海風香る丹後で育つ、紅はるか
日本海にぽこっと突き出したような丹後半島。天橋立や舟屋で有名な伊根町、間人ガニや伊根の寒ぶりなど、どことなく海のまちを思わせる丹後ですが、内陸ではお米や野菜など農業の盛んなところでもあります。
京丹後市へ32年前に移住し、農業を営む岡嶋泰明さんから、上品な甘みの紅はるかが届きました。担当するバイヤーの大のお気に入り。胸を膨らませながら待つ、出荷の時期がやってきました。まずは焼きいも、あとは蒸して、あ、お菓子にも使いたい。冷やすとしっとり感が増して、濃厚な甘みが楽しめる。さて、どうやって食べようかと考えるだけで心が踊ります。
赤土と風がはぐくむ
数年ほど前から、焼き芋専門店がたくさんできるなどさつまいもの人気が高まっています。その火付け役はなんといっても紅はるか。糖度が高く、しっとりとした食感が特徴で、2010年にあたらしく登録された品種です。岡嶋さんはブームよりも前に、紅はるかのおいしさの虜になり、ずっと育て続けています。
「さつまいもは赤土が向いてるんや」
岡嶋さんは話します。手ですくってみると、砂と混じり合った赤みを帯びた土。これは、鉄と酸素が結合した、酸化鉄というミネラルを含んでいるから。そして砂まじりであることで水はけがとても良い。土の中で、紅はるかが大きく甘く育つ条件が揃った畑です。
畑に立っていると、山の向こうから風が吹きました。それは、砂浜を歩いたときのような潮の香りです。
「その山の向こうは日本海やから、風に乗って香りがするやろう」
周囲より少し小高い丘の上に畑があるので、遮るものなく、風もよく吹いてくるのだそう。農薬に頼らない農業は虫や病気のリスクがありますが、風通しが良いと病気も起こりづらくなり、この潮風が甘く粘りのあるおいしい紅はるかを育みます。
つくり手のこと
岡嶋さんは大阪生まれ。前職は大阪で会社勤めをしていたそうです。都会暮らしをしてきたから田舎暮らしへの憧れが強く、奥様の希望もあって丹後に移住しました。それから30年以上、いろんな野菜を作って家族のため努力をして、農薬や化学肥料に頼らない農業を続けてきました。
「当時は今みたいな新規就農の補助金もないし、機械を買うのも大変やったねえ」
農薬を使わないので、虫にも食べられるし雑草も生える。異業種から農業に飛び込んで30年以上、ここまで楽な道ではなかったと言います。それでも、食べてくれる人がおいしいと言ってくれるとやっぱり嬉しかった。岡嶋さんは、さつまいも以外にも、自慢のにんじん、聖護院かぶ、聖護院だいこんなど根菜を中心に育てていますが、どれも柔らかくておいしいと評判です。
おいしい理由は、やはり土。毎年10月には落花生も出荷してくれる岡嶋さん。落花生をはじめとするマメ科植物の根には「根粒菌」という菌がいます。根粒菌は植物の栄養になる窒素を、植物が利用できる形に変えて植物に供給します。
岡嶋さんは、落花生の収穫が終わったら残った茎葉や根を土の中に戻し、来年のための土の準備をします。丹後にしんしんと雪が積もる冬のあいだ、その下では微生物がしずかに有機物を分解していきます。春になったら土を掘り起こして混ぜ、紅はるかを育てる準備が整います。いろんな作物が土づくりに関係しあい、また微生物の働きもあり、この畑でしかできない味わいがあります。
お客さまのお声
土を落とすと現れる綺麗な赤紫に、うっとり。1kgで、サラダ・芋チップス、クッキーにスイートポテトと料理にお菓子に、沢山作ることができました。しっかりしたお芋の甘さで、どれもシンプルな調理で大人もこどもも喜ぶおいしさ。特に驚いたのは、蒸した時の甘さ。紅はるかは、蒸し芋にしたときの糖度が高いそうで、冷めてもおいしいというのは、納得!蒸しサラダやスイートポテトは、まさにしっとり、ねっとり。他のお芋との違いを実感できました。また手に取りたい。やみつきの美味しさでした。(坂ノ途中アンバサダー @aotoai.kurashi さん)
岡嶋さんおすすめのおいしい食べ方
一番好きなのは、紅はるかの甘みを活かした大学いも。バターを焦がしてソテーする、焦がしバター芋もおすすめとのこと。また、炊飯器で蒸すと一番甘くなるよ、とも教えてくれました。
「甘いもん好きやから」
と、ちょっとはにかみながら教えてくれた岡嶋さんのおすすめの食べ方、ぜひ試してみてくださいね。
焼きいものつくり方
■オーブントースター編
1)さつまいもをよく洗い、アルミホイルで包みます。
2)オーブントースターで40~50分ほど焼きます。
■炊飯器編
1)さつまいもをよく洗い、炊飯器に入れます。さつまいもがかぶるくらいまで水を入れ、早炊きコースで炊飯します。※早炊きコースがなければ通常の炊飯でもかまいません
2)炊飯が終了したらさつまいもを取り出し、グリルで皮に焦げ目ができるまで焼きます。
保存のポイント
さつまいもは低温に弱いお野菜です。袋から取り出し、新聞紙やキッチンペーパーでくるんで、直射日光の当たらない涼しく風通りのよい場所で保存してください。
さつまいものおいしいレシピ
晩御飯の主役にぴったりのおかずコロッケです。外はカリッ、中はほくほく。熱々を召し上がれ。
焼き芋からつくる、芋ようかん。おいもをそのまま食べているような、しっとり、ほっくりとした食感、濃厚な甘みを味わえます。お好みのお茶を淹れてひと息、おやつにどうぞ。
冬の晴れの日に、お家で干しいもをつくりませんか?
手順はシンプル、おいもを蒸して、切って、干すだけ。大人も子どもも楽しめる、やさしい甘みのおやつです。
ほかにも、さつまいものレシピをこちらでご紹介しています。
試してみてくださいね。
また手にとりたくなる野菜について
美味しく育つ、理由がある
日本の風土は多様です。
暖かな風と日光に恵まれたところ、ずっしりと雪が降り積もるところ、豊かな森と海に囲まれたところ――。
気候や地形、土壌によって、育つ作物もさまざまです。
その土地の特長を生かしながら、手をかけて育てられたお野菜は、うんと美味しい。
たとえば、瀬戸内海の無人島で日光をたっぷり浴びたまろやかなレモン、鳥取・大山のジンジンとする寒さのなかで甘みの増したキャベツ、対馬の海風を受け栄養を蓄えた原木で育った香り高いしいたけ。
「また手にとりたくなる野菜」では、そうした、美味しい背景、ストーリーをもったお野菜やくだものをお届けします。お料理をつくりながら、食卓を囲みながら、「農家さんはこんな人なんだって」「こういう場所で、こんな工夫で育てられているんだよ」「また食べたいね」そんな会話のきっかけにもなれば、とても嬉しいです。