わが家にはじめてのペットがやって来た。
小さいころは実家で犬を飼っていたけれど、今は子どもを育てるのも大変だからペットなんてとても無理だと諦めていたら、妻の知り合いのタネ屋さんから声をかけられた。
「メダカは手間がかからないから。暑くても寒くても平気だよ」

タネ屋のおじさんは、近所のお祭りのときにメダカすくいをするつもりでせっせと育てていたら、お祭りが中止になってしまい、メダカが溢れているという。
訪ねると、水草の浮いた発泡スチロールの箱がずらりと並んでいた。
「水草を入れて、砂利を敷いておけば、あとは放ったらかしでもいいくらい」
そう言われて受け取った容器には、思っていたよりもたくさんのメダカが入っていた。
数日前に買っておいた水槽にメダカを入れると、そこは生きもののいる空間になった。空き家が、人が棲むようになって空気が動きはじめたような感じ。
餌を食べる姿がとても可愛い。水槽のキットに付属の説明書には、2,3分で食べきれる分量をあげて下さいと書いてある。でも、あげてもあげてもすぐに食べきってしまうので、適量がむずかしい。

2週間ほどが過ぎた土曜日の朝、子どもが異変に気がついた。
「メダカが死んでる」
水槽の底に、白いお腹を見せて横たわっているメダカが2匹。ぐったりとして水草に寄りかかっているのが1匹。ほかのメダカもなんだか元気がない。
ひと晩明けた日曜日、また数匹が死んだ。
慌てていろいろ調べているうちに、水槽の大きさが気になった。数匹を飼うつもりで用意していた水槽は、あきらかに小さくてメダカは密な状態だった。フィルターで濾過していても、水は濁っているように見えた。
ホームセンターに走って、トロ舟(左官の人たちが、セメントやコンクリートを練るときに使う浅くて四角い容器)と砂利、水草、替えフィルター、水槽用の照明器具を買った。
軒下にトロ舟を置き、カルキ抜きをした水を張り、洗った砂利と水草を入れて、メダカの引っ越しをする。カエルがメダカを食べてしまうらしいので、バーベキュー用の網で蓋をしたころには、あたりはすっかり暗くなっていた。

翌朝、メダカたちは新居で何事もなかったかのようにのびのび泳いでいた。本来、メダカは上から眺めて鑑賞する魚だといわれているけれど、納得。スイスイという音が聞こえてきそうな独特の泳ぎ方が美しい。
死んでしまったメダカには申し訳ないけれど、こんなふうに家族って増えていくのかなと感じたときだった。

●ケンゾー