾンは物流コストが高いという問題も解決しなければなりません。

うみむこ:日常的にもボートで移動するんですよね。

武田:そう、現地には道路がないので車の7倍ものコストのかかるボートで移動します。集落も僻地に点在しているので、どこかに集めて加工することも難しくて。

うみむこ:通常、チョコレートが作られる過程では、農家さんが栽培したカカオを現地の業者が集めて大きな工場で発酵作業を行うと聞きました。

武田:そのフローだと、農家さんがチョコレートの原料提供者より上の立場になることはできず、収入も上がりにくい。経済効率を追求した工業型農業がアマゾンの森林を壊していることを考えると、工場を作ってカカオを画一的に生産する以外の道も探らないといけない。だから、農家のみなさんにはカカオの栽培だけでなく発酵作業も行ってもらうことで、未発酵のカカオより3倍以上の価格で買い取ることにしました。

うみむこ:アマゾンではかつてない取り組みだったのではないでしょうか。一方で品質やフレーバーにブレが生まれそうですね……。

武田:確かに、品質が安定しないというリスクはありますが、私たちは「ブレがあっても良いんだ」と、考えを振り切ることにしました。アマゾンで暮らす人々は集団で仕事をしたり、計画を立てることが得意ではなく、個人主義で野生的です。でも機械など何もない場所で暮らしてきたから、工夫することがとても得意。回を重ねるごとに品質が上がり、今では「自分のカカオだ」という責任感や自信にもつながっています。

行動を起こすものさしは、「アマゾンに還元する」こと。

うみむこ:農家さんにカカオ栽培から発酵まで伝えるって、ひとことで言っても大変だったと思います。どのように働きかけていったのですか?

武田:村で寝食を共にしながら、私たちの思いを辛抱強く共有していきました。実は、農家も含めて、アマゾンに暮らす人たちはとても疑い深いんです。

うみむこ:疑い深いとは?

武田:アマゾンは資源が豊富で、世界中から人々を惹き付ける場所です。リサーチに来る企業や研究者は多いけれど、その後採算が合わないなどの理由から戻ってくる人は極端に少ない。だから現地の人々は新参者に対して懐疑的です。私たちも、彼らが栽培したカカオを商品として継続的に購入できるようになってはじめて、本当に信頼関係を築くことができたと感じています。

うみむこ:カカオに着目して、チョコレートとして販売できる形になるまでにどれくらいの時間がかかりましたか?

武田:3年くらいですね。最初は一人の農家さんからカカオを買うことからスタートしました。カカオを発酵してもらうことにしてからは、ともかく試行錯誤のくり返しで。通常、カカオを発酵させる習慣のある地域では、それぞれの特性に合わせたプロトコル(手順)が存在します。しかし、アマゾンでは誰も野生種のカカオを発酵させたことがないので、そもそもプロトコルが存在しませんでした。ブラジル国内の他のカカオ産地で使われているプロトコルを用いてみても、当てはまらないことが多かった。だから、いちから作る必要があったんです。

うみむこ:それには、まったく新しいものを作るくらい労力がかかりそうですね。

武田:そうですね、現在も、私たちの技術指導者が年間を通じて彼らのもとを定期的に訪ねてフォローを行っています。カカオの栽培や発酵には手間がかかるし、全員がマスターできるわけではないので、他の農作物をブラジル国内に販売するお手伝いをすることもあります。

うみむこ:農家ごとにフォローの形が違うのですね。カカオ栽培はその引き出しの一つで。 さらに通常、発酵した後のカカオはヨーロッパや日本でチョコレートに加工されますが、〈アマモス・アマゾン〉さんでは現地にある工房と協働でチョコレートに加工する工程まで行っていると聞きました。

武田:以前から、農家、加工業者、消費者の距離が離れていることに疑問を感じていました。何かを改善したいときに一緒に考えられる距離感は大事なので、どうしても現地で加工するところまでやりたかったんです。実際、農家と加工業者が同じエリアに集まっているとすぐに改善できるから、チョコレートの味や質がどんどん向上していきました。

うみむこ:チョコレートに加工する工房とはどのように出会ったんですか?

