甘みをたくわえた、春のアスパラガス
九州の暖かな海に囲まれた長崎・島原半島から、やわらかで甘みのある、春のアスパラガスをお届けします。
アスパラガスは冬のあいだ、根や地下茎に養分をたくわえ、春、暖かくなると地上に芽を出します。通常は年に2回、春芽と夏芽の収穫がありますが、春芽はとくに甘みたっぷりで、青々と香り豊か。穂先はほっくり、根元はしゃきしゃきの食感が楽しめます。
農家さんのおすすめの食べ方は、そのまま素揚げや炭火焼きにして、お塩をぱらり。シンプルな調理でアスパラガスの風味がさらに引き立ちます。
今だけの、みずみずしい春の味をお楽しみください。
暖かな陽のあたる南島原で、すこやかに育てる
三方を海に囲まれ、中央には雲仙岳がそびえる、長崎県南部の島原半島。
〈長崎有機農業研究会〉の近藤慎二さんは、半島の一番南側、南島原市でアスパラガスの栽培を中心に農業を営んでいます。
アスパラガスは、たった1日で15cmも伸びることがあるほど、生育旺盛なお野菜。この生長を支えるためには、肥沃な土壌をつくり、たっぷりの水と太陽のひかりを与えることが大切です。雲仙岳の伏流水に恵まれ、半島の南端で日照時間が長い南島原の土地は、おいしいアスパラガスが育つ条件が揃っています。
近藤さんにアスパラガスの栽培について訊きました。
|微生物を生かした土づくり
もともとは粘土質だという近藤さんの畑の土。水や肥料のもちは良いけれど、固くなりやすい土質でもあります。そこで、牛ふん堆肥や焼酎のしぼり粕、かき殻石灰などの有機質肥料をすき込んで、やわらかく、通気性の良い土になるよう手を入れています。投入した肥料分は、土のなかの微生物が分解し、アスパラガスの養分に。「土壌の肥料分のバランス、菌(微生物)がはたらく環境をととのえることで、味わいも良くなります」と近藤さん。ときには土壌分析で土の成分を調べ、必要なものを必要なぶんだけ与えるよう心がけています。
|たっぷりと水を与える
アスパラガスの生育に欠かせないのが水やり。近くのため池や川から水を引き、毎日たっぷりの水を与えます。水を撒いたところに日光が当たってハウス内の湿度を保つほか、病害虫の発生を防いだり、土中の微生物のはたらきを良くするといった効果も。
こうして、アスパラガスがみずみずしく健やかに育つ環境をととのえます。
|地道な草抜きで、根元から青々と
「アスパラの栽培の秘訣は、草抜きと根性だ」と師匠から教わったという近藤さん。除草剤を使わない手作業での草抜きは、手間も時間もかかりますが、根気強くおこないます。そのまま放っておくと、肥料分を取られてアスパラガスの生育が悪くなり、収穫効率も落ちてしまうのです。最近は、身体に障がいをもつ方にも手伝いに来てもらって共に作業をしているそう。草を取り除くことで、アスパラガスに太陽のひかりが当たり、根元から青々と色づくようにもなります。
つくり手のこと
長崎有機農業研究会 近藤慎二さん(長崎県南島原市)
長崎県南島原市に生まれ、農家の次男として育った近藤慎二さん。父親は、長崎有機農業研究会のひとりでした。近藤さんは兄が農業を継ぐと考えて農業の道には進まず、自動車などの整備の仕事をしていました。5年ほど働き、このままでいいのだろうかと思い悩んでいた25歳のころ、父親から「将来は地元に帰ってきたらどうだ」と声をかけられます。農家を継いでくれと言われたわけではありませんでしたが、近藤さんは地元に戻り、就農することを決意しました。
農業の知識はほとんどない状態からのスタートでしたが、農業研修の学校に通い、アスパラガスの専業農家さんのところで基礎を教わって、農家として独立しました。
アスパラガスは病気にかかりやすいお野菜。化学合成農薬も化学肥料も使わずに栽培する農家さんはほとんどいないのが現状です。近藤さんは、有機農業の知識を自ら学び、どうすればアスパラガスの栽培に落とし込めるのかを模索し、試行錯誤しながら、日々の畑仕事に取り組んでいます。「気合と根性でどうにかなる!」と明るく話す近藤さん、根気のいるアスパラガスの栽培が性に合うようです。
アスパラのおいしいレシピ
また手にとりたくなる野菜について
美味しく育つ、理由がある
日本の風土は多様です。
暖かな風と日光に恵まれたところ、ずっしりと雪が降り積もるところ、豊かな森と海に囲まれたところ――。
気候や地形、土壌によって、育つ作物もさまざまです。
その土地の特長を生かしながら、手をかけて育てられたお野菜は、うんと美味しい。
たとえば、瀬戸内海の無人島で日光をたっぷり浴びたまろやかなレモン、鳥取・大山のジンジンとする寒さのなかで甘みの増したキャベツ、対馬の海風を受け栄養を蓄えた原木で育った香り高いしいたけ。
「また手にとりたくなる野菜」では、そうした、美味しい背景、ストーリーをもったお野菜やくだものをお届けします。お料理をつくりながら、食卓を囲みながら、「農家さんはこんな人なんだって」「こういう場所で、こんな工夫で育てられているんだよ」「また食べたいね」そんな会話のきっかけにもなれば、とても嬉しいです。