オバンザイプレートにブッダボウルに……坂ノ途中のお野菜がたくさん。アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカ、世界中の人たちが訪れる、京都・鴨川のほとりの陽のあたるヴィーガンフードのカフェを訪れました。


「外国人のお客さまがすごく多いんですね」
 平山雄一さんは笑いながら言った。
「そのおかげで悩んでいることがあって……」
 京都の七条通、鴨川にかかる七条大橋の西のたもとにあるカフェ、Veg Out(ベグアウト)。静かな空気がふんわりと流れる。大きなガラス窓が鴨川を望むように並び、なんだか川べりに腰を下ろしているみたいな感覚。リラックス。
 平山さんはこの店でディレクターとして働いている。
「難しい料理があるんです。オバンザイプレートっていうメニューで、大皿にいくつかの料理が並ぶんですが、そのなかに、豆腐に刻んだオクラとモロヘイヤをのせたものがあって……アジア系のお客さまはいいんですけど、欧米のお客さまにはわりと残されちゃって」
 平山さんはぶつぶつと言った。
「食感なんでしょうかね。僕たち、日本人の味覚でいったら、すごく美味しいんですよ。豆腐も野菜もすごくいいものだし……なんでなのかなあ」
──オープンされて何年になりますか。
「ちょうど4年になります」
──ヴィーガンフード、ベジタリアンフードのカフェというスタイルは、そのときから?
「そうです。この店の階下に、TAMISAというヨガスタジオがあるんですが、そこが経営母体なんですね。
 ヨガでは食事を大事にしていて、スタジオの生徒さんや外国人の先生とかにベジタリアンの方が多かったり、そういうつながりでオープンしたと聞いています」
──どういうお客さまが来られます? ヴィーガン、ベジタリアン、それとも肉でもなんでも食べるけれど、美味しい野菜料理が食べたいという人たちですか。
「朝と昼は、ヴィーガン、ベジタリアン系のお客さまが多いかな。ただ、僕らとしては、こういう食事法があるよ、くらいの感じで、いろいろな人に来てもらいたいと思っているんです」
──料理そのものを楽しんでほしい?
「そうです。なによりカフェとして魅力的なカフェであることがいちばんだから。
 あの、たとえばヴィーガンの人たちが大事にしていることって、ざっくりと3つあって。健康、環境、それと動物愛護と言われているんですね。その考え方を僕たちは否定はしませんが、でも、思想の方だけに行きすぎてしまわないように、バランスは考えています」
──なかには、すごく求道的な人たちもいますよね。
「デモをしたり、衣食住すべてにおいて動物性のものを使わない、そういう考え方があることは認めますが……。
 お店のスタッフも全員ヴィーガンっていうわけではない、雑食というか、格好良くいうとフレキシタリアンです。お肉を食べることもあるし。いろいろな食を学ぼうというところですね」
──お料理の味についてはどう考えていますか。美味しいことは当然としても、その美味さをどう判断しているのかっていうことですけど。
「お客さま、ほんとに世界中の方なので、イタリアンやフレンチや中華のエッセンスは取り入れたりしてます。ただ、京都という歴史のある町のお店なので、京都っぽいというか、日本的なものを必ず少しは入れるようにしていますね」
──日本だと、あの、精進料理っていうジャンルがありますけど、それとは少し違ってますよね。
「そうですね。ヨガも精進料理と関係が深かったりして、年輩のお客さまはそういうイメージを持たれている方も多いみたいです。うちのプレートは結構カラフルなので、驚かれますよ。おー、これ肉使ってないの? みたいに。味気ないっていう感じのイメージにならないようにと思っています」
──食材、お野菜はどんなふうに選びます? 京都といえば京野菜があったりしますけれど。
「食材は、できるだけ地産地消というか、京都近郊で、オーガニックという部分を大事にしています。
 とにかく新鮮な野菜を使いたいんですね。ブッダボウルというメニューがあるんですが、サラダどんぶりみたいな感じで、もう野菜そのままだったりするので。今、そんなふうに野菜本来の味を楽しめるメニューをみんなで考え中なんですよ」

──平山さんご自身のことを伺いたいんですが。ヨガをする人、ヨギですか?
「全然です。年に2回ぐらいかな。うちの奥さんがヨガのインストラクターをやってたり、近いところにヨガがあるおかげで。
 食にも以前はあまり興味がなかったんです。ただ、コーヒーがすごく好きだったので、Veg Outにはバリスタっていうポジションで入ったんですよ」
──あの、お店、入られるまではなにを?
「オーストラリアの東端にバイロンベイというビーチタウン、海沿いの町があるんですが、ワーキングホリディを利用して2年ほど滞在していました。ヒッピーの聖地とか、スローライフの町って呼ばれているところなんですけど、そこでの暮らしが、僕の考え方やものの見方に大きな影響を与えたと思います。
 もう、初日、行った日からすごくピタッとくる感じがあったんです。スーツ着てる人とかまずいない、サーファーやアーティストみたいな人ばっかり。高い建物もなくて、ちっちゃいお店がたくさんある。クラフト系の店とか八百屋さんとか魚屋さんとかね。なんか、足るを知るっていう生活だったんです。十分に満たされる。
 だから、日本に帰ってくるとね、むちゃくちゃモノが多いなあと。たとえば歯磨き粉を買おうと思ってスーパー行くと、歯磨き粉むちゃくちゃいっぱいある、なんだろう、常に購買意欲を掻き立てられてしまう。日本では、なにが大事かって考えるより先に、そのモノが欲しくなってしまうんですよね、そんなことをすごく感じました」
──ご出身は京都ですか?
「福島のいわき市です。千葉で大学に通って、仕事で横浜に住んで、そのあとワーキングホリディ」
──仕事というのは?
「小学校の教員だったんです」
──先生。
「はい。日本に帰って来てからも大阪と京都で先生を3年ほどやって、それからここ」
──どこで暮らすか、その場所を探すみたいな感じだったんですか?
「ワーキングホリディのあと、次に住むなら何処かなって考えたときに、海沿いで小さくて、サーフカルチャーもあるところいうので、鎌倉、逗子、葉山あたりはどうかなと思って探してたんですけど、たまたま奥さんと出会っちゃって。奥さんが京都だったので、まあそれも縁かなというので、京都に」
──ヒッピーカルチャーって、自分に対して生き方を問い直すみたいな、そんな一面がありますよね。
「そうですね。バイロンベイには、精神世界を探求しつづけているような人がたくさんいました。世界中を旅している子とか。
 僕は地に足をつけて生活をしたいと思って日本に帰って来たんですね。バイロンベイだったら、べつになにもしなくてもハッピーで心地よい暮らしができるんだけど、あえて日本でそんな暮らし方をしたいなと。日本はストレスも大きいですけど、そのなかで自分の好きなライフスタイルをつくることになにか意味があるんじゃないかと思って。難しいんですけど。
 この店に勤めるようになったのも、自分が目指してるところと、店の目指してるところがリンクしてると感じたからなんですね。コンセプトだけに寄らず、ビジネスだけに寄らず、みたいな。こういう店って、これまでにもあったと思うんですけど、なにかを突き詰め過ぎると駄目になる。続けることが今は大事だと思っています」
──バランス。
「そうですね。全体のなかで生きるというか、自分が、自分たちが、今、どこにいるのかっていう感覚は大事にしたいと思います」
──食に関してはどうお考えですか。バランスを意識すること、つづけることが大事だという意識のうえで。
「ストイックに食生活を制限するのは嫌、そこで生まれるストレスの方が大きいんじゃないかと思ったりするんですよ。ただ、無農薬とか、添加物の入っていないものは食べた方がいいと思う。できるだけ。うん、できるだけっていうところで僕はいいかなと思っているんです。70点、80点合格だったらいいかなぐらいの感じで、それをできるだけ長くつづけていったらいいんじゃないかなと」
──カラダが欲しているものを食べるということについてはどう思います? ヨガって、自分のカラダや心の感覚を敏感にしていくようなイメージなんですが。
「らしいですね(笑)。ヨガをやってる人って、この店のオーナーもそうですけど、いろいろなことが感じやすくなるみたいで、みなさん過剰に食べたりはしないみたいです。
 僕も影響を受けてライフスタイルがずいぶん変りました。必要じゃないもの、欲していないものは買わなくなった。買い物するにしても、作った人の顔が見えたり、気持ちのこもったものに対して、ありがとうっていう感じでお金を出すというか。この店も、そんなふうでありたいと思っているんです」
 坂ノ途中のお野菜はどうですかと訊ねると、平山さんは、顔がよく見えますと言った。
「僕らも季節のお野菜、旬のお野菜をどんどん使っていきたいなという方向で考えてるんです。こんなお野菜入りますよとか、お電話いただいたり、すごく丁寧に対応していただけるので助かってます」
 もっといい野菜を持ってきてって思わないんですかと冗談混じりに言うと、平山さんは慌てて首を振った。
「そんなこと、思ったことないですけど」
 けど……?
「あの、野菜の料理っていうので、坂ノ途中ホームページのレシピとかインスタとか、拝見してるんです」
 ひょっとして豆腐とオクラとモロヘイヤ?
 平山さんはふふふと笑った。
● いちばん人気のオバンザイプレート 1,500円(税別)。大皿に並ぶのは、平山さんを悩ませている、豆腐とオクラとモロヘイヤ。ほうれん草のゴマ味噌和え。ニンジンのカルボナーラにはニュートリショナルイーストを。ラタトゥーユ。じゃがいもの粒マスタード和え。ソイミートには自家製のソイマヨネーズを。ラディッシュ、ミニトマト、かいわれ大根、キヌア、レンズ豆のサラダ。玄米。ルックスも、そして味わいも、とてもカラフルです。
 
Veg Out
住所 京都府京都市下京区稲荷町448 鴨川ビル 1F
TEL 075-748-1124 
営業時間
・Morning 8:00〜11:00
・Lunch 12:00〜15:00
・Cafe Time 15:00〜17:00
・Dinner 18:00〜21:00(LO20:00)
月曜定休