「おとうさんに問題です!」
息子がにこにこしながら言った。
「キュウリを擦ると、なにが出るでしょうか?」
クイズが大好きな息子は、本や友だちから新しいネタを仕入れては、父を試そうとする。
キュウリを擦ると出るもの……まほうのランプから出てくるアラジンが浮んだけれど、それは違うし……頓知なのかなんなのか、いくら考えてもわからない。悔しいのでだまっていると、息子は、してやったりという表情を浮べた。
「正解は、泡でした!」
泡? バブル? 全然ピンと来なくて、息子に訊くと、じつは本人もほんとうかどうかわからないという。よし、冷蔵庫にキュウリがあるから、やってみよう。

元気のよさそうなキュウリを2本、野菜室から取りだして、息子とふたりで擦っていると、奥さんが仕事から帰ってきた。
「なにやってんの? なにかの儀式?」
息子は、キラキラとした顔で自信たっぷりにこたえた。
「キュウリを擦ると泡が出るんだよ」
奥さんは、ふうとため息をつくと、僕らの手からキュウリを奪いとり、なにも言わずにキュウリのヘタを包丁で切り落とし、それぞれの切り口を擦りあわせた。そして、数秒後に、キュウリを目の前に差しだした。
「これのこと?」
切り口のまわりには、細かい泡ができている。なんだか思いうかべていたのとはまるでちがう。僕と息子はだまって居間にもどった。

キュウリだらけの夕食のとき、奥さんが教えてくれた。
泡の正体は、ククルビタシンという、苦みや渋味を多くふくんだ水分で、擦りあわせて外に出す。キュウリを美味しく食べられるように。でも、それはむかしの話で、最近はキュウリの品種改良がすすみ、そのまま食べても苦みなどを感じることは希だという。
へぇ〜と感心しながら、泡を出したあとのキュウリをいただきました。
いつもより、少しだけ美味しいような気がした。

●ケンゾー

やまあいでもキュウリを育てています。来週あたりには収穫なので、子供たちと、どんな泡を出すのか、見てみようと思います。