夏を幸せにしてくれる、きゅうり
大阪府最北の町、能勢町(のせちょう)。
うつくしい山あいの里山で農業を営む〈TOBI FARM〉さんから、歯ざわりがとってもいい、ジューシーなきゅうりが届きました。
汗が頬をしたたるような日、冷やしたきゅうりに塩をふってかぶりつく。「ぱりっ!」と元気な音がして、口いっぱいに水分が広がる。鼻を抜ける青い香りとやさしい甘み。おいしいきゅうりがくれる、とびきりの幸せです。
大阪最北端の町から
TOBI FARMさんのある能勢町は、京都府・兵庫県に挟まれた、大阪府の北の端っこ。大阪や京都の中心地にも車で1時間程度と便利なところですが、山々に囲まれた、静かでおだやかな里山です。
標高が350~400mと高く、昼夜の気温差が大きいこと、豊かな自然に恵まれ、「三白三黒」と呼ばれる特産物も。お野菜も、この寒暖差でじっくりと味わい深く育ちます。
根っこから地上まで。本来のきゅうりの味わい
きゅうりは、病気にかかりやすいお野菜です。土のなかの微生物は、土を豊かにしてくれる一方で、お野菜に病気をもたらすものもいます。そのため、一般的なきゅうりの栽培では、同じウリ科で病気に強いかぼちゃを台木にして、上に接ぎ木した苗がよく使われています。
TOBI FARMの飛坂佳祐さんは、種からきゅうりを育てていて、根から地上まで同じ株。かぶりついたときに歯がサクッと入る食感の良さは、根っからのキュウリならでは。気づけばまるまる一本、夢中で食べてしまいます。
支えとなるネットに“つる”を伸ばして掴まりながら、夏のあいだ上へ上へと成長していくキュウリ。最初に伸びる親づる、親づるから出た子づる、そして孫づると順々に花を咲かせ実をつけていきます。うまく育つと、ひと夏で収穫できるのは1株から100本ほど。成長を助けるため、役目を終えた古い葉をとり、不要な芽もとる。木が倒れないようにネットに固定したりと、収穫しながらもお世話がつづきます。
つくり手のこと
TOBI FARMの飛坂さんは大阪出身。砂漠緑化への興味から大学は農学部へすすみました。在学中に農家さんを訪ねたときにふと「畑にいるのっていいな」と感じ、いつか農業を、という思いを持ちながら就職。その機会は思ったより早く訪れました。東京の木材販売会社で営業を経験したのち、23歳で転職、地元大阪に戻ってきました。
ベテラン農家さんのもとで2年研修を積み、26歳のとき能勢で畑を借りて独立。
「能勢の研修先には独立した先輩が何人かいて、その人たちが地域でしっかりやっているから、僕も信用してもらえて、土地を借りることができました」
その土地とゆかりのない新規就農者がやっていくには、地域の人たちからの信頼が大切です。仕事ぶりが地域の人たちに認知され、信頼され、農業を営む足がかりになります。今も先輩たちとは仲良く、道端で情報交換する仲だそうです。
28歳(2022年6月時点)という若さですが、畑は美しく整備され、丁寧にお世話されている様子がきゅうりの木からも伝わってきます。植物の性質への理解に基づいた栽培方針は、合理的でシンプル。プロフェッショナルな仕事ぶりは、坂ノ途中に届けられるお野菜からも感じられます。
「自分はあんまり目立ちたくないのですよね。主役はあくまで野菜。僕の仕事はサポートです。種から育てているのも、味というより、生育のサポートとコントロールがしやすいから。生育の補助をして、きれいに整えて、きちんと出荷するところまでがプロの仕事です」
その結果として“おいしい”がある。
謙遜するふうでもなく「当たり前にやっているだけなんだけどなぁ。きれいに作れば、おいしいものができると思う。野菜は素直だから」と話す、どこまでも真面目な飛坂さん。今では夫婦ふたりで、野菜をサポートする毎日です。
いちばんおいしいと思う食べかたを聞いてみると、やっぱり「塩をかけて生でかぶりつく」。お気に入りの塩を用意して、とっておきの夏をお楽しみください。
きゅうりのおいしいレシピ
坂ノ途中スタッフにも人気のレシピ。
カリッとスパイシーな衣に包まれたきゅうりはとってもジューシー。生のままとはまた違う食感で、癖になります。
すりおろし器を使って、気軽につくれるきゅうりのスープ。夏バテ気味な日の朝にもさらりと飲めて、元気が湧いてきそうです。
そのままかじっても美味しい旬のきゅうりを、ソースに仕立てたレシピです。
きゅうりをすりおろしてレモン汁とナンプラーを加えると、さっぱりした爽やかな風味が引き立ちます。
ほかにも、きゅうりのレシピをこちらでご紹介しています。
試してみてくださいね。
また手にとりたくなる野菜について
美味しく育つ、理由がある
日本の風土は多様です。
暖かな風と日光に恵まれたところ、ずっしりと雪が降り積もるところ、豊かな森と海に囲まれたところ――。
気候や地形、土壌によって、育つ作物もさまざまです。
その土地の特長を生かしながら、手をかけて育てられたお野菜は、うんと美味しい。
たとえば、瀬戸内海の無人島で日光をたっぷり浴びたまろやかなレモン、鳥取・大山のジンジンとする寒さのなかで甘みの増したキャベツ、対馬の海風を受け栄養を蓄えた原木で育った香り高いしいたけ。
「また手にとりたくなる野菜」では、そうした、美味しい背景、ストーリーをもったお野菜やくだものをお届けします。お料理をつくりながら、食卓を囲みながら、「農家さんはこんな人なんだって」「こういう場所で、こんな工夫で育てられているんだよ」「また食べたいね」そんな会話のきっかけにもなれば、とても嬉しいです。