武田:アマゾナス州にはチョコレートの工房が1か所しかなく、人伝いに存在を知ってアプローチしました。そこでも怪しまれながら関係づくりを始めましたが、工房の仲間が持つ現地ネットワークを通じて活動の幅が一気に広がりましたね。私がよそ者だからこそ担える役割があるし、現地にいる彼らだからこそできることがある。先日も、現地ではじめてカカオを育てる農家さんを集めたワークショップを開催しましたが、それも彼らがいてくれるからこそ実現できたことです。

うみむこ:これまでの過程を伺うなかで、業界の ”定石” が通じない状況で、新しい製造フローや体制を作り上げた。さらに、以前から疑問に感じられていたことに対する解決策を盛り込んだ点に驚かされました。そこで改めて、武田さんたちを突き動かす原動力は何だろうって。

武田:いやぁ、社名を「We love アマゾン」という意味を込めて〈アマモス・アマゾン〉にしましたが、この言葉通り、もうアマゾンに惚れこんでしまった。アマゾンが好きで好きで、そこに暮らす人たちも大好きなんです。

うみむこ:アマゾンのどのようなところに惹かれたのでしょうか。

武田:いっぱいありますが、現地に行くと生物に戻るというか、野生に還るというか。いろんな国で働いてきたけれど、アマゾンと出会って個人的にも生きやすくなりましたね。そして、私たちがアマゾンにほれ込んだ要素には、日本で暮らす人々にとっても大切なヒントがつまっていると思います。

うみむこ:〈アマモス・アマゾン〉のヴィジョンに ”「野生」に触れて、「野性」に還る。” と掲げているのも、武田さん自身の経験が反映されているのですね。

武田:そうですね、コロナ禍もあって1年半ほど訪問できていませんが、彼らのために動きたいと強く思います。実際やってみたらチョコレートに限らず、アマゾンで誰もビジネスをやろうとしなかったことが納得できるくらい大変で。採算やリスクを考えると、「絶対だれもやらない」と思います。でも、そこがものさしじゃないんですよね。

うみむこ:では武田さんにとって、行動を起こすものさしとは何でしょう?

武田:「アマゾンに還元する」ことですね。アマゾンを利用したビジネスはやりたくない。ストーリーを伝えるにしても何を売るにしても、アマゾンにちゃんと還元できるか、アマゾンに暮らす人々のためになるのかを軸に考えていきたいなと。

うみむこ:産地を一方的に消費しないという姿勢、本当に大事だと思います。

武田:とくにアマゾンは、メディアのドキュメンタリーや冒険記などで一方的に消費されることが多かったりしますね。つまり、私たちはチョコレート屋になりたいわけじゃなく、アマゾン屋になりたいんですよ、アマゾンのことを伝えてアマゾンに還元する。チョコレートはその手段の1つ。将来的には食品以外の事業もやるかもしれませんが、チョコレートを販売する以上は美味しさも追求していきたいなと思っています。

産地のストーリーを広く届けるために必要な心がまえとは。

うみむこ:コーヒーもチョコレートと一緒で、産地で栽培から発酵まで行っています。しかし品質管理が難しく、海ノ向こうコーヒーでも農家さんとコミュニケーションを取ってもなかなか通じ合えないこともあったりします。〈アマモス・アマゾン〉さんでは農家さんとどのように関係を作っていますか?

武田:ブラジルの、とくにアマゾン地域でビジネスをやるなら、何よりもまず友だちにならなきゃいけない。ビジネスライクな関係だと、物事が前に進みません。だからまずは友だちになって「私はあなたを助けたいし、あなたも私を助けてね」という関係を築きます。海ノ向こうコーヒーで扱っているアジアのコーヒー農家さんはいかがですか。

うみむこ:友だちになることも大事ですし、国によっても変わりますが、まずは農家さんに笑ってもらうことですね。それまでは本題に入らない。時間をかけて関係を築いて、できあがったものを買います。そこから現地のリーダー的存在とつながることではじめてコーヒー栽培の未来について話すことができるようになるんです。さらに、リーダーを中心にコーヒー栽培を盛り上げてもらうことで、コミュニティによっては大きく生産量が伸びたり、農家さんの収入がアップします。アマゾンでもそれぞれの集落にみんなを引っ張るリーダーのような方はいらっしゃいますか?

武田:インフルエンサーのような人はいますが、個人主義ではあるので、コミュニティをまとめる人はあまりいません。でも、年配の女性で饒舌なタイプの方が周囲を巻き込むのが上手で、リーダーのような存在になりやすいです。その人たちと一緒にいかに盛り上げを作っていくかが大事だと感じています。

うみむこ:もうひとつ、〈アマモス・アマゾン〉さんのパッケージには、農家さんの顔が描かれているのが印象的ですね。親近感があって、とてもいいなと思います

武田:ありがとうございます。もともとカカオはアマゾンの自然と農家さんがいないと存在しない、アマゾン原産のものです。なのに、チョコレートはヨーロッパのスターパティシエや多国籍企業主導で作られ、消費され続けている。私たちとしては、カカオの生まれ故郷でチョコレートを作っているからこそ、「アマゾンの自然や農家にもう一度スポットをあてたい」という思いがあります。その思いから、パッケージなどでは「源泉に近いチョコレート」という表現を使ったりしていますね。カカオ豆からチョコレートになるまでの過程を、トータルで手掛けるBean to Barチョコレートでそのような形で販売しているところはほとんどないので、私たちの特徴として注目いただいています。

うみむこ:商品の背景や農家さんたちの顔が見えてとてもいいですよね。その一方で、つくり手のストーリーも伝える難しさもありますよね。これは私たちの熱量や産地にどのような形で還元しているのかを伝え続けることが大切だと思っています。

武田:チョコレートもコーヒーも「日本で売るため」には、産地だけじゃなく市場のことも考えたりと、自分の頭を切り替えなきゃいけないシーンがたくさんありますよね。それをやりすぎるとどこに軸を置いたらいいか分からなくなっちゃうことも……。

うみむこ:私たちもいつも迷っていますが、農家さんと共同で生産しているという「共同生産者」、co-producerという意識が大切になるのかもしれませんね。私たちの意識改革もすごい大事で。コーヒーは美意識や感性で楽しむ側面もあるので、コーヒーにもチョコレートのような「気軽に楽しもう」という意識を取り入れたらもっと敷居が低くなりそうですね。

武田:チョコレートは敷居が低すぎて、ながら食いをしたり、ジャンクフードとして楽しまれることも多いんです。コーヒーみたいに1日何回も摂取する人もそんなに多くない。アメリカにくらべると、日本のBean to Barチョコレートの市場は1/10くらいという話しを聞いたことがあります。

うみむこ:Bean to Barチョコレートの市場は2010年代から盛り上がってきたので、これからもいろんな変化が起こりそうですね。コーヒー業界は先輩たちによる長年の努力のおかげで必需品に近い存在になってきましたが、まだまだ敷居を下げないといけない部分もあれば、産地のストーリーを発信し続けないといけない部分もある。その両方をバランスよく保つことが重要なのかもしれませんね。

武田:なるほど。ものを届けることに対してはまだまだ勉強中なので、今日お話しできてすごい面白かったです。

うみむこ:こちらこそありがとうございました!

最後に

お話を聞く中で武田さんの産地に対する想いに胸が熱くなり、インタビューが終わった後もしばらく感じ入ってしまいました。ほっとひと息つこうとコーヒーをすすり、Na’kau アマゾンチョコレートをぱくり。すると、口の中でコーヒーの香りとチョコレートの甘みが調和して、ぐっと味わい深く感じられました。同時に頭の中に浮かんだのはコーヒー農家さんとカカオ農家さんの笑顔、そして豊かな自然が織りなす産地の風景。バレンタインに向けて、「たくさんの方にチョコレートとコーヒーをお届けしたい」という気持ちを新たにしたのでした